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毎日散歩しているから大丈夫…そんな人が老後に寝たきりとなるのは「筋トレ」を誤解しているからだ【2022上半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2022年8月7日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

2022年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。健康部門の第2位は――。(初公開日:2022年5月20日)
年齢を重ねても健康であるためにはどうすればいいのか。順天堂大学名誉教授の佐藤信紘さんと非常勤講師の佐藤和貴郎さんの共著『順天堂大学の老年医学に学ぶ 人はなぜ老いるのか』(世界文化社)より、筋力低下を防ぐ生活習慣について紹介する――。

■筋肉は60歳を過ぎると急激に量と質が落ちる

若いときは当たり前に動いていたのに、年をとって筋肉、骨や関節、神経など運動器の病気、痛みや衰えなどが生じると、辛かったり億劫に感じたりして、日常生活で動くことが徐々に少なくなります。運動器というのは、立つ、歩くといった日常的な動きを支える体の仕組み全体のことで、筋肉、骨や関節、神経などの働きが複雑に連動して成り立っています。どれか一つに問題が起きても体はうまく動きません。

動かないでいると、両足のバランスが悪くなり、やがて歩けなくなったり動けなくなったりして、要支援、要介護に進行していきます。そういうケースを予防して、生涯を通じて健康で自立した生活を営むためには、楽をしないで自分の体をよく使って暮らしていくことが大事です。

体を使い続けるには日常動作の基盤となる「筋肉」の維持が必要ですが、筋肉の量と質は加齢とともに低下していきます。

体を動かす筋肉である骨格筋の重量は体重の約40%を占め、体を動かすための大きな原動力です。その骨格筋は30歳を過ぎると10年ごとに約5%の割合で減少し、60歳以降は約10%の減少率になると報告されています。

60歳を過ぎたあたりから、急激に落ちてくることがわかります。

そうした加齢に伴って認められる筋肉の量と質の低下は「サルコペニア(加齢性筋肉減弱症)」と呼ばれ、一般にも広く知られるようになってきました。

サルコペニアは、立ったり歩いたりするための移動機能(身体能力)が、筋肉、骨や関節など運動器の障害によって低下する「ロコモティブシンドローム(運動器症候群/通称:ロコモ)」の概念に含まれます。

また、老年医学の世界では、意図しない緩やかな体重減少、疲れやすさといった身体的な衰え、閉じこもり、経済力の不足といった精神・心理的、社会的な衰えなど、加齢に伴う様々な衰えをまとめて「フレイル」という言葉でいい表しています。

■立ち上がったり歩いたりするには十分に強い筋肉が必要

筋肉(骨格筋)は骨や関節の周りにあって骨を支え、収縮することで関節の曲げ伸ばしを行っています。「立つ」「歩く」「しゃがむ」などの動きがスムーズであるためには、筋肉が十分に強く、しっかりとよく収縮する必要があります。

では、筋肉がやせて、筋肉量が減ってしまうとは?

筋肉(骨格筋)は、筋線維という細長い筋細胞の集合体です。筋線維の数は決まっていますが、歩いたりストレッチをしたり、よく動かすことで1本1本が太くなり、しっかり収縮するようになります。筋トレとは、この1本1本の筋線維を太く育て、動ける筋肉の量を増やすことなのです。

■筋肉量の低下は生活習慣病リスクも上げる

逆に、動かない生活が続いて筋肉を使わないと筋線維は細くなり、しっかり収縮できなくなっていきます。この状態が続くと、筋肉の質が低下して、細く弱くなった筋線維は体を支えられなくなってしまいます。同時に筋肉を支配する神経系も衰えます。

これがサルコペニアです。サルコペニアやロコモ、フレイルによって、立ったり歩いたりする移動機能が低下すると、日常生活に様々な支障をきたします。転倒リスクが高くなる、階段の昇降が不自由になる、荷物が持てない、体を思うようにコントロールできないことで、家から出るのが嫌になり、引きこもりがちにもなります。

また、筋肉量の低下に伴って基礎代謝も下がるので、肥満や内臓脂肪量の増加が起こりやすくなり、生活習慣病にかかるリスクも高まります。

一方、筋肉が維持されていると、免疫機構も高まることが期待されます。高齢者の死因の上位を占める「肺炎」も、筋肉量がある人の方が細菌感染に強く、感染しても炎症の度合いが低く、肺炎になりにくいのです。外科手術をしたときも、術後の回復力は筋肉量がある人の方が高いといわれます。

筋肉は脳からの命令で動くわけですから、筋肉を維持して使うことは、筋肉から脳へのフィードバックにより脳を活性化させる脳筋相関の機能もあると考えています。

また、エビデンスはまだ少ないのですが、筋肉を使うことは「動脈硬化」にいい影響があります。「糖尿病」については、筋肉を使うことでインスリンの量を増やさなくても筋肉内への糖の取り込みができることが実証されているので、動脈硬化に対しても間違いなく好影響は出ています。筋肉が体に与えるメリットはとても多面的なのです。

■年を取ると筋肉の萎縮は戻りにくい

サルコペニアが起きていないかどうか、一般的な診断は、年齢や握力、歩行速度、筋肉量をもとに行われます。頻繁につまずいたり、立ち上がるときに手をついたりするようになると、症状がかなり進んでいると見ることができます。

急激に筋肉が衰えてくるのは60歳を過ぎたあたりからですが、サルコペニアは25~30歳から始まって生涯を通して進行するので若年期からの運動が必要です。

骨や筋肉の元気な若い世代では、体を動かす骨格筋はケガをしてもちゃんと治ります。骨を折ったときにギプスをすると筋肉はかなり萎縮しますが、治療を終えてギプスを外すと元の筋肉サイズに戻っていきます。

ところが、年齢とともに骨格筋のケガは治りにくくなりますし、一度筋肉が萎縮するとなかなか元に戻りません。若い頃と比べて戻りづらくなっているのです。筋肉がケガをして治っていく過程で、筋肉内が脂肪化したり線維化したりする現象によると考えられます。

よくあるのは、高齢者が骨折や病気で手術をして1~2週間、ずっとベッドで休んでいたら、そのまま寝たきりになってしまうケースです。そこで、元の生活レベルに戻れる筋肉の回復方法を考えなくてはいけないということが、今、様々な医療機関や介護施設でいわれるようになりました。つまり、術後すぐから体を動かしリハビリを行うこと、自宅で療養している人も、できる限り日常生活をこなし、少し大変でも運動することが非常に重要になってきます。

■歩くだけでは筋肉の衰えを防ぐには不十分

ウォーキングは、中高年から高齢者に積極的に取り入れられ、肥満や糖尿病といった生活習慣病の予防や改善に効果的とされていますが、それだけではサルコペニアは防げないのでしょうか。

筋肉は、体を動かす「骨格筋」と、臓器を構成する「平滑筋」に大別され、骨格筋は髪の毛ほどの太さの線維の束になっており、線維束が伸びたり縮んだりすることで動けるのです。その線維束の中には、マグロのような赤身の「遅筋線維」と、ヒラメやカレイのような白身の「速筋線維」があります。

遅筋線維は長距離ランナーのごとく持続力があって疲れにくく、力の入り具合が相対的に弱い特徴があります。ウォーキングで使うのは、主にこの遅筋線維です。一方、速筋線維は短距離ランナーのごとく瞬発的な力を発揮します。一般的な人の太ももなら、遅筋線維と速筋線維は半分半分というイメージで構わないでしょう。

この筋線維を調べてわかったのは、年齢の影響を受けるのは速筋線維の方が大きいということです。そうであるなら、サルコペニアの予防や改善には、速筋線維をターゲットにするのが望ましいのです。つまり、速筋線維をあまり使わないウォーキングは、サルコペニア対策として十分ではない可能性があります。

日本の老人
写真=iStock.com/mykeyruna
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mykeyruna

■サルコペニアの予防には筋力トレーニングを

サルコペニアの予防や改善には、「レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)」が向いています。レジスタンスとは抵抗という意味で、片脚立ちやスクワット、腕立て伏せ、ダンベル体操など、筋肉に抵抗をかける動作を繰り返し行う運動のことです。

自分の体重を利用して行うものと、ダンベル運動のようにダンベルや各種マシンといった器具を用いて行うものがあります。どちらの場合も、筋力の向上に合わせて、トレーニングの負荷を少しずつ重くしていくことが大切です。

高齢期に入ってからでも、その人の筋力に合わせて行えば、トレーニングの効果は出て、サルコペニアの予防や改善につながります。トレーニングは楽しく行うとともに、筋肉の疲れをとるために十分な休息、入浴、マッサージ、睡眠が大切であることはいうまでもありません。

毎日行うのではなく、2、3日に1回程度、週2、3回の頻度での運動が推奨されています。

無理のない範囲で継続的に行うようにしてください。

■移動する能力が衰える「ロコモティブシンドローム」

ロコモティブシンドロームは、英語で移動することを表す「ロコモーション(locomotion)」、移動するための能力があることを表す「ロコモティブ(locomotive)」から、2007年に日本整形外科学会が作った用語です。

加齢とともに運動器の障害が起こり、移動するための能力が不足したり、衰えたりした状態を指します。この用語は、そうした状態が起こらないように啓蒙し、予防や改善するために生まれました。

運動器の障害というのは、筋力やバランス能力が低下したり、足腰に病気が起こったり、膝が悪くなったり、骨が弱くなったりすることです。この状態がロコモなのです。ロコモが進行すると、将来介護が必要になるリスクが高くなります。要支援や要介護になる原因のトップは、転倒、骨折や関節の病気など運動器の障害であることは、実はあまり知られていません。

便利な移動手段の多い現代社会では、「日常生活に支障はないから大丈夫」と思っていても、自覚症状がないままにロコモになっていたり、すでに進行したりしている場合が多くあることがわかっています。

また、高血圧など生活習慣病のある人は、比較的若い頃からロコモの原因となる病気にかかりやすいこともわかってきました。パーキンソン病などの神経変性疾患でも、筋力の低下を主としたロコモがよく見られます。

すでにロコモである人もそうでない人も、運動器の機能を長持ちさせてロコモを改善、予防し、健康寿命を延ばしていくことが大切です。

■ロコモかどうかを確かめる日常生活の7項目

「片脚立ちで靴下がはけない」「家の中でつまずいたり絨毯の端に引っかかる、畳から立ち上がりにくい」、これらはバランス能力や筋力などの運動機能の低下を示しています。また、「階段を上がるのに手すりが必要である」場合に、念のために手すりを使うのではなく、筋力の衰えのせいで手すりがないと上がれない状態なら要注意です。

【図表1】ロコチェック
出典=『順天堂大学の老年医学に学ぶ 人はなぜ老いるのか』(世界文化社)より

このほか、掃除機をかける、布団の上げ下ろしをするなど、筋力が必要な家事を行うのが辛いと感じたり、2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難なことはないでしょうか。2kgは1リットルの牛乳パック2本程度です。高齢者でも、この程度なら持ち運べるはずなのですが、それが辛くて困難になってきたらロコモの危険があります。

歩く距離やスピードが低下するのも、ロコモによる現象です。買い物などで15分くらい続けて歩くことができない、横断歩道を青信号で渡りきれないというときは要注意です。

図表1の7項目について、自分がロコモの可能性があるかどうかを調べるのが「ロコモーションチェック(ロコチェック)」です。7項目のうち、該当するものが1項目でもあれば筋肉、骨や関節などの運動器が衰えているサインです。

■筋肉だけでなく骨や関節も老化する

サルコペニアは、ロコモにおける運動器の障害の、筋肉、骨、関節のうち、筋肉の障害のことですが、骨の障害で代表的なのは「骨粗しょう症」です。

骨粗しょう症とは、骨を壊す破骨細胞と骨を作る骨芽細胞のバランスが加齢によって乱れて破骨細胞の割合が多くなった結果、骨の密度が低下してしまう症状です。内部の組織がスカスカのスポンジ状になってしまうので、骨折をしやすくなり女性に多いのが特徴です。

また、骨の老化に伴って関節や軟骨組織も衰えてきます。

骨の末端部分にある軟骨組織は加齢とともにすり減り、やがて関節内で骨と骨がぶつかり合い、その刺激を受けて関節が炎症を起こすなどして変形してしまうことがあります。

この関節の障害では、膝の関節が変形する「変形性膝関節症」や、股関節が変形する「変形性股関節症」が代表的です。骨粗しょう症、変形性膝関節症、変形性股関節症もロコモの概念に含まれます。

■身体的な衰えが精神的、社会的な衰えを引き起こす

フレイルという用語は最近かなり浸透してきました。フレイルとは、加齢によって体と心の活力が低下した、健康状態と要介護状態の中間に位置する状態です。

具体的には、筋肉の減少・肺活量の低下といった「身体的な衰え」、記憶力の低下・気分的なうつといった「精神・心理的な衰え」、社会的な孤立、経済力の不足、引きこもりといった「社会的な衰え」が挙げられます。これらはそれぞれ、「身体的フレイル」「精神・心理的フレイル」「社会的フレイル」と呼ばれ、フレイルはこれらが相互に影響し合って発症、悪化します。

加齢によって食欲が落ちることで栄養不足の状態になり、筋肉量が減少する(身体的フレイル)とします。すると、筋力や体力に加えて歩行能力が低下するため、外に出かけようという気力がなくなり(精神・心理的フレイル)、その結果、家に引きこもってしまう(社会的フレイル)というような関係です。

この用語は2014年に日本老年医学会が「フレイルティ(frailty)」の日本語訳として提唱したものです。もともとは「虚弱」などと訳されていましたが、それでは身体的、精神・心理的、社会的側面のニュアンスを十分に表現できていないといった理由から、「フレイル」と表すことになったようです。

■日本人は世界で最も座る時間が長い

市民向けの運動講座などで測定を行うと、すでに40代、50代でロコモが始まっているという結果の出る方がいます。話を聞くと、デスクワークなどで座る時間が長い場合が多いのです。

現代人の生活はとても豊かで便利になり、体を動かすことが昔に比べてとても少なくなりました。

2011年にシドニー大学などが行った調査によれば、世界20カ国の座位時間の平均が1日約5時間であったのに対し、日本人の場合は約7時間と世界で最も長いことがわかっています。

デザイン事務所
写真=iStock.com/iryouchin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/iryouchin

日本人の勤務時間の長さが運動機能の低下につながっているといえるでしょう。「こんなに忙しくしているのに」と思っても、実際には一日中座って仕事をしているためにいつの間にか運動不足になっているのです。

座っていることは、喫煙と同じくらい体に悪いともいわれています。そうした生活習慣を続けていくと、ほぼ間違いなく筋力が低下していきます。特に女性はもともとの筋力が低いため、早めに気づいて生活を変えていくことが大切です。

たとえば、1駅分歩く、エレベーターではなく階段を使うなど、生活の中でよく動くことを意識するだけで筋肉の動かし方が変わってきます。たとえば50代でこのように生活習慣を変えれば、70代になっても元気な生活は可能になります。そうした生活習慣を中年から心がけることが大事です。

■何歳から運動を始めても筋力は高められる

佐藤信紘、佐藤和貴郎『人はなぜ老いるのか』(世界文化社)
佐藤信紘、佐藤和貴郎『順天堂大学の老年医学に学ぶ 人はなぜ老いるのか』(世界文化社)

ありがたいことに、何歳から運動を始めても筋力はアップします。順天堂大学ジェロントロジー研究センターでは、ロコモ予防・改善を目的とした運動教室に週3回程度参加してもらうことで、80代であっても筋機能が向上し、椅子から立ち上がるなど生活動作の改善が認められたという報告を行っています。

筋力を高めるトレーニングは、どの年齢、どの状態でもその人の持っている能力をある程度ぎりぎりまで引き出す必要があります。しかし高齢者のトレーニングでは転倒のリスクを伴うため、スクワットのような下肢の筋力を高めるトレーニングには安全性を担保するための工夫が必要です。

その上で、「たとえ90歳を超えても、その人にとって適切なトレーニングを行えば筋力は上がる。筋力が衰えた人も、今からでも間に合う」ということはぜひお伝えしたいところです。

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佐藤 信紘(さとう・のぶひろ)
順天堂大学名誉教授
1940年生まれ、大阪大学医学部卒業、大阪大学第一内科助教授、順天堂大学消化器内科主任教授、順天堂大学練馬病院初代院長、大阪警察病院院長、北陸先端科学技術大学院大学客員教授を歴任。

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佐藤 和貴郎(さとう・わきろう)
国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部室長
1973年生まれ。神戸大学医学部卒業。京都大学医学博士。神経内科専門医。2009年ドイツのマックスプランク神経生物学研究所神経免疫部門に留学。順天堂大学革新的医療技術開発研究センター非常勤講師。2013年より現職。

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(順天堂大学名誉教授 佐藤 信紘、国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部室長 佐藤 和貴郎)

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