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「居眠りを10分以上しない」「冷蔵庫の中の食品は賞味期限をよく確認」社労士が出会った味わい深い就業規則

プレジデントオンライン / 2023年8月9日 18時15分

10分なら居眠りも認められるのか(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Casanowe

就業規則は会社によって違う。社労士の村井真子さんは「就業規則のうち、特に服務規定と懲戒規定には会社独自の考え方や働くうえでの事情など、会社の歴史が反映されているので、一度はじっくり読んでおくといい」という――。

※本稿は、村井真子『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)の一部を再編集したものです。

■就業規則には会社の個性が表れている

私は社会保険労務士という仕事柄、いろいろな会社の就業規則を拝見します。そうしたときに感じるのは、就業規則にその会社の個性が表れているということです。

雇用促進や職場改善などの助成金が加わる場合、就業規則に新しい規定を追加することが一般的ですが、そのときにあわせて確認するのは次の2点です。

① かつて合法であったが、法改正によって現在は違法に変わった部分
② 新設の法律により規定しなくてはならないが、まだ未策定な部分

①や②についてまめに対応している会社は、部署でしっかりと管理している、もしくは専任の担当者がいるんだなとわかります。

■読んでみるとおもしろい「服務規程」「懲戒規定」

また、読んでいておもしろいのは服務規定と懲戒規定です。

「居眠りを10分以上しない」
「冷蔵庫の中の食品は賞味期限をよく確認して食べる」

という規定を実際に見たことがあります。

10分なら居眠りも認められるのかな? と思ったり、賞味期限切れの食品で腹痛を起こした社員がいたのかな(もしかして労災?)なども想像されます。

このように会社独自の考え方や働くうえでの事情が就業規則に表れるので、モデル就業規則をそのまま使う会社に比べて、そこには「人格」のようなものさえ感じられるのです。

でも、意外と就業規則を隈なく読み込んでいる人は少ないようです。

おもしろい記載を見つけてその会社の人にお話しすると、「そんな規定ありましたか?」と驚かれることもあります。

就業規則には会社の歴史が反映されていることもありますので、一度は熟読してみるといいでしょう。

■「インフルエンザやコロナで出勤停止」法的な根拠はない

社会人に対し、インフルエンザなどの感染症について出勤を禁じる法律はありません。

ちなみに、新型コロナウイルス感染症については厚生労働省が特別に呼びかけたことで、陽性ないし濃厚接触者である社員の出勤停止措置を講じる企業が多くみられました。

マスク着用で咳をするビジネスパーソン
写真=iStock.com/takasuu
「インフルエンザやコロナで出勤停止」法的な根拠はない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/takasuu

陽性であれば業務不履行のために無給、濃厚接触者であれば休業補償ないし有休で対応した企業が多かったようです。

子ども・学生については学校保健安全法で感染症予防について定められており、インフルエンザやおたふく風邪(流行性耳下腺炎)などの感染症を発症した場合、一定の期間、出席停止になります。

これは学校が集団生活の場であることから、感染を広げないための措置なのですが、労働者にこうした規定を設けた法律がないのです。

■安全配慮義務違反に問われる可能性

インフルエンザをはじめとした感染症でも出勤すること自体は行政法規違反ではありません。

したがって、出勤した労働者本人を取り締まることはできません。

ただし、感染症に罹患(りかん)している労働者を就労させ、かつ周囲にも感染リスクを拡大させたということで、会社は労働安全衛生法上の安全配慮義務違反に問われる可能性があります。

しかし、会社も集団生活の場です。また、労働者は会社に対して労働時間内は労働力を提供する義務を負っているので、その観点からもうつさない・うつらない努力は必要です。

■「出勤停止を命じる就業規則」がある場合も

インフルエンザは、高熱が出たり身内で発症者が出たりするなどの自覚症状がある場合と、本人に自覚症状がない場合があります。

急を要する仕事があり、労働者本人が働ける状態であるとして就労を希望しても、自覚症状があるときは労働者と会社とが協力して一定の感染予防措置を取るべきです。

その労働者が出勤することで社内に感染症が蔓延するリスクは、企業としての経済活動において、また他の労働者の安全配慮義務の観点からも重大な問題になる可能性があります。

問題は本人に自覚がない場合です。自覚がなければ、会社も労働者が罹患している事実を認識する機会がなく、就労を止められません。そこで、感染症に罹患している恐れのある社員に出勤停止を命じる就業規則を持つ会社もあります。

この場合、結果としてインフルエンザに罹患していた場合は、労務の提供ができないために賃金の支払いはありませんが、休業日数によって健康保険の傷病手当金の対象になります。罹患していなかった場合は、会社命令で休むことになり、一日につき平均賃金の6割が休業補償として保障されます。

また、特別有給休暇として休暇を与えるケースもあるようです。

■「性自認と異なる性別の制服」の着用は拒否できるか

「性自認」とは、身体の生物学的な性別にかかわらず、どの性別に自分が属している、あるいは属していないという自分の認識のことです。

性自認と異なる服装を着るのは非常につらいでしょう。でも、勤務時の制服着用という服務規定があると、性自認と異なる服装を強制されることはままあります。

「性自認と異なる性別の制服」の着用は拒否できるのか(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/1shot Production
「性自認と異なる性別の制服」の着用は拒否できるのか(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/1shot Production

まずは、会社に率直に相談してみるのが一番でしょう。制服を着ること自体に抵抗がないなら、性自認に合うほうを着用したいと交渉してみるべきです。

一方の性別にのみ制服があるのであれば、その制服と釣り合いの取れた私服での就業を認めてほしいと交渉する手もあります。

■服装の自由は憲法が保障

そもそも、服装に関する自由は憲法第13条によって保障されている自己決定権と幸福追求権に含まれると考えることができます。

日本国憲法第13条では個人の尊重、幸福追求の権利を保障し、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定めています。

誰もが持つ権利を、制服着用の強制によって制限するのですから、その範囲は「仕事をする上で必要な範囲」であるべきです。

■「服務規程で頭髪の色を制限」は認められる場合も

裁判でも、企業が労働者の服装に制限をかけられる範囲は、「企業の円滑な運営上、必要かつ合理的な範囲内にとどまるもの」と判断された例があります。

東谷山家事件(福岡地判平9年12月25日判決)は、トラック運転手の頭髪の色が服務規程に違反しているとして行われた解雇の正当性が争われた事件です。

企業が服務規程によって労働者に一定の制約をかけることは認められた反面、その制限行為は無制限に許されるものではないとされました。

「服務規程で頭髪の色を制限」は認められる場合も(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/electravk
「服務規程で頭髪の色を制限」は認められる場合も(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/electravk

つまり、最低限、性自認に基づいた制服の着用を服務規程で定めることは認められます。

もし自分の性自認に一致する制服を着られないのであれば、私服勤務ができる部署に異動を願い出ることも現実的な選択肢になるでしょう。

話をしたらアウティングされそう、差別を受けそうだという懸念があれば、そのような会社からの転職をお勧めします。

残念ながらトランスジェンダーに対する社会の理解はまだ十分にあるとはいえません。言いたくなければ言わなくてもよいのです。

相談することも含め、その自由は当事者の側にあります。昨今はダイバーシティ&インクルージョンの観点から、制服も男女共用のデザインを採用したり、服務規律を見直す企業も増えています。

こうした情報も収集しながら、自分に最もよい選択肢をとれるよう、日頃から会社と信頼関係を構築していくことが重要です。

■「子どもの発熱で欠勤」でペナルティは労働基準法違反

遅刻や欠勤、早退においてペナルティがあるという企業は、残念ながら少なからず存在するようです。

子どもの発熱は突発的に起こります。また、本人の体調不良なども前もって予測できず、当日欠勤や出勤直前の連絡になってしまうのはしょうがないことでしょう。

やむを得ない理由でも金銭的なペナルティがあるのは、賠償予定額を定めることを禁止する労働基準法違反の可能性が高くなります。

例えば、次の場合が当てはまります。

・遅刻すると1日分の欠勤控除になる。
・欠勤するときは自ら自分の代わりの人を探し、いなければ罰金を払う。

さらに、これが給与から天引きされていたら、賃金全額の原則にも違反します。

■欠勤した分の給与カットは合法

もっとも、欠勤した1日分、遅刻や早退した時間分についての給与がカットされることは合法です(ノーワーク・ノーペイの原則)。

子どもの発熱時に労働者が使うことができる権利に「子の看護休暇(※1)」制度があります。

※1 子の看護休暇は育児・介護休業法(正式名称 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)第16条の第2、第16条の第3、第16条の第4項で定めています。また、子の看護休暇を利用したいと申し出たり、実際に利用したことについて、「当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と定めています。

これは「育児・介護休業法」で保障された権利で、「未就学児を持つ労働者は年5日、子の看病等を理由に休むことができる」というものです。

この制度を使って休みを請求されたら会社は拒むことができません。

また、制度利用のための医師の診断書は不要です。

村井真子『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)
村井真子『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)

証明として提出を求めるにしても、保育園の欠席がわかる連絡帳や病院の領収証、市販薬の購入レシートなどでもよいとしています。

有給休暇とは異なり、会社が繁忙期であってもこの申し出は断れないとされ、専業主婦・専業主夫のパートナーがいても利用できます。

休める日数の上限は、子どもが複数いた場合は年10日、突発的な発熱だけでなく、予防接種や乳幼児健診なども利用範囲に含まれます。

この制度で休んだ場合、該当する時間分の欠勤控除を行うことは合法ですが、人事評価の対象で不当に評価することは不利益扱いとされて禁止されています。

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村井 真子(むらい・まさこ)
社会保険労務士
家業である総合士業事務所で経験を積み、2014年、愛知県豊橋市にて独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所等での行政協力業務を経験。あいち産業振興機構外部専門家。地方中小企業の企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築、組織設計が強み。現在の関与先160社超。移住・結婚とキャリアを掛け合わせた労働者のウェルビーイング追及をするとともに、労務に関する原稿執筆、企業研修講師、労務顧問として活動している。著書に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)。

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(社会保険労務士 村井 真子)

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