「中には無意味なものもある」内科医が教える"使えるコロナ検査キットとダメな検査"の見分け方
プレジデントオンライン / 2022年5月1日 10時15分
■検査の場所、種類、方法はさまざま
はじめまして。内科医の名取宏と申します。私は勤務医として日々患者さんと接していますが、医師にとって当たり前のことでも患者さんにはそうではなかったり、逆に医師が気付かないようなことを患者さんから学ぶこともよくあります。ですから、この連載が患者さんと医療者の距離を少しでも近づけることができるようなものになるといいなあと考えています。
さて、今回は新型コロナウイルス感染症の検査についてのお話です。2020年春頃は医療機関でもPCR検査がすぐにはできないという状況がしばらく続き、感染症を専門としたごく限られた医療機関でしか検査できないこともありました。しかし現在では、PCR検査をはじめとした複数の検査を受けられる場所が増えました。流行の波が来れば再度ひっ迫する恐れはありますが、ボトルネックは検査ではなく隔離場所や入院ベッドにあるでしょう。
最近では医療機関だけでなく、街中でも新型コロナウイルス感染症の検査を受けられる場所を見かけます。またドラッグストアやインターネット上の店などで自己検査キットを購入することもできます。検査の場所も種類も方法もさまざまで、いったい、いつどこでどのような検査を受けたらいいのか迷ってしまう方もいるのではないでしょうか。
じつは適切な検査を受けるためには、それぞれの検査の種類と特性を知っておくことが大事です。新型コロナに限らず、感染症の検査には、大きくわけて、鏡検(きょうけん)、培養検査、抗体検査、抗原検査、遺伝子検査があります。鏡検と培養検査は細菌感染症では今でも基本的な検査ですが、ウイルス感染症では臨床的にはほぼ使われていません。
■︎「抗体検査」「抗原検査」「PCR検査」は何が違うのか
新型コロナウイルス感染症に関する主な検査は、抗体検査、抗原検査、遺伝子検査(PCR検査)の3つです。1つずつ説明しましょう。
<抗体検査>
ウイルスに感染したり、ワクチンを接種したりすると、私たちの体を守る免疫系がウイルスに対抗する物質「抗体」を作ります。この抗体の有無を採血によって調べるのが抗体検査です。抗体にもさまざまな種類があり、感染の急性期に増える抗体や、感染がおさまった回復期でも長い期間検出できる抗体などがあります。検査時点でウイルスに感染しているかどうかを判定するには適しておらず、過去にウイルスに感染したことがあるかどうか、ワクチンによる免疫が十分についているかどうかを調べる目的で使用されます。
■インフルエンザ迅速検査は「抗原検査」
<抗原検査>
抗原検査は、唾液などの検体の中にウイルス特有のタンパク質があるかどうかを調べる検査です。新型コロナの抗原検査では、検体は主に鼻咽頭ぬぐい液か唾液。ちなみに鼻に綿棒を突っ込むインフルエンザ迅速検査も抗原検査です。抗原検査の長所はなんといっても結果が出るまでの時間が短いこと。早ければ数分間で結果が出ます。検体を郵送しなくていいタイプの自己検査キットの多くは抗原検査です。短所は正確さに欠けることで、新型コロナに感染していても陰性の結果が出たり(偽陰性)、逆に感染していなくても陽性の結果が出たりすることがあります(偽陽性)。
<遺伝子検査(PCR検査)>
遺伝子検査は、ウイルスが持っている遺伝物質(核酸)の有無を調べる検査です。抗原検査と同じく鼻咽頭ぬぐい液や唾液が検体としてよく使われますが、痰や気管吸引液も使われます。抗原検査と決定的に異なる点は、核酸を増幅させる過程が入ること。きわめて微量の核酸であっても増幅して検出でき、抗原検査と比べると見落とし(偽陰性)が少ないのです。ただし、PCR検査は検体の温度を上げたり下げたりするサイクルを十数回から数十回繰り返すので、結果が出るまでに時間がかかります。最近では等温で核酸増幅が可能な遺伝子検査も実用化されていますが、それでも抗原検査ほどは速くありません。
このようにいろんな種類の検査法があり、目的によって使い分ける必要があります。流行初期の頃に舞台公演でクラスターが発生した事例では、出演者の一人が体調不良であったものの抗体検査では陰性だったことから出演しました。しかし抗体検査では、検査時点での感染の有無はわかりません。不適切な検査方法によって、かえって逆効果になった事例です。
■︎どんな検査も「精度100%」ではない
さらに、どんな検査でも必ず正確な結果が出るというわけではありません。抗体検査や抗原検査と比べると、PCR検査ではより正確な結果が得られます。それでも100%正しいわけではありません。たとえば感染する能力を失った「死んだ」ウイルスの断片であっても、PCR検査で陽性になることがあります。感染後の隔離解除に必ずしもPCR検査での陰性確認が条件になっていないのはそのためなのです。
■「PCR検査で陰性だったから絶対に大丈夫」とは言い切れない
また、ごく微量のウイルスの断片でもPCR検査で陽性になるので、検体が汚染されると「偽陽性」になります。きちんと精度管理されていれば検体が汚染されることはなく、よって偽陽性も起こらないはずですが、そこは人間のやることなので偽陽性事例の報告はあります。感染者が少ないはずの時期に不自然に多くの陽性結果が出れば偽陽性を疑えますが、流行期の小規模な偽陽性は気付かれないままだったこともあるでしょう。
検査で誤って陰性となる「偽陰性」も起こります。体のどこかにウイルスが感染していてもウイルスがいる検体を適切に採取できなければ正しい結果が得られません。2020年春頃にはすでに、新型コロナウイルスに感染して重症化しているにもかかわらず、上気道検体でPCR検査を行った結果、陰性になった症例が知られていました。
新型コロナを強く疑う患者さんでは、複数の箇所から検体を採取したり、何度も繰り返して検査することが推奨されています。感染初期のごくウイルス量が少ない時期も偽陰性になります。また当然ですが、検査時に感染していなくても、検査直後に感染することもあるので「PCR検査で陰性だったから絶対に大丈夫」ということにはなりません。
■検査が受けられる場所はたくさんある
新型コロナウイルス感染症を疑う症状があり、医師が必要と認めた場合は医療機関で検査でき、費用は全額公費負担となります。保健所でも無症状の濃厚接触者などを対象に検査が実施されています。もちろん、費用の自己負担はありません。流行状況や変異ウイルスの特徴などで対象者が変わりますので、最新の情報は各自治体のウェブサイトを参照してください。保健所では希望者に対する検査は行っていません。
それとは別に、希望者が受けられる自費検査もあります。厚生労働省のウェブサイトに「自費検査を提供する検査機関一覧」が掲載されており、検査の種類(PCR検査か抗原検査か)や料金を確認できます。
さらに現在(2022年4月)、地域によっては街中に無料でPCR検査が受けられる場所があります。都道府県等が国からの交付金を財源に行っている無料検査事業で、「不安に感じる無症状者」が対象。有症状者や濃厚接触者は対象外です。実施期間は明確に定まっていませんので、地域によっては無料検査事業がすでに終了しているかもしれません。
これらの検査によって陰性証明書を出しているところもありますが、前述したように偽陰性や検査後の感染もあり得ます。いわゆる「水際対策」として、日本を含めて多くの国では入国時に陰性証明書を要求しています。しかし、出国前の検査で陰性でも、入国時の検査で陽性である事例も多くあったのです。陰性証明書を過信はできません。
■︎「研究用」抗原検査キットの性能は不明
現在では、自己検査キットも数多く販売されています。抗原検査キットはすぐに結果がわかりますが、PCR検査は核酸増幅の過程が入りますから検体を郵送しなければなりません。どちらも製品によって性能に差があると考えられます。
抗原検査キットの場合、国が承認した「体外診断用医薬品」と表示されているものは一定以上の性能が確認されていますが、「研究用」とされているものは確認されていません。研究用と称して売られている一般消費者向け商品を、まともな研究者は使わないでしょう。いったい誰が何の研究をしているのか、いつも不思議に思っています。
■「抗体検査キット」は意味がない
そして、抗体検査キットは意味がないでしょう。一般的に抗体検査は、ある程度の量の血液を採取し、遠心分離して細胞成分と凝固因子を取り除いた血清で行います。ところが、一般消費者は自分で十分な量の採血はできませんから、抗体検査キットは指先を針で刺して採取した微量の血液で検査しますが、この方式だと性能が劣ります。
そもそも先に述べたように抗体を測定しても感染の有無はわかりませんし、抗体ができていても将来的に感染しないという保証にもなりません。だから流行状況の調査で集団における抗体陽性割合を調べるならともかく、個人が調べる必要はないのです。抗体の自己検査キットについては、販売事業者もよくわかっていないか、消費者の不安につけこんだものだと考えます。
いずれにしても偽陽性や偽陰性はありますし、検体の採取を個人が行う検査は、医療機関での検査と比べて信頼性は劣ります。陽性の場合は改めて医療機関や保健所にご相談してください。また陰性の場合でも、新型コロナに感染している可能性は否定できません。
■自己検査キットで陰性でも、症状があれば受診の検討を
一時的であれ感染の不安を払拭したり、陽性だった場合に自主隔離するために個人的に検査をすることは悪いことではありません。ただ、希望者だけに検査をすることでは感染を完全に制御するのは難しいようです。隔離されたくない人は検査を希望しませんし、自己検査で陽性でも隠したり、陰性だったと嘘をついたりすることもあるかもしれません。
陰性や偽陰性だった人が安心することでほかの対策を取らなくなり、新型コロナを広めてしまうこともあるでしょう。これはマスクでも、ワクチンでも、同じことが言えます。検査で陰性だったから、マスクをしているから、ワクチンを接種しているから……、といって、ほかの感染対策がおろそかになるなら逆効果です。それぞれの対策にはメリットもありますが、デメリットや限界もあります。感染状況を見ながらうまく組み合わせて予防策をとってください。
最後に、発熱や咳、のどの痛みなどの症状がある場合は、自己検査キットや医療機関以外のPCR検査で済ますのではなく、医療機関の受診を検討しましょう。自己検査キットで3回陰性だったので受診を見送り、結果的に新型コロナ肺炎で死亡した事例があります。また、それらの症状が起こる病気は、新型コロナウイルス感染症だけではありません。性能の高いPCR検査で陰性だったとしても、細菌性肺炎や敗血症や急性喉頭蓋炎といった治療を要する他の病気にかかっている可能性もあるのです。
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内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。
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(内科医 名取 宏)
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