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「これから日本の銀行はどんどん消える」ネット専業の住信SBIが上場することの重大な意味

プレジデントオンライン / 2022年2月28日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/olaser

■この変化はもう元に戻ることはない

3月24日にネット専業の住信SBIネット銀行(以下、住信SBI)が東京証券取引所の第1部に上場する予定だ。住信SBIは上場によって獲得した資金を“BaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)”事業の強化に用いる。重要なのは、BaaSがこれまでの銀行の業態や姿を変える可能性が高いことだ。

これまで、多くの銀行が駅前の一等地などに店舗を構え、預金をはじめとする多種多様な金融サービスを提供してきた。それに対して、BaaSでは銀行の機能がスマホのアプリにあらかじめ埋め込まれる。BaaSによって、これから銀行の概念は大きく変化することだろう。おそらく、その変化はもう元に戻ることはない。BaaSがわが国銀行業界に与えるインパクトはとてつもなく大きい。

今後、世界的に銀行の存在意義が急速に縮小するだろう。世界全体でBaaSをはじめ金融ビジネスのデジタル化は加速する可能性が高い。国内各行がどのようにして生き残りを目指すか、経営陣の覚悟が問われる。

■支店網やATMが不要…BaaSとは何か

住信SBIはデジタル(ネット)バンク事業とBaaS事業を運営している。BaaSとは預金や決済、貸し出し、クレジットカードなどの金融サービスを提供するプラットフォームのことをいう。BaaS企業と提携する企業は、課題解決のために必要な金融サービスを利用し、自社のサービスと組み合わせて最終顧客に提供する。BaaS運営企業と提携先の企業はオープンな“アプリケーション・プログラミング・インターフェイス(Application Programming Interface、API)”によってつながる。

オープンAPIとは、アプリの機能やデータを、別のアプリから呼び出して利用するシステムを指す。提携先の企業はオープンAPIを経由して必要な銀行サービスをBaaS企業から継続的に購入する。BaaSによって支店網やATMがなくても銀行サービスの提供が可能になる。BaaSの仕組みは、“B2B2C(企業と消費者の間にもう一つ別の企業が入ってサービスなどを仲介する形態)”と表されることもある。

■手数料を払って外貨を買う必要もない

具体例として、住信SBIが日本航空と運営する“JAL NEOBANK”を取り上げよう。JALは、銀行代理業のライセンスを取得したうえで住信SBIがプラットフォーム上で提供する銀行機能を利用する。その一つに、日本円や米ドルなど15の通貨を対象とする“JAL Global WALLET”への無料チャージサービスがある。アプリを使うことによって、利用者はいつでも、どこでもチャージが可能だ。その上で、決済通貨を選択して代金を支払う。

従来と異なり、自分の銀行口座から円の預金をおろし、両替所で手数料を支払って外貨を購入する必要はない。ためたマイルをポイントに交換し支払いに使うこともできる。

BaaSの利用によって物理的にも心理的にも銀行のサービスがシームレス、かつ身近になる。それによってJALはエアライン利用客の満足度を高めることができる。プラットフォーマーである住信SBIはオープンAPIを経由して利用者のデータを獲得し分析することによって、人気の高いサービスの強化などに効率的に取り組むことができる。理論的に、BaaSはプラットフォーマー、提携先の企業、最終顧客のウィン・ウィン・ウィンの関係を実現する力を持つ。

■支店、ATM、手数料…銀行の役目が消えていく

BaaSは、銀行の姿を変える。最大の違いが、目に見えるか、見えないかだ。これまでわが国の銀行は目に見える存在だった。各行の行員は社章バッジを胸につけ、サービスはそのブランド名で提供されている。大手行をはじめ多くの銀行が支店を設け、行員は近隣地域を自転車で駆け回り個人などから預金を集める。調達した資金を銀行は資金が不足する企業などに融資し、利息収入を得る。そのために銀行は企業の信用力などを評価する専門の人材を育成してきた。

また、銀行は振替決済や海外送金のサービスを提供することによって手数料を得る。事業規模を拡大するために各行は店舗、現金保管のための金庫や輸送網、ATMの設置台数を増やしてきた。口座の資金残高や事務処理などを行うための巨大なITサーバーの構築も進んだ。銀行が安定して事業を運営する体制を維持することは、社会心理に大きく影響する。そのため、銀行は規制で保護されてきた。そうした要素は銀行業界への新規参入を阻む障壁だった。

■融資や個人の格付けもスマホで完結する中国

しかし、BaaSはそうした銀行の業態や常識、概念を崩している。BaaSは黒子として銀行の機能を提供し、基本的には目に見えない。顧客は提携先企業、あるいは合弁企業のブランドとして銀行サービスを利用する。サービスはデジタル空間で完結する。物理的な銀行の店舗や装置がなくても、より効率的にサービスを利用できる時代が到来している。信用審査も人工知能を用いてビッグデータを分析することによって行われるケースが増えている。

海外ではわが国と比べものにならないほどにBaaSが社会に浸透している。中国ではアリババやテンセントがスマホのアプリにSNSや電子商取引(EC)に加えて、資金の決済や運用、個人の信用力評価(格付け)、融資などを行う生活に不可欠なアプリを提供している。

2018年の世界銀行の報告によると世界で銀行口座を持たない成人の数は約17億人だ。そのうち3分の2の人がSNSなどにアクセスできるスマートフォンなどのデバイスを使っている。物理的な銀行がなくてもそのサービスを利用できる環境が増えている。住信SBIのBaaS事業の強化は、わが国の銀行の概念、姿かたちを激変させる一つのきっかけだ。

スマートフォンを使う人々
写真=iStock.com/Moyo Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Moyo Studio

■「銀行がなくなる日」が本当に到来しつつある

今後、わが国では銀行から非銀行へとその役割が加速度的に溶け出していく。店舗やATM網を必要としないBaaSのコスト構造は既存の銀行と大きく異なる。その分、BaaS企業はソフトウェア開発や信頼性の高いシステム構築に経営資源を配分できる。

それに加えて、オープンAPIを経由してBaaSプラットフォーマーと提携先の企業が協働することによって、新しい金融サービスや商品などが生み出される可能性も高まる。BaaSは経済運営の効率性向上に貢献するだろう。少子化、高齢化、人口減少によって銀行は地方の支店を閉鎖している。

その一方で、BaaSではスマホを通して銀行が最終顧客の所にやってくる。店舗が閉鎖された地域に住む人々にとってBaaSの存在意義は増すだろう。わが国におけるBaaSの成長期待は高い。2018年に施行された改正銀行法が銀行にオープンAPI導入に関する努力義務を課したのはその裏返しと言える。

大手行を中心にわが国の銀行の存在意義は急速に縮小するだろう。銀行がなくなる日が本当に到来しつつある。各行は、生き残りをかけてとにかく新しい、柔軟な発想を増やし、実現しようとしなければならない。従来の企業同士のつながりを超えた地方銀行の経営統合や大手金融グループとの資本業務提携は急速に増えるだろう。過剰になった人員、店舗、システムなどのリストラも加速する。

■旧態依然の銀行業界が変わり始めている

大手行の一部ではフィンテック企業や非金融分野の企業との連携を強化してBaaS事業の成長加速を急ぐケースが出始めた。これまで自社ブランドで銀行サービスを一手に提供していた銀行にとって、それはかなり覚悟のいる決断だ。相対的に経営体力が劣る銀行の中には、BaaSを提供するIT先端企業と提携して自ら姿を変えようとするところも出てくるだろう。

ただし、わが国の銀行業界全体で考えると、自己変革を積極的に進めようとする銀行が多いとは言いづらい。依然として、過去の経営風土を引きずり、信頼できるシステム構築がままならないケースもある。経営陣がBaaSをはじめデジタル技術を用いた新しいサービス創出に本気で取り組むことができるか否かによって、中長期に見た国内各行の事業運営体制にはかなり大きな影響があるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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