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「こんな劇的な数値の変化は見たことがない」専門家が驚いた働く女性急増のウラで起きた"家の中の変化"

プレジデントオンライン / 2023年8月11日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

ここ数年の女性の活躍推進の影響が子育て世帯に対していかに大きな影響を与えたかを示すデータがある。雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんは「家事や子育ての外部サービスの利用に賛成する意見が圧倒的多数になった。4年でここまで顕著な数字の変化が出たデータを見たことがない」という――。

■社会が女性に働くことを要望した結果

1980年代から連綿と女性のライフサイクルの変化を振り返ると、それは以下のような流れになることが、前回(「『職場から“いい男”が消えた』自分と同格かともすれば自分以下…結婚しない女性が急増した本当の理由」)わかりました。

◇1990年代半ばまでの晩婚化要因
見合い結婚の減少→恋愛結婚の増加→交際期間の長期化→晩婚化
不況→短卒一般職採用の減少→OLモデルの崩壊→女性の四大進学率上昇→出会い年齢の上昇→晩婚化
◇1990年代後半以降の晩婚・未婚化要因
OLモデルの崩壊→一般職採用の減少→社内「お嫁さん候補」の減少→社内結婚の減少
四大卒女性の増加→女性総合職採用の増加→勤続の長期化→年収・地位の向上→おひとり様

端的に言えば、不況と少子化により、社会は女性に「お嫁さん」になることよりも、「働くこと」を要望するようになり、女性たちがそれに応えた結果、晩婚・未婚化が高進し、少子化に輪をかけたということでしょう。

こうした「お嫁さん」から「労働」へのライフサイクルの変化は、人々の「心」も都合の良い方向へと変えていきました。今回はその状況をデータで振り返ることにいたします。

■「女は働くべきでない」は、もはや0.7%

まず、「女性はずっと働き続ける」ということが、すでに社会的コンセンサスとなっている状況を見てみましょう。図表1は、出生動向基本調査から、女性の労働についてどうあるべきか、の色合いを示したものです。

【図表1】女性は働くべきか

1992年の時点は、「結婚まで」「出産まで」「働くべきでない」の3つの合計が29.5%で、「育児期間は休み、復職」を抜いてマジョリティとなっていました。まさに、「昭和型OLモデル」の時代と言えるでしょう。

ただ、昭和型のこの3意見は退潮を見せ、2002年には「育児期間は休み、復職」が僅差でトップになっています。

その後、急速に「ずっと働くべき」が増加し、2012年に45.9%でマジョリティに、2018年には61%にもなり、そのまま6割前後を推移しています。世の中の圧倒的多数が「女性はずっと働くべきだ」と考えており、これに「育児期間を除いて働くべき」という意見を加えると、おおよそ9割にもなるのです。

【連載】「少子化 女性たちの声なき主張」はこちら
【連載】「少子化 女性たちの声なき主張」はこちら

そう、女性が一生働くという社会的合意がなされたといえるでしょう。

一方、「働くべきではない」は2022年にはわずか0.7%で、もはや絶滅危惧種、「結婚まで」も2.6%であり、寿退社(結婚退職)などという言葉は死語同然になっています。

■反動を経て、ようやく性別役割分担の否定が大勢に

出生動向基本調査では、「男性は外で仕事をし、女性は家庭を守るべきか否か」という質問を、長年にわたり聞いています。このような古い性別役割分担意識は、欧米先進国ではとうの昔に少数派となり、お隣韓国でも20年も前から否定されています。そうした中、日本だけは賛成派がマジョリティとなり続けていました。

【図表2】夫は外で働き、妻は家庭を守るべき

この性別役割分担について、否定派が半数を超えたのが2007年のこと(52.1%)。2009年には否定派が55.1%まで増えるのですが、それ以降、反動があり、2012年調査では再び5割割れとなっています。なぜこんな反動が起きたのか。企業内人事に詳しい人はよくわかるでしょう。2000年より四大女性総合職が増えだしたのですが、それは、何の準備も整わない中で、男社会にいきなり女性を放り込んだに他なりません。彼女らが出産適齢期になる頃に、そのひずみが訪れたわけです。

子どもができるまでは、何とか男社会に合わせて働けたフロンティア女性たちも、出産により、育休や短時間勤務を余儀なくされます。結果は、惨憺(さんたん)たるものでした。

まず、彼女らの休業・時短分の仕事が周囲の人たちにしわ寄せされます。ここで、非難が起きました。少なくない出産女性社員たちが、そのバッシングに耐えられなくなってしまいます。また、当時の短時間復職は、バリキャリ女性に対して、単純なルーティンを押し付けるというような無理筋のものも少なくありません。それでまた、心折れる女性がいました。

こうしたことで、会社の中で、「女性」に対して良からぬ雰囲気が醸成されていきます。

■共働きの価値観は盤石なものとして定着

この時期、特徴的だったのは、女性自身の心の反動です。2012年の調査では、「男は外に、女性は家庭で」への支持が2009年よりも10ポイントも高くなっています。

こうした状態では、早晩、脂の乗ったバリキャリ総合職女性たちはこと切れてしまう……。このあたりから、企業の「女性活躍推進」が進みだすのは、こうした背景があったからでしょう。

そして、女性の働きやすい環境や、男性のイクメン化などの施策が次々繰り広げられ、「男性は外、女性は家庭」という意識は退潮し、否定派はたった10年で20ポイント近くも伸びました。直近の22年では、否定派が64.3%と圧倒的多数となっており、ようやく、先進国の最末端あたりにこぎつけました。国際的にはまだまだな水準ですが、それでも、2012年のような反動が起きるような脆弱(ぜいじゃく)さは見られません。

長年、この数字を見続けた私からすると、「よくぞここまで来た」と感慨無量です。

■昨今は、非正規でも出産継職が当たり前

女性が働くことが当たり前となり、そして、サポートも拡充していくことにより、結婚・出産での就業継続率は急上昇を見せます。直近であれば、結婚しても仕事を続ける人が79.8%。出産しても仕事を続ける人が正社員は91.3%となっています。

【図表3】結婚、出産における就業継続の割合(女性)

結婚よりも出産の数字が高いことに違和感を持つ人もいるでしょう。その理由は、まず、結婚には正社員・非正規社員のほかに、自営業者やその家族なども含まれていることが挙げられます。もう一つは、出産の数値は、「結婚退職せず、就業継続した人」を分母にしているため、労働志向が強いこともあるでしょう。

特筆すべきは、非正規の出産後の就業継続率で、こちらも直近60%と急上昇を見せています。この数字は今後さらに伸びそうです。

いかがですか?

「女性はずっと働くべきだ」という意見が社会的合意となる中で、当の女性たちはそれにしっかり応え続け、結婚しても出産しても働きぬく姿勢を示しているのです。

■妻が見た夫像さえ「頻繫に家事をしている」

さて、こうした社会・会社の変化に対して、家庭内はどうだったでしょうか?

もし、全く変わらず昭和のままだったら、「働け」「産め」「家事をしろ」では女性は燃え尽きてしまいますよね。そんな無理な状態から、家庭も遅ればせながら、少しずつ、かつ、近年急速に変わりつつあるようです。

出生動向基本調査から作った図表4と5をご覧ください。

【図表4】夫の家事支援
【図表5】夫の育児支援

これは、既婚女性に聞いた自分の夫の家事育児支援状態です。

直近では、「日常的に支援している」が、家事41%、育児34%でトップ。これに「ひんぱんに支援してくれる」が、家事23.4%、育児14.8%あり、両方加えると、普通に支援してくれる夫が、家事では6割強、育児で約半数となっています。

■見た目の数字以上に伸びている夫の育児時間

続いて、こうした体感値ではなく、実際にどのくらいの時間、夫は家事・育児を手伝ってくれているかを数字で確かめてみましょう(図表6)。

【図表6】夫の家事育児時間(乳幼児のいる家庭)

こちらも、出生動向基本調査から作った図となります。

専業主婦家庭では、夫の家事育児支援が短くなるので、ここでは共働きでなおかつ6歳未満の乳幼児がいる家庭を調べました。データは「(夫婦)共に正社員」と「共に雇用」と2つあります。後者には、妻がパートタイマーやアルバイトなどの非正規である場合を含めた数字となっています。妻が時間的余裕のあるパートやバイトをしている場合は、夫の家事育児支援時間は短くなりがちだということを念頭に図を見ていきましょう。

夫の育児は、2006年に30分しかなかったものが、直近、共に雇用では61分、共に正社員では73分に伸びています。続いて、それらが、妻の行動時間の何%に当たっているか、が棒グラフになっています。かつては、26.3%だったものが、現在では、共に雇用31.1%、共に正社員では34.8%に伸びています。

実は、この調査で調べる育児時間には、「子どもと遊ぶ」行為もカウントされています。これは主に楽しいだけの話で妻のサポートにはならないでしょう。1日正味20分程度はこうした「遊ぶ」がカウントされています。これを差し引くと、2006年はたった10分となる。こんなのは、実質的な育児時間とは言えないでしょう。対して、直近であれば、「子どもと遊ぶ20分」を差し引いても、雇用者41分、正社員なら53分とそこそこの時間になっています。そう、だから単純な数字の伸び以上に、夫の支援は増えているのでしょう。

■妻の2~3割程度だが進歩はしている

家事については、総じて育児より数字が低いのですが、これも、先ほどの話の通り、育児には「子どもと遊ぶ」時間が20分程度含まれているからだ、と考えるとわかりやすいでしょう。それを除くと、ほぼ同じような推移となります。

とまれ、今の乳幼児がいる共働き家庭では、夫は、子どもと遊ぶ以外に、育児と家事でゆうに1時間以上、汗を流している。もちろん、それでも妻の2~3割程度にしかならないし、「支援」「サポート」という意識がそもそも……といった声も聞こえてきそうですが、昭和時代の男である私たち世代から見ると、長足の進歩であり、今後に期待が持てるところです。

■少しは欧米に近づいた夫の家庭内労働

少し古い2017年のデータですが、夫の家事・育児労働がどれほどか、国際比較した資料があります。

【図表7】6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児関連時間(1日当たり、国際比較)
内閣府HPより(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-03-08.html)

これで見ると、家事の時間はまだまだ全く足りませんが、育児であれば、ようやく欧米に手が届きだしたのが見て取れます。これから5年たった直近データで比べれば、育児についてはそこそこ比肩できるレベルになってきているはずです。

夫が家事育児をすることは、夫自身の意識を変えます。それが妻の数分の1だったとしても、大きな変化が起こります。

まず、家事・育児作業の大変さを理解してくれるようになる。それだけで、妻の心の負担が相当軽くなります。

2つ目に、「こんなに大変だ」という意識から、「何とかこの煩わしさを軽減したい」という気持ちが湧き上がります。結果、それまでは妻に強要していた家事育児を、外部業者に委託することも、いとわなくなっていく。

この2つの変化で、妻の心は相当救われるでしょう。

■苦労を知った夫たちは、外注を許し始めた

そのことが、端的に示されたデータがあります。

【図表8】育児の外部サービスを利用すべきか?
【図表9】家事の外部サービスを利用すべきか?

こちらは、出生動向基本調査で、家事・育児の外部サービスを利用すべきか否かを育児家庭に問うたものです。原資料では、さらに細かく「残りの部分は夫婦半々、妻が主、夫が主」と3分類されていたものを、2つに再集計しています。

色々な公的データを長く見てきた身として、この資料は驚くべきものだ、と思いました。母数がしっかりした調査で、たった4年という短い期間に、これほどまでに数字が変化した統計を私は見たことがないからです。中でも、育児に関しては2018年に外部サービス利用への賛成が33.5%とマイナーだったものが、2022年には74.1%と圧倒的多数になっています。実際にベビーシッターなどの利用者はほんの数%にしかなっていないので、これは、「心」の変化に留まり、行動には移ってはいないのですが。

にしても、なぜここまで急に大変化が起きたのか。私はこの間に進んだ女性活躍の波が、それだけ大きかったのだと思っています。会社や社会の要請で、形だけでも育児や家事に携わった世の夫たちは、そのあまりの過酷さに気づき、この作業と会社勤務を並立させることは困難と、頭を切り替えたのでは……とみています。

世の夫にとっての育児・家事参加は、まだほんの一歩でしかありませんが、実に大きな一歩だったと思えます。

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海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト
1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。

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(雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生)

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