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「脱炭素へ、今必要なのはEVよりハイブリッド車」欧米が絶対認めたくない"ある真実"

プレジデントオンライン / 2021年11月14日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nrqemi

「人類の未来のために脱炭素社会の実現を目指す」というビジョンに異論はないだろう。その一方で、急激な変化が原油価格の高騰、LNG争奪をはじめ世界同時多発的なエネルギー危機を引き起こしている。「10~20年というレンジで考えたとき、ハイブリッド車の効果を再評価すべきだ」と自動車業界に詳しいマーケティング/ブランディングコンサルタントの山崎明氏は指摘する──。

■「ハイブリッドは時代遅れの技術」は本当か?

COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が開催され、脱炭素化の話題がまた盛り上がっている。

脱炭素の話になると決まって出てくるのが、「日本の自動車メーカーは脱炭素に消極的だ」「遅れている」という議論だ。そういう主張をする人はテスラが最も進んでいて、欧州、特にドイツの自動車会社がそれに続いているという認識のようだ。

日本のメーカーが遅れていると言う人の主たる論点は、日本のメーカーはハイブリッドには力を入れているがEVには消極的というものだ。ハイブリッドはもう時代遅れの技術であって、EVこそ最新の技術だ、という主張だ。だからEVを積極的に売ろうとしない日本のメーカーは取り残される、という。

果たして本当だろうか。ここでハイブリッドとはどういう技術なのかをあらためて考察してみたい。

■ハイブリッドの方式は大きく2つある

ハイブリッドとは、異種のものを組み合わせた仕組みをいい、自動車の世界では内燃機関と電気モーターを組み合わせたものを一般的にハイブリッドと呼んでいる(以下、内燃機関をエンジンと記す。ちなみに英語ではエンジンとモーターは同じ意味で、電気モーターをエンジンと言うこともある)。

ハイブリッドといってもその仕組みにはさまざまな種類がある。大きく分けると「シリーズハイブリッド」と「パラレルハイブリッド」という2つの考え方がある。

シリーズハイブリッドとはエンジンで発電し、その電気で駆動用電気モーターを回すというものだ。パラレルハイブリッドとはエンジンによる駆動と電気モーターによる駆動を切り替えて走る方式のことをいう。

一般的には、電動は低速時に効率に優れ、高速時はエンジンのほうが優れているためそのように切り替えることが多い。さらには発進時のみ電気モーターを補助的に使う簡便なマイルドハイブリッドもハイブリッドの一種として扱われている。

■トヨタ・ホンダ・日産の違い

それでは日本メーカーのハイブリッドはどのようなものなのか。

ハイブリッドといえばトヨタだが、トヨタのシステムはシリーズハイブリッドとパラレルハイブリッドの両方の利点を兼ね備えているシステムだ。

エンジンは発電用モーターと駆動輪に遊星ギアでつながれていて、その力の分配をシームレスに変化させられるようになっている。発進はバッテリーに蓄えた電気のみで行い、エンジンがかかっても低速ではエンジンの力はほぼ100%発電用モーターに使われ、その電気で駆動用電気モーターを回して走る。

速度が上がるにつれその配分は変化し、高速走行時はほぼ100%エンジンの力が駆動輪を回すことに使われる。そして減速時は、そのエネルギーを電気として回収してバッテリーに蓄え、それを走行に使う。発進時や低速走行時にエンジンがかからないのは、その電気を使っているからだ。

ホンダのシステムは、かつてはパラレル式だったが、最近のものはシリーズ式メインにパラレル式を加えた考え方になっている。基本的にエンジンがかかってもその力で発電し電気モーターで走り、高速走行時にはエンジンが直接駆動するモードに切り替えることもある、というものだ。

日産のE-POWERは完全なシリーズハイブリッドである。エンジンは発電に徹し、駆動はすべて電気モーターで走る。エンジンは車輪とまったくつながっていない。日産のものはEVに発電用ガソリンエンジンを積んだ車と理解すれば良い。そのかわりバッテリーは小型のもので済ましている。

■「EV+発電機」がハイブリッド車の正体

トヨタとホンダのシステムは日産より複雑で、EVとしての機能に加え、エンジンでも駆動する機能を加えている。その意味では、トヨタのシステムは3社の中でも極めて高度であり、エンジンと2つの電気モーターとバッテリーの制御を非常に緻密に行うシステムとなっている。

つまり、ハイブリッド車とはEVに備わる技術はすべて備えたうえで、エンジンを発電機ないし駆動用にも使うという仕組みなのである。最もシンプルな日産のものでさえ、技術的にはEVよりもはるかに高度なものなのである。

欧州メーカーもかつてはハイブリッド車の開発に取り組み、2010年代の初頭にはそれなりの数のモデルがリリースされた。しかし彼らの技術では燃費の向上はたいしたことはなく、車重が増えて運動性が悪くなったり、トランクが狭くなったりとデメリットのほうが目立つものばかりだった。

当然の結果としてあまり売れず、今では欧州メーカーでプラグインでないハイブリッド(マイルドハイブリッドを除く)を作っているのはルノーだけである(ご存じの通り、ルノーは日産とアライアンスを組んでいる)。つまり、ほとんどの欧州メーカーは日本メーカーのような高性能ハイブリッドを開発することができなかったのである。

■日本だけがものにできた、世界に誇る先端技術

そこで欧州はプラグインハイブリッド(PHEV)の燃費基準を、電動走行部分を過大に評価するものとしてそれに力を入れている。

しかしガソリン走行時の燃費は依然として褒められたものではなく、たとえばBMW3シリーズのPHEVモデル、330eの日本基準(WLTC)の燃費は13.5km/lだが、同じエンジンを積むガソリンモデルである320iはなんと13.8km/l。PHEVでない普通のガソリン車のほうが好燃費なのである。PHEVにすると重くなってしまうため、ハイブリッドモードでも燃費が悪化してしまうのだ。

しかしヨーロッパ基準ではプラグイン充電での走行距離66kmを勘案し、なんと76.9km/l(WLTP)と評価され、素晴らしく環境に良い車と見なされているのだが……(320iのヨーロッパ基準の燃費は14.9km/l)。

このように欧州メーカー(および米国メーカー、そして中国メーカーも)は優れたハイブリッド車が開発できなかったため、やむなくより単純な技術で作れるEVおよびまやかし基準のPHEVに特化しているのである。

ハイブリッドはガソリン車とEVの中間にあるもはや時代遅れの技術、という見方が根本的に間違っていることをご理解いただけたであろうか。ハイブリッド技術とは、日本だけがものにできた、世界に誇る先端技術なのである。

■忖度なしで試乗してみた

そこで最新のハイブリッド車を実際に体験してみることにした。乗ったのは日産ノートE-POWER、ホンダフィットe:HEV、トヨタヤリス・ハイブリッドである。

試乗コースは、私の住む神奈川県藤沢市から伊豆の河津町までのルートで、往路は国道134号線から西湘バイパスを経て箱根新道で箱根を越え、国道1号線を三島まで下って伊豆縦貫自動車道―国道414号線を通るルート、帰路は国道135号線で海岸線を通るルート(西湘バイパス以降は往路と同じ)である。

試乗した日はそれぞれ異なるが、交通環境はほぼ同じだったので、燃費のデータは比較して問題ないと思う。

■①日産ノート

最初に試乗したのがノートであるが、運転感覚がEVに非常に近いのに驚いた。アクセルに対して車両の反応が素晴らしく良く、またアクセルを離すとすぐに減速するので、ほとんどブレーキを踏む必要もなく自分の思い通りに走れることに感動した。

日産ノートの実測値
写真提供=筆者
日産ノートの実測値 - 写真提供=筆者

普通のガソリン車との違いを一番感じたのがこの車である。往路の燃費は24.9km/l、復路は29.1km/lという優秀なものだった。

■②ホンダ・フィット

次に試乗したのがフィットである。フィットはノートと違って、ガソリン車の運転感覚に近いフィーリングを出そうとしているように感じられ、加速感も穏やかで温和な顔つきのスタイリングとマッチしたものであった。室内も明るく広く、個人的に内外装のデザインが最も気に入ったのがこの車である。

ホンダ・フィットの実測値
写真提供=筆者
ホンダ・フィットの実測値 - 写真提供=筆者

燃費は往路25.5km/l、復路は30.8km/lと大台に乗せてきた。ノートにくらべ穏やかな性格な車のため、運転も穏やかになったのも貢献しているかもしれない。

■③トヨタ・ヤリス

最後のヤリスであるが、欧州の小型車にもまったく引けを取らない運動性能で、とても運転を楽しめたのが印象に残っている。動力性能も十分以上で、トヨタのハイブリッドで運転が楽しい、と心底思えたのは初めての経験である。

驚いたのは燃費だ。それなりに楽しんで運転したにもかかわらず、往路31.9km/l、復路はなんと38.1km/lという驚異的な数字をたたき出したのである。

トヨタ・ヤリスの実測値
写真提供=筆者
トヨタ・ヤリスの実測値 - 写真提供=筆者

これは高度な制御により駆動を最適化しているトヨタハイブリッドシステムの優位性がはっきり出た結果だと思う。藤沢―東京間でも、往復とも30km/l以上の数字が出ている。

合計350kmの試乗が終わって給油したら10リットル少々しか入らなかったのは感動的ですらあった。通常のガソリン車であれば倍近い燃料が必要だったと思う。

■「脱炭素」視点で現状最も効果が高いものは…

3車を試乗して、燃費ではヤリスが断トツではあったが、ノートもフィットも相当に優れた数値であり、乗り味もそれぞれ個性があって非常に楽しめた。車としての出来も良く、どの車も自信を持ってお勧めできるものだった。

現在、日本ではハイブリッド車は200万円少々で手に入る。使い勝手もガソリンを入れさえすれば良く、しかもなかなか減らない。一般の人が買うのに障害は非常に少ない。

一方、EVは高価なうえ、自宅に充電設備を設置できる人はいいが、そうでない人が購入するのは非常に厳しいだろう。一般の急速充電器では、30分充電しても100km程度の航続距離分しか充電できないためだ。もちろん遠距離ドライブは100km走るごとに30分の充電を強いられる。

そのうえ火力発電がメインの現状では、リチウムイオン電池の製造過程でCO2を大量に排出するため、EVは一般的に考えられているほど環境に優しくないのだ。

EV化を推進するボルボが昨年発表したデータによれば、現状の世界の発電状況では、XC40のEVモデル、XC40 RechargeのCO2排出量がガソリン車のXC40と同じになるのは14.6万km走行後だという。日本のハイブリッドとの比較であれば、おそらく25万km以上走行しないとCO2削減効果が得られないであろう。

欧州各国は巨額の補助金を出してEV普及に努め、ドイツでは100万円を超える補助金(=税金)や優遇策で販売の10%以上をEVにすることに成功しているが、10%少々をEV化しても効果はたかがしれている。

■脱炭素へのロードマップは正しいか

一方で、日本ではハイブリッド車の比率は4割ほどになっている。脱炭素という視点から考えて、どちらの効果が高いかは一目瞭然だと思う。日本メーカーはもっとハイブリッドの意味を世界にもっと強くアピールすべきだ。

しかもハイブリッド車はEVのような不便さをユーザーに押しつけることなく、比較的安価にCO2排出量を半分程度にすることができる。生産時のCO2排出量もバッテリーが小型のもので良いのでEVよりはるかに少ない。

EVは充電設備の充実などインフラへの投資も必要で、そもそも生産にも走行にも電気が必要で発電量を抜本的に増やす必要も生じる(そうでなくても電力需要は逼迫(ひっぱく)しているのだ)。

成功のためのプロセスを示す木製ブロック
写真=iStock.com/marchmeena29
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/marchmeena29

■短期・中期・長期のプロセスデザインが必要

もちろん将来的にはすべての車を完全に脱炭素化すべきだろう。しかし同時に発電も脱炭素化にしなければ意味はない。

山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)
山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)

原発の増設も容易ではない中、その道のりは険しく、既存電気需要ですらすべて脱炭素化するのもなかなか困難だと思う。加えて、暖房需要なども電気に置き換えなければならないのだ。

これは日本だけでなく、ほとんどの国に共通する問題で、急速に進んでいる欧州の再エネ発電化も遠からず限界点を迎えると思う。

ここ10~20年というレンジで考えたとき、EV販売比率を30~40%にするよりハイブリッドを100%にするほうが絶対に環境に優しいし、実現も容易だと思う。欧米の政府や環境団体やメーカーのプロパガンダに惑わされないようにするとともに、日本政府やメーカーもきちんと情報発信してもらいたいものである。

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山崎 明(やまざき・あきら)
マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)

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