1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

飲み会が嫌いになったわけではない…大人たちはわかっていない「若者の酒離れ」の本当の理由

プレジデントオンライン / 2022年9月14日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

20代、30代の酒の消費量が減少している。その理由は何か。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「『酒の味が苦手』というのは少数派で、酒を嫌いになったわけではない。行動変化の理由としては、『アルコールを飲むと生産性が著しく下がる』という見方が背景にありそうだ」という――。

■酒離れの原因に挙げた「宴会文化の消失」「第3のビール」

もう何年もの間、「若者の酒離れが起きている」という話題がビジネスの世界で議論になっています。この話自体には諸説があって、若者に言わせれば「成人になった当初から飲んでいないので私たちは犯人ではない」といいます。国税庁の「酒のしおり」を見ると成人1人当たり酒類消費数量は1992年の年間102リットルをピークに、2020年には75リットルにまで減少していますから、誰かが酒を飲まなくなったのは事実です。

私はこの「酒離れ」についてこれまでもいくつかの説を唱えています。最初の頃は「酒を強要する宴会文化がなくなったこと」がきっかけだという説を唱えていました。私が社会人になった当初は先輩からとにかく最初はビールを飲むように指導されていたものですが、今ではこれはアルハラ(アルコールハラスメント)とされる行為です。社会にとっていい変化がおきてそれで酒類の消費は適正なレベルに落ち着いてきているという説です。

今年3月の連載記事では新ジャンルのいわゆる第3のビールが悪いんじゃないかという説を提唱しました。酒税が低いために安く飲めるけれどもおいしくはない。そんなものを成人直後から飲まされては、若者がお酒をおいしいと思わなくなるのは当然だろうという説です。

■スマホもまた酒離れを助長しているのではないか

さて、その説の提示からまだ半年しかたっていませんが、今回は新説を提示したいと思います。それは「若者の酒離れを引き起こしている犯人はスマホだ」という説です。サントリー、キリンなどの飲料メーカーは敵を見誤っているのかもしれません。証拠を調べてみたいと思います。

若者の酒離れに関して、ニッセイ基礎研究所の上席研究員の久我尚子さんが2020年のレポートで興味深い分析をしています。厚生労働省の「国民健康栄養調査」では、「週3日以上、1日1合以上飲酒する人」を「飲酒習慣がある」と定義しています。この飲酒習慣のある人の比率は1997年頃は中年男性では約6割だったものが、2017年には約4割に落ちています。この調査は2017年のものなので、コロナ禍と無関係の生活習慣変化を示している点に注意してください。

この飲酒習慣率の落ち方が顕著なのはやはり若者で、20代男性は20年間で31%から16%とほぼ半減、30代男性は55%から25%と大きく減少しています。女性の飲酒習慣率はもともと低いのですが、20代女性も9%から3%へと3分の1に落ち込んでいます。

■若者は決して飲み会が嫌いになったわけではない

では若者が飲み会に行かなくなったのかというと、そうでもないという証拠もあるそうです。たとえば日本能率協会が行った「2019年度新人社員意識調査」では、若者層もあいかわらず職場でのコミュニケーションを重視していて、飲み会にも参加する意思を持っているといいます。この調査では、同期との飲み会は約9割が、上司を交えた飲み会でも6割以上が「やりたい」と回答しています。

ところが飲み会に行ってもノンアルコール飲料を注文する。このようにお酒を飲まない人の中には、飲めない人だけではなく、飲まない人がけっこうな数でいらっしゃるそうです。

ここからひとつの仮説を立ててみます。以前の私の説は「お酒が嫌いな人が無理に飲まなくてもよい時代になった」「新ジャンルの登場で若い人たちがお酒はまずいと感じるようになった」という説でしたが、そうではなく「お酒が飲めるけれどあえて飲まない人が増えている」という要因が大きいのではないかという仮説です。

夕暮れのビーチでビール片手に楽しむ女性たち
写真=iStock.com/Kohei KAWABATA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kohei KAWABATA

■「体質的に酒を飲めない」は少数派

実は「20年前には30代以上の男性の6割が飲酒習慣があった」という数字と良く似た数字があります。ビールに関する好感度の調査で「ビールが好き」という人の比率が日本人全体の6割いるのです。また「お酒に強いか弱いか」はアルコールを分解するALDH2型の酵素の活性遺伝子の型によると言われていて、日本人の場合、アルコールに強い遺伝子の人は56%ということでこの数字も6割と近い数字です。

そしてALDH2型の活性の弱い遺伝子型にも2種類あって、ある程度は飲める日本人が全体の40%、まったく飲めない日本人が4%だと言われています。ちなみに私は残念ながらこの説の4%に相当しているのでまったく飲めない(というか飲むと頭痛がして呼吸が苦しくなる)のですが、逆に言えば「お酒が飲めない」という人は「お酒を飲まない人」の中でも少数派と言えるのです。

■「アルコールを飲むと生産性が下がる」

さきほどの仮説に戻ります。日本人の約6割はお酒をたくさん飲んでも大丈夫だし、実際ビールが好きで、にもかかわらず「飲まない人」が増えていて、その結果「よく飲む人」は20代男性では16%、30代で25%と少数派になっているという現象が、若者の酒離れの正体ではないかとう説です。

ではなぜ飲めるしビールをおいしいと思う若者が、飲み会でアルコールを飲まないのか? コロナの要因を除いてコロナ禍以前の状況を想定した話をすると、飲み会の回数が減っているわけではないようです。なにしろノンアルコール飲料市場は2017年ごろにはすでに急拡大しているのです。

そこで若者がアルコールを飲まない理由を調べると、

「アルコールを飲むと生産性が著しく下がるから」

という意見に目に留まりました。

そうなのです。ビールの話から少し離れて、若者文化を調べているとわかるのですが、若者は飲みニケーションは苦手といいますが、コミュニケーションに関しては中高年世代と比較すればきわめてすぐれた世代です。特に仲間内であればリアルとSNSのコミュニケーションを駆使して、20年前の世代とは比較にならないぐらい深く広く、周囲とのコミュニケーションをとる傾向があります。そしてお酒を飲みすぎるとそのコミュニケーションの生産性が下がってしまうのです。

■アフター5はスマホを触っていたい

実際、若い世代と一緒に飲み会をしていると、ほとんど皆といっていいくらい若者はしきりとスマホをいじりながら飲み会に参加してきます。私のようなおじさんは食事と会話に集中しているのですが、彼らは飲み食いして私との会話もたのしみつつ、同時にインスタ映えする料理の写真をSNSにアップして、LINEでその場にいない友人とも会話を楽しんでいる具合です。おじさんがお酒をのみながら生産性を下げている19時から0時までの時間帯に、若者はものすごく高い生産性でコミュニケーションを繰り広げているのです。

自宅のソファでスマホをみる少女
写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

どの仕事に就いているかにもよりますが、社会人の場合、通常は出勤から退社まで就業規則で勤務中にスマホで少なくともおおっぴらにはSNSなどプライベートの情報発信をしてはいけない人が多いのです。逆に言えばアフター5は彼らにとって待ちに待ったスマホタイム。そこでようやく触りたくて触りたくてたまらなかったスマホに思いっきり触ることができる時間が始まります。で、そこをアルコールに邪魔されたくないという気持ちが働く。その自制心が「若者のアルコール離れ」の犯人なのではないか? というのが今回の私の説です。

■コンビニドーナツが失敗したのもスマホのせい

実は「スマホが隠れた競争相手になっている」という商品やサービスは山ほど存在します。私は古い世代のビジネスパーソンなので仕事に持っていく鞄はTUMIのオールドタイプのブリーフケースです。しかし今、TUMIのショップに行くと売っている鞄の大半はリュックサックタイプです。かばんを手に持つと歩きスマホができないので、古いタイプのかばんは消費者に嫌われ始めているのです。

以前、コンビニ大手のセブンイレブンがドーナツ市場に参入して失敗したことがあります。アメリカでは朝、出勤時にコーヒーとドーナツを買って食べながら出社する人がたくさんいました。それをイメージしてセブンカフェの成功後、「左手にコーヒー、右手にドーナツ」を狙ったわけですが見事に失敗しました。右手にはスマホが握られていたからです。

雑誌が売れなくなった最大の理由もスマホです。雑誌が売れなくなり始めた当時「若者の活字離れ」だと言われましたが、実際には若者は毎日大量の活字をSNSで読んでいます。森永のチョコフレークや明治のカールが全国販売終了した理由は、あれを食べるとスマホを持つ手が汚れるからです。

■飲料メーカーの敵は同業他社ではない

それと同じ現象が今、アルコール業界にも起きているのではないかというのが今回の記事の内容です。スマホ登場以前のアフター5は、ビールをジョッキで3杯飲んで仕事のことなどぱーっと忘れて陽気にお酒を楽しむのが日本人の習慣でした。

ところがスマホが登場してからは、ビールは最初の1杯でやめにして、そこからはノンアル飲料で飲み会を楽しもうと考える人が増加した。なぜならば24時まではSNSに投稿するために脳みそを稼働させておかなければならないからです。

サントリーの競争相手はキリンでもアサヒでもなく、実は携帯各社とLINE、フェイスブック、YouTubeだという説です。「戦う相手を間違っていませんか?」ということでもう一度、アルコールの販売戦略を再検証してみるのはどうでしょうか。

----------

鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

----------

(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください