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月1のサイゼリヤが最高の贅沢…"バイト3つ掛け持ち"月収17万円・33歳女性が抜け出せないキャリアの蟻地獄

プレジデントオンライン / 2023年7月3日 19時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vitranc

非正規雇用から抜け出すにはどうすればいいか。33歳の女性はコロナ禍で事務系派遣を雇い止めになり、バイト3つを掛け持ちしている。どうにか生活はできているが、余裕はまったくなく、最高の贅沢はサイゼリヤだという。ライターの増田明利さんが書いた『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)より紹介しよう――。

※本稿は、増田明利『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)の一部を再編集したものです。

■震災の影響で入社延期からバイト→事務派遣へ

永島倫子(仮名・33歳)
出身地:愛知県豊田市 現住所:埼玉県志木市 最終学歴:大学卒
職業:アルバイト掛け持ち 雇用形態:非正規 収入:月収約17万円
住居形態:賃貸アパート 家賃:5万3000円 家族構成:独身 支持政党:特になし
最近の大きな出費:冬物衣料品のクリーニング代(3620円)

派遣先を雇い止めされて失職したのが2020年8月。新型コロナの影響は大きく、派遣会社から次の派遣先の紹介はない。仕方ないからアルバイトをしているが生活は日に日につらくなっている。

「半年先はどうなっているか考えるとブルーになります、本当に先が見えないから。わたし、何をやっても上手くいかないんです」

大学を卒業したのは11年3月。最初のつまずきはこのとき。就職先は決まっていたが東日本大震災の余波でまず入社延期ということにされてしまった。これがケチの付き始めだった。

「貨物運輸の会社だったのですが、4月入社から10月入社に半年延期するということにされたんです」

不安は大きかったが、望みを捨てずに飲食店や物販店でのアルバイトで暮らしていた。そんな中、業績の回復が遅れているので採用は白紙撤回するという紙切れ1枚で望みを絶たれた。

「ハローワーク、ヤングハローワークに通いましたが、良さそうな会社や仕事は少数で応募しても不採用の連続でした」

フリーターはまずいと思い、方向転換して事務系派遣の道へ。スタッフ登録したら1カ月もしないで派遣先が紹介された。

「業界大手の派遣会社だけあってクライアントは大手著名企業が多かったです。自分の出身大学を考えたらまず入社できないところばかりだったから、何か得したような錯覚を覚えました」

■交通事故に遭って派遣打ち切りへ

最初の派遣先は非鉄金属の大手で、職場は憧れの丸の内のオフィス。

「担当業務は文書ファイリング、データ入力、伝票作成など一般事務職の仕事です。これは派遣先が変わっても同じでした」

2年6カ月経った頃に電機メーカーの研究所に移され1年9カ月ほど働いたが、交通事故に遭って左足首を骨折する不運に見舞われた。

交通事故
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

「全治2カ月という診断でした。これで派遣打ち切りです」

治療費は相手の自動車保険で賄われたし、失職して得られなかった収入も補償してもらえたが、痛い思いをする、失業するで踏んだり蹴ったりだった。

「完治後に就職活動したのですがやはり上手くいかず、また派遣会社に連絡を取り、何とか派遣先をあてがってもらったんです」

紹介された派遣先は生命保険会社。やはり担当業務は事務処理全般。

「時給は派遣1年目が1460円でした。ずっとこの金額だったのですが人手不足と言われるようになってから小刻みに上がり、最高は1520円でした」

時給設定は絶妙でとびきり良くはないが、一般的なアルバイトよりはかなり高額。時間外手当は5時間分までは出してくれたので月収は24、5万円は確保できる。

「だけど年収は300万円が限度です。手当はないし賞与もない。休みが多いとノーワークノーペイなので仕方ありません」

■事務系派遣から抜け出せない

やはり直接雇用の方がいい、正社員の方が絶対に得だと感じ、派遣社員をやりながら改めて就職活動をしてみたが結果が伴わない。

「現実には年齢制限がありますから。30歳近くなると採用対象にならない感じでした。こういうわけで派遣から脱却できませんでした」

新型コロナが流行り始めた頃は、大手自動車会社の関連会社に派遣されていたのだが、突然雇い止めにされた。

「派遣会社のコーディネーターが言うには、クライアントさんの事情ということだけでした。1カ月後ぐらいに新聞に自動車会社本体に関する記事が載っていて、本社のスリム化、効率化を急ぐと書いてあった。おそらくですが本社の人数を削るために関連会社や子会社に異動させる、だから派遣には出ていってもらう。そういうことだと思いました」

トコロテン式に下の人間が切られた。そういうことだが身分は派遣会社の登録スタッフなのだから文句も言えない。

失職したのは20年8月半ば。お盆休み前が最後の出勤だった。

「派遣会社からは次の派遣先を探すのには時間がかかると言われて。失業手当を受けながら自分でも次の働き口を探したのですが思うようにいかず……。失業手当が終了してからは短時間のアルバイトを組み合わせてどうにか暮らしています」

■ゆとりのないアルバイト掛け持ち生活

とはいえコロナが収束していないのだから、アルバイトを探すのは簡単ではない。

「働ける日数、1日当たりの勤務時間が限られるんです。1つのアルバイトで1日4時間、週4日勤務。こんな感じです」

これでは月収7万円がいいところ。とても生活できないから曜日、時間帯をずらしてもう1つ、更に夜間のみの仕事を週3日追加。3つ合わせてようやく月収17万円という状態だ。

「1日に3つの仕事を掛け持ちすると身体には負担です。体調があまり優れないときはパンクしそうになります」

今のスケジュールはというと、朝8時から正午までは食品ミニスーパーで接客・販売、商品陳列など。帰宅して午後2時から6時まではホームセンターで配送手配、リサイクル処理などに関する事務作業。更に月水土の3日間は夜7時から10時まではファストフード店のカウンターで販売業務。

「3つ重なった日の夜はクタクタで何もしたくない。帰宅できるのは23時頃なので食事するのも億劫です」

食べないと身体が持たないから無理して何か口にするが、冷凍保存してあるご飯を解凍してインスタントみそ汁をかけたねこまんま、食パン2枚とコロッケ1個、玉子1個入れただけの煮込みうどんなどで手のかかる料理は作れない。

「疲れているときはお風呂も面倒になります。シャワーを浴びるだけです」

■休みの日はドカ食い。家計を逼迫する奨学金の返済も

午前中の仕事がない日は起きるのが11時頃。10時間近く眠ってようやく少し元気になる。

「月に3日、ないし4日は完全にお休みという日があるのですが、どういうわけかお腹が空いて仕方ないんです。三度の食事以外にクッキー、スナック菓子、カップ麺、バナナなどを食べてしまうことがあります」

カップ麺
写真=iStock.com/Yuto photographer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuto photographer

食欲不振とドカ食いの繰り返しで体重の増減が激しく、肌荒れやニキビができることもあるという。

「生活は今のところなんとかなっています。余裕はまったくありませんけど」

月収約17万円に対して支出はどうかというと、家賃とその他の固定費を合計すると7万7000円。更に社会保険料が約3万8000円で、残るのは5万5000円前後になる。

「ここから借金を返さなきゃならないんです。消費者金融とかカードのリボ払いじゃありませんよ。奨学金という名の借金です」

日本学生支援機構から貸与されたのは第二種奨学金で月額4万円。4年間で借りた総額は192万円にもなる。

「元利合わせた返済額は月1万1340円です」

返済は15年間180回払いなので返済総額は204万円ほど。

「これは何がなんでも返済しないといけません」

連帯保証人は父親、もう1人の保証人は兄。

「わたしが返済を滞らせたら父や兄のところへ請求書が行く。そんなことは絶対に避けたいから」

■最高の贅沢はサイゼリヤ。貧しいと孤独になる

手元に残った5万5000円から奨学金の返済分を抜くと、純粋な生活費として使えるのは4万3000円ほどだ。

「食費は絶対に1万8000円以内に収めるようにしています。だから買い物は閉店間際のスーパーと100円ショップだけです。値段のことを気にせず欲しいもの、食べたいものを買いたいと思うことがあります」

最高の贅沢はアルバイト代が入ったときだけ行くサイゼリヤでの食事だが、税込みで1000円が上限。

お洒落とも無縁で、女性には必需品の化粧品も倹約対象だ。以前は資生堂や花王の化粧品を使っていたが、今は低価格のちふれ化粧品か100均で売っているものが定番。

「服はバザーで調達することがあります。リサイクル店より安いから」

幼稚園、社会福祉団体、宗教団体などが主催するバザーで手に入れたものは、ウインドブレーカー、セーター、ジャージなど。どれもタダ同然の金額だった。

「収入が少なく、自由に使えるお金がなくて一番つらいのは、人付き合いができなくなることです。貧しいと孤独になるんです」

まず大学時代の友人たちとはほとんど交際がなくなった。年賀状のやりとりぐらいだ。

「特に結婚した人、子どもが生まれた人とは話が合わなくなって、何となく疎遠になってしまいましたね」

今やっているアルバイト先の人たちとも個人的な付き合いは皆無。

「世間話的な会話はするけどそれだけです。本当に上っ面だけの関係ですね」

■かつて想像した普通の人生ははるか遠くに

恋人はいない、友だちもいない、金銭的にも豊かではない。そうなると休みの日でも外出することなく部屋でツイッターを見ている。

「外出しなくなると自分と世間を繋ぐものはスマホだけになります。だけど滅入ることもありますよ。SNSを見ると有名人や起業家、自称投資家なんていう人たちがこれ見よがしにリア充ぶりを見せつけたり俺様自慢をしていますから、ああいうのを見ると劣等感を覚えちゃいます。自分とは人種が違うと思いますね」

増田明利『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)
増田明利『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)

もう派遣会社はあてにできないから時間を作ってハローワーク通いしている。だけどまだ新しい仕事は得られていない。

「不動産仲介会社の面接では、あなたの年齢では宅建士の有資格者で実務経験のある人が望ましいと言われてしまいました」

当日の夕方に不採用を知らせるメールが届き、翌々日には提出した書類を返送してきたそうだ。

「一般事務職の代用で派遣社員をやっていただけでは職歴とはみなされません。この先、どうなるのか不安です。本当に」

学生の頃は卒業したら普通に会社勤めをし、そのうち結婚。子どもができたら専業主婦に。35歳頃までにマイホームを買って中の上ぐらいの生活レベルを維持する。

そんな人生が普通で自分もそうできると思っていた。だけど普通ははるかに遠いところにあり、今は日々の生活を営むだけで精一杯。こんな生活からは1日でも早く脱したいと願う。

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増田 明利(ますだ・あきとし)
ライター
1961年生まれ。都立中野工業高校卒業。ルポライターとして取材活動を続けながら、現在は不動産管理会社に勤務。2003年よりホームレス支援者、NPO関係者との交流を持ち、長引く不況の現実や深刻な格差社会の現状を知り、声なき彼らの代弁者たらんと取材活動を行う。著書に『今日、ホームレスになった』(彩図社)など多数。

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(ライター 増田 明利)

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