「うつ病かも…」と思った女性が精神科に行く前に疑うべき2つの病気
プレジデントオンライン / 2022年6月27日 8時15分
■症状が似ている更年期障害
元気がなくて落ち込んでいる、何もやる気が出ない、疲れやすい……。こういった心身の不調を感じて「これはうつかもしれない」と精神科に来られる方は多いです。しかし診察してみると、うつではなく、別の疾患というケースも少なくありません。特に女性に多い疾患で、その症状がうつに似ているものには、更年期障害と甲状腺機能低下症があります。
更年期障害は、女性が閉経に向かうときにエストロゲンという女性ホルモンが減ることで、引き起こされる疾患です。人によってさまざまな症状があらわれますが、倦怠感がひどく、その結果、何もする気が起きない、イライラする、落ち込みがひどい、気分のアップダウンがはげしい、眠れない、などが挙げられます。
こういった症状は、確かにうつ病と似ていますが、のぼせる、顔がほてる、脈が速くなるなどの症状が出ることがあり、これらはうつ病にはないものです。
更年期障害は閉経前後の10年間、だいたい45歳から55歳までに起こることが多いのですが、30代後半から症状が出てくることもあります。
■女性ホルモンの減少で起きる
そもそもエストロゲンは、生まれてから右肩上がりに増えていき、思春期の頃はさらに勢いを増して、35歳ぐらいまでずっと上り調子です。そして35、36歳を境に下り坂になっていきます。
体にとっては、今まで上がっていたものが下がる、つまりベクトルの向きが全く変わるというのは非常に大きな変化です。その変化を感じたときが、いちばん不調が起こりやすい時期です。これが30代後半から症状が出てくる理由です。
更年期障害かどうかを判断するには、エストロゲンが下がっていることをキャッチしなければなりません。
エストロゲンの数値は採血で診断できますが、更年期障害かどうかは一度の採血でわかるものではありません。更年期障害は、エストロゲンの分泌量が少ないために起こるのではなく、減少していることが原因で起こるからです。
■ふだんから女性ホルモンの値を知っておく
たとえば、一回の採血でエストロゲンの数値を調べても、それが上り坂のてっぺんなのか、下り坂の途中なのかはわかりません。その年齢の平均値よりも高かったとしても、下り坂の途中なのであれば更年期障害の症状が出る可能性があるわけです。時間をおいて定期的に測り、今までよりどれだけ下がったか、その下がり方を把握しなければ診断できないのです。
このため、更年期障害に似た症状があっても、数カ月後にもう一度採血して検査することになるので、診断が遅れ、その分治療も遅れてしまいます。ですから、ふだんから自分の数値を知っておくとよいでしょう。健康診断のオプションで選べることもあるので、30歳を過ぎたら、女性ホルモンの値を調べておくとよいと思います。
更年期障害の治療は、まず「日常生活でどこまで困っているか」がポイントになります。日常生活に支障が出るほど症状があるなら、エストロゲンを補充する、ホルモン補充療法も選択肢の一つですが、そこまで支障がなければ、できるだけ女性ホルモンが下がるスピードをゆっくりにしていく対策をしていきます。
女性ホルモンの低下をゆっくりにするには、まず食事、運動、睡眠といった生活習慣を整えていきます。食事では、女性ホルモンとよく似た働きをするイソフラボンを多く含む大豆製品をなるべく多くとるようにします。たとえば豆腐や納豆、大豆もやしといった食材です。
バランスも大事なので、タンパク質やビタミン、ミネラル、カルシウムもしっかりと意識してとりましょう。特に40代以降はビタミンB群やEが不足しがちなので、サプリメントで補ってもよいでしょう。
血液の巡りをよくしておくことも大切です。おふろはシャワーで済まさず、湯舟に入って、しっかりと体を温めます。半身浴もいいでしょう。たばこを吸っている人には、禁煙をおすすめします。たばこを吸うと血管が細くなり、血流が滞りやすくなります。
■女性に多い甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症も、うつ病に間違われることの多い病気です。更年期障害は30代後半から症状が出ることが多いですが、こちらは20代からあらわれる女性に多い疾患です。あまり耳慣れないかもしれませんが、それほど珍しい疾患ではありません。
甲状腺機能低下症とは、新陳代謝を活発にし、体を動かすエネルギーとなる甲状腺ホルモンの分泌が減ってしまう疾患です。免疫が正常に働かなくなり、自分の体の組織を攻撃してしまう自己免疫疾患の一種で、予防は難しいとされていますが、甲状腺ホルモンを補う薬で治療が可能です。
ひどい倦怠感があったり、動きがゆっくりになったり、記憶力が低下したりと、うつ病とよく似た症状が出ます。ただこれは、血液検査をして甲状腺ホルモンの数値を見ればわかるので、多くの精神科では、うつ病の疑いがある人については、まず採血して甲状腺ホルモンの値を確認し、甲状腺機能低下症の疑いがあれば内科の受診をお勧めします。
■まずは内科か婦人科へ
精神科医も、更年期障害や甲状腺機能低下症など、うつ病に間違えられやすい病気については知っていますが、婦人科や内科の病気については専門ではないので、見逃す可能性はあります。ですから、「うつ病かな」と思ったときは、まずは内科か婦人科で診てもらったうえで、紹介状を持って精神科を受診することをお勧めします。
特に更年期障害については、最初は更年期障害だったのが、これが引き金になってうつ病になることもあります。更年期障害の症状は人によってさまざまですが、不快な症状が仕事や日常生活に影響を及ぼすことも多いので、早めに婦人科を受診してほしいと思います。
■コロナの後遺症「ブレインフォグ」
新型コロナウイルス感染症の後遺症の中にも、うつ病の症状に似たものがあることがわかってきています。
新型コロナの後遺症でよく知られているのは、咳や痰、息苦しさや胸の痛みなどの呼吸器症状や、味覚障害、嗅覚障害ですが、このほかにも、記憶障害や集中力の低下、不眠など、うつ病に似た症状があります。また、頭の中に霧がかかったような“ブレインフォグ”と呼ばれる症状もあります。集中力や思考力が低下し、考えがまとまらない、ものごとを決めるのに時間がかかる、記憶力が低下するなどのほか、頭痛がおきることもあります。こうした症状も、うつ病に似ています。
ブレインフォグは、ウイルスと戦うためのタンパク質が、脳に入って炎症を起こしているのではないかと考えられています。後遺症としてブレインフォグのある人の割合は、20代で10%台、60代以上で20%台といわれます。呼吸器機能障害は、どの年代も20%前後なので、ブレインフォグは年代差のある後遺症といえます。
残念ながらこうした後遺症については、現段階ではエビデンスのある根本治療の方法はなく、頭が痛ければ頭痛薬、不安や緊張があれば気持ちを落ち着かせる薬、など、その症状に合わせた対症療法しかありません。新型コロナ感染症発症から時間が経つにつれて症状がなくなっていく傾向はありますが、発症から半年や1年経っても、ブレインフォグの症状が残っている人もいるようです。
新型コロナの感染症は、もちろん感染による症状もつらいものですが、罹患(りかん)することによる精神的なストレスも大きい病気です。罹患が引き金になり、ストレスから適応障害になり、うつ病に進行する可能性もあります。やはり、感染を防ぐことが一番重要なので、感染対策をしっかり行うことはもちろん、日ごろから生活リズムを整え、運動をして睡眠をしっかり取るようにしてほしいと思います。
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産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務。
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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)
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