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「これがないから日本の新聞は信頼されない」NYタイムズの政治報道にある重要な大原則

プレジデントオンライン / 2022年3月8日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

日本の新聞やテレビは「主張に偏りがある」とたびたび批判される。一方、アメリカのメディアは堂々と支持政党を公言しているが、読者の支持も集めている。ジャーナリストの岡田豊さんは「代表例はニューヨーク・タイムズだろう。大統領選でヒラリー候補を支持していたが、不正を追及し続けた。そこが日本のメディアとは違う」という――。

※本稿は、岡田豊『自考』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■フェイク情報を見極める目が求められる時代

インターネット上などにフェイク情報などがあふれ、何が事実か真実かを見極めることが難しい時代に入りました。本来のジャーナリズム機能をきちんと果たしているのかといった疑問などから、大手メディアへの信頼も揺らいでいます。

正確な情報と的確な見識は、私たちにとって、水や空気と同じくらい大切な存在になったと考えています。情報を受け身で鵜呑のみにしてしまうのではなく、私たち市民ら情報の「受け手」が能動的に自己責任で見極める。この意識転換が必要な時代になったのではないでしょうか。

間違った情報やウソの情報で、判断や選択を誤ってはなりません。インターネットの普及で、あらゆる情報が世界中であふれるようになりました。フェイクと言われるニセの情報やニセの映像も一部で平然と流されています。事実でないことを事実と認識してしまうケースがどのくらいあるのか。本当の事実や情報を簡単には見極められない時代になりました。

■フェイクニュースの方がSNSでシェアされる

共和党のトランプ氏が勝利した2016年のアメリカ大統領選挙の期間中、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアに数多くのフェイク情報が流されました。「ローマ法王がトランプ氏を支持した」というフェイク情報は10万人がシェアしたとされています。

ニューヨーク・タイムズによれば、2016年のアメリカ大統領選の際、ロシア政府とつながりがあるロシアの会社が、数百に及ぶ架空のアカウントをフェイスブックに開設し、民主党のヒラリー・クリントン氏に不利な政治広告などを流していたといいます。いわゆる「ロシア疑惑」に関連した話です。

ニュースサイト「バズフィード」は選挙戦終盤のトップ20のニュースのうち、フェイスブックにおいて、シェアまたは「いいね」を押したり、コメントを付けた回数について、主要メディアとフェイクニュースを比較しました。主要メディアが約740万回。これに対して、フェイクニュースは約870万回と大きく上回ったそうです。

フェイクニュースやフェイク情報を事実だと信じ込んで選挙と向き合い、投票した国民が大勢いる疑いがあったといえます。フェイクが選挙結果を左右した可能性が指摘されています。フェイク情報が選挙において有権者の投票行動に影響を与えた例が、日本の地方でもあったという指摘があります。

フェイク情報の真偽を確認しようとするファクトチェックの動きが広がりつつありますが、今のところ、大きな効果を発揮できておらず、限界があります。

■2016年の米大統領選での“大誤報”

トランプ大統領が勝利した2016年の大統領選挙もまた、アメリカの大手メディアの歴史に汚点を残しました。11月8日の投開票日の夜。その衝撃はアメリカのみならず、世界中を駆けめぐりました。

開票が始まったころも、民主党のヒラリー・クリントン氏が新しい大統領に選ばれると思い込んでいた人が多かったに違いありません。しかし、結果はトランプ氏の勝利。選挙戦の最中、新聞とテレビの多くがクリントン氏勝利を予測し続けました。

イラク戦争のように、大勢の犠牲者が出たわけではありませんが、結果的には、アメリカのメディアの“誤報”だと私は捉えています。取材力と世論調査の稚拙さ、精度の低さ、思い込み。現場で起きている事実に謙虚に向き合わなかった結果です。

■日米で大きく異なる“政治的中立性”の保ち方

共和党のトランプ氏が勝利した2016年11月のアメリカ大統領選挙の前の年、ニューヨーク・タイムズは早々に、民主党のヒラリー・クリントン氏を支持すると表明しました。現地で大統領選を取材していた私は、1面で大きな文字で「クリントン支持」を伝える紙面を手に、「日本とまったく違うな」と感じていました。

The New York Times 紙
写真=iStock.com/mbbirdy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mbbirdy

日本では新聞やテレビなど一般的な大手メディアが特定の候補を支持することはありません。日本の場合、政治報道の公平、公正、バランスを考慮すると、そうなります。

しかし、アメリカの読者、視聴者には、日本流のバランスではなく、メディア個々の独自の主張を期待する傾向があると言われます。アメリカ人は、各メディアの異なる主張を踏まえて、議論し、自分の頭で考え、自分の頭で投票する候補を選ぶというのです。メディアは、読者、視聴者、国民に判断を委ね、その判断を尊重し、多様な選択肢を提供するという特徴があります。日本のやり方とは違います。

■支持候補であっても不正は徹底的に報道する

もうひとつ。ニューヨーク・タイムズはクリントン氏を支持していたのに、選挙期間中、クリントン氏のメール問題を追及する記事を遠慮なく報じていました。クリントン氏が国務長官在任中、公務に私的な電子メールアカウントを使っていた行為が不透明だと批判された問題です。支持は支持、疑惑追及は疑惑追及。ニューヨーク・タイムズの姿勢は大統領選の投票日まで変わりませんでした。

候補として支持していても、投票の直前まで不正疑惑の材料を提供し、判断を読者、有権者に委ねようとする姿勢。これがニューヨーク・タイムズの「バランス」なのでしょう。

日本のメディアは、例えば、選挙期間中、候補者の不正などをめぐる報道については、より厳密な正確性を期します。選挙報道の公平、公正、バランスを踏まえ、中途半端な報道が投票行動にいたずらな影響を与えないようにする考え方です。この点にも少し違いがあります。

どちらがベターなのか一概に言えません。いずれにせよ、「受け手」が自己責任で情報を見極め、判断するやり方は、これから重要になってくるのではないでしょうか。情報の「出し手」と「受け手」が双方で監視し合い、尊重し合い、成長し合えるやり方のほうが、民主社会の質を高めることにつながると考えます。

■「情報リテラシー」は読み書き算数に匹敵する必須能力に

「情報リテラシー」の定義について、ここでは「『受け手』が自己責任で情報を見極める行為など」としたいと思います。「メディア・リテラシー」という言葉もあって、メディアが出す情報をそのまま鵜呑みにするのではなく、メディアの行動や機能を理解したうえで、その情報を主体的に見極め、批判的に評価する能力のことを意味します。

ドナルド・トランプ新米大統領に関するフィナンシャル・タイムズ
写真=iStock.com/AdrianHancu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AdrianHancu

アメリカでは「情報リテラシー」や「メディア・リテラシー」の普及が進み、市民の間には、自己防衛手段として「リテラシー」を自ら身に付ける必要があるという認識が広まっています。ここでは、より広い概念の「情報リテラシー」という言葉を使います。

もはや、「情報リテラシー」は漢字の読み書き、算数の足し算や引き算に匹敵するほど、重要な基礎的能力になっているのではないでしょうか。

「情報リテラシー」は、インターネット上の情報がウソか本物か見極めたり、メディアによる不作為の誤報や情報操作、不要な忖度をチェックしたりできる力です。こうした批判的な思考力や広く深い思考力を身に付けるリテラシーが広がれば、市民に直接有益になるだけでなく、ネット情報やメディア情報の質が高まる効果が期待されています。

■玉石混交の大量の情報の仕分け方

世の中にあふれる玉石混交の大量の情報の中から、本当の事実を見極めるのは簡単ではありません。自分の頭で考え、自分で判断し、本物か偽物かをその都度見極める覚悟が必要です。

私が市民個人として情報を扱う場合の例を参考までにまとめてみました。仕事上の業務としての判断や考え方は多様で複雑なため、なかなか固定的な表現が難しいのが実情です。そのため、ここではあくまで私個人の情報との向き合い方に限定しておきます。

私は、まず情報を概ね、次の3つの箱に整理します。

①「事実」
②「事実の可能性が高い準事実」
③「事実かどうか確認できない情報」

ただし、明らかなフェイク情報は対象外とします。

①事実

・現場で、または当事者などから、自分の目と耳で直接見聞きして確認できた内容

②事実の可能性が高い準事実

・本当に信用できる人から直接確認できた情報
・当局や上場企業が発表した情報のうち事実と思われる内容
・大手メディアが流した情報のうち事実と思われる内容
・インターネットやSNSの情報のうち事実と思われる内容

③事実かどうか確認できない情報

・当局や上場企業が発表した情報でも怪しい内容
・大手メディアが流した情報でも怪しい内容
・インターネットやSNSの情報のうち怪しい内容
・信用できる人の情報だが、信じ難い驚くべき内容
・自分で確認しようがない過去の歴史・史実

私は、すべての情報に対して、ウソや“バイアス”が紛れ込んでいる可能性があるという前提で向き合います。

基本的には、①のように、自分で現場で見聞きするか、当事者に直接確認したこと以外、本物の事実として認識しません。

■教科書に載っている話でも確証はない

扱いが難しいのは②の「準事実」です。世間では事実として流れている性格のものですが、私個人は「事実の可能性が高いが疑う余地もある」と解釈しておきます。

私は、本当に信用できる人から情報を聞き、仕事にも活用してきました。しかし、その人に私が利用される可能性もあるということを、常に頭のどこかに入れています。当局や上場企業、大手メディアが出した情報は、万が一、ニセモノだった場合、当事者に責任を取ってもらうという消極的な“保証”があると解釈し、おかしいと感じる情報以外は、基本的には事実として扱うことを容認しています。

ただ、これにもどこかに疑いの余地を残すようにしています。ネット上に流れている情報や画像は、特に厳しい見極めが必要かと思います。アメリカ大統領選挙で流されたフェイク情報の教訓から言えば、かなり巧妙な仕掛けが施されている情報もあるでしょう。

③「事実かどうか確認できない情報」のうち、過去の歴史や史実については、教科書に載っている内容でも個人的には確証を持ちません。当時の為政者らの一方的な価値観で書かれた史実も多いだろうと推測されるからです。

事実、真実かは別として、それらは、あくまでも教科書や歴史書に掲載されているレベルの内容であると個人的には整理しています。

■情報の信憑性を見極める6つのポイント

情報の真偽を判断する基本は、自分で直接確認するということに尽きますが、これは簡単なことではありません。ただ、次のポイントを最低限押さえておくと、信憑性をある程度、見極める参考になるかもしれません。

岡田豊『自考』(プレジデント社)
岡田豊『自考』(プレジデント社)

①誰がいつ、発信した情報かを確認する

情報の不確定要素を減らすことができます。

②その情報発信者は実名か匿名かを確認する

実名であれば情報に責任を取るという「保証マーク」が一応付いていることになります。

さらに顔写真が付いていると、その情報に責任を取ろうという意図が強く伝わります。ただし、実名、顔出しであっても、何らかの目的を果たそうという悪意で発信している可能性もあるので注意も必要です。

匿名であっても、それだけを根拠に信憑性が低いという判断にはなりません。筆者の実名が分かると情報源が漏れ、その情報源が二度と事実を語れなくなることがあるため匿名記事が多く流れています。

③その情報はソース、根拠を明示しているかを確認する

ソースや根拠を明示された情報は確度が高いです。

情報の受け手がそのソースや根拠に直接確認することが可能になるメリットもあります。

④その情報と発信者はどんな関係性かを確認、推測する

癒着、対立、利益相反などが分かれば、情報の意味合いを立体的に見極める判断材料になります。

⑤発信者がその情報を発信した目的は何かを確認、推測する

思惑、狙いなどが分かれば、情報の意味合いを立体的に見極める判断材料になります。

⑥複数の発信者(媒体)の情報を確認する

複数の発信がみな同じ内容であれば、その情報の確度は高まるといえます。複数の媒体を見ることをお勧めします。3つの媒体とも同じ情報であれば、確度は高いと思っていいでしょう。無論、1つの媒体であっても正確な情報は正確です。

■複数のメディアを確認して情報を立体的に捉える

補足になりますが、特定のSNSなどばかりに向き合っていると、自分の好みや志向などによって、限られた類いの情報にしか接触できないリスクに見舞われたりします。そうした偏った情報環境にいながら、それがすべての情報だと勘違いしていると、「井の中の蛙」となり、不幸な結果に陥りかねません。

その限られた情報が仮に事実だとしても、意義付けや背景、論評を立体的に見たり、考察したりする力が育たず、偏ってしまう懸念が生じます。やはり複数の媒体にアプローチするのが良いのではないでしょうか。

メディア媒体も同様かと思います。複数のメディアの異なる報道を確認することで、情報が立体的に見えたり、不確かな部分、あいまいな部分を補完できたり、明確になったりするメリットがあるでしょう。

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岡田 豊(おかだ・ゆたか)
ジャーナリスト
1964年、群馬県生まれ。日本経済新聞、共同通信記者を経て2000年からテレビ朝日記者。元テレビ朝日アメリカ総局長。トランプ氏が勝利した2016年の米大統領選挙や激変するアメリカを取材。共著に『自立のスタイルブック「豊かさ創成記45人の物語」』(共同通信社)などがある。

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(ジャーナリスト 岡田 豊)

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