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結婚式離れに喘ぐブライダル業界を補助金で救う必要はあるか…税金の無駄遣いを招く"利権暴走"のカラクリ

プレジデントオンライン / 2023年8月24日 9時15分

2023年3月30日、東京で開催された「プライド7サミット2023」でスピーチする森まさこ内閣総理大臣補佐官(女性活躍及びLGBT理解増進担当)。 - 写真=AFP/時事通信フォト

森まさこ首相補佐官が自身のXで投稿した「ブライダル補助金」が物議を醸している。経済評論家の渡邉哲也さんは「ブライダル業界はコロナ以前から淘汰の波にさらされていた。そんな業界をあえて補助金で救う必要があるのか、ということがこの問題の本質だ」という――。

■少子化対策のようにみえるが全くそうではない

森まさこ首相補佐官の「ブライダル補助金」に関するツイート(X)が炎上している。

内容的には、「先日、経産省サービス産業課よりレクを受けました。議連の要望が叶い新設されたブライダル補助金の第一次、第二次公募の結果について報告を受け、夏の概算要求に向けた対応も説明を受けました。これを受けて秋に議連を開いて議論して参りたいと思います」というものである。

ブライダル補助金は一見、少子化対策の一環のようにみえるが、実はそうではない。ブライダル業界を支援するものであり、インバウンドを支援するもので「外国人による日本での挙式を促す補助金」である。確かに結婚式場などウエディング業界には恩恵があるが、外国人への補助金政策ともいえるものなのだ。

■特定の業界だけが優遇されてはいけない

また、これに関係して、森まさこ補佐官の政党支部が、結婚関連企業大手テイクアンドギヴ・ニーズ(T&G)から100万円の献金を受けていたことも、大きな批判の的になっている。状況次第では贈収賄が成立する案件でもある。

この問題であるが、政治家が業界団体などからの陳情を受けることは当然の話であり、憲法で定義された請願権の一部といってよい。ただし、そこに特定の業者との癒着や金銭の授受があってはいけないわけだ。同時に陳情を受けたとしても、それが国民全体の利益になっていなくてはいけない。特定の業界だけが優遇されてはいけないのである。

■そもそも、ブライダル業界を救う必要はあるのか

確かにウエディング業界は、コロナで大きな影響を受けただろう。ただし、それはウエディング業界だけの話ではなく、多くの業界に共通するものである。

また、コロナがなくとも、結婚式というものの在り方が大きく変容しており、「なし婚」「地味婚」が増え、結婚式場での派手な結婚式を行うカップルは減少し続けていた。この問題の本質は、核家族化が進み、職場などの人間関係も希薄化しており、派手な披露宴を無駄と考える人が増えたことであると考える。つまり、ブライダル業界はコロナ以前から淘汰の波にさらされていたわけだ。そんな業界をあえて補助金で救う必要があるのかという問題なのだ。

結婚式のビュッフェ
写真=iStock.com/LElik83
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LElik83

これはウエディング業界だけの話ではない。かつて、百貨店と銀行はつぶれないといわれていた時代もあった。しかし、バブル崩壊以降、百貨店の数は大きく減少し、銀行も淘汰の波にさらされ続けている。これは時代の変化によるものであり、受け入れざるを得ないものである。

大学や高校などの学校も同様であり、外国人留学生と巨額の補助金で学校を維持するのは本末転倒であり、日本人の税金が無駄に使われている実例といえるのだろう。

■省庁と議員による利権構造

なぜ、このような無駄が許されるかといえば、各省庁と議員による利権構造がそこに存在するからといえる。

多くの学校法人は文部科学省からの天下りを受け入れ、学校は各種補助金獲得のために奔走する。令和4年度の私立大学等経常費補助金だけで約3000億円であり、他にもさまざまな補助金が支給されている。また、外国人留学生制度の予算は264億円程度となる。それは本当に必要なのかということなのだ。

確かに大学には研究機関としての役割もあり、それが日本の発展を支えている側面があるが、それは一部の大学であり、ただ単に学位を得るだけの場になっている大学も多い。

学生から選ばれなくなった大学をわざわざ補助金で救う必要があるのか、という問いは、今回のブライダル補助金とまったく同じ構造になっている。

■誰も注目しない「予算決定までのプロセス」

これらの問題の根幹にあるのは、省庁別の縦割りと政官民が一体となった利権構造ということになる。法整備面ばかりが注目されるが、国の基本は予算である。年一度の通常国会では予算審議を行い、予算を決定する。国が行う事業はほぼすべてこの予算で決まり、予算が執行されることでさまざまな事業が行われるわけだ。

だが、予算の決定までのプロセスに関しては、ほとんどの人やメディアは注目していない。ここに大きな問題があるといえる。1月の通常国会が始まり予算案が提出されると、翌年度の予算編成が始まる。各省庁が翌年度以降の事業について、有識者や業界団体などを呼んで、編成作業を開始する。そして、7月には「骨太の方針」が決定する。

実は「経済財政運営と改革の基本方針」通称骨太の方針が一番の予算の肝であり、ここに入っている文言が予算に反映されるわけだ。これは各省庁と自民党の「部会」、政調会で調整され、総務会で機関決定。これらを自民党と政府の間で調整し、閣議決定する仕組みになっている。

国会議事堂
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■国益に反していてもゴリ押しで通ってしまう

良くも悪くも、ここに長年政権を担ってきた自民党の正と負が存在するのである。国会は17の委員会で構成され、各専門分野別に個別の委員会となっている。財政金融や厚生労働、外交防衛など専門別に分けられているわけだ。どうしても、国会中継が入る予算委員会ばかりが注目されるが、それは最終的な調整のための委員会であり、根本は個別の委員会で決定するのである。

そして、自民党には各委員会に合わせ部会制度というものがある。部会には役人も出席し、予算や事業についてのレクチャーを受けるとともに各議員の陳情案件などを審議するわけだ。これを平場の議論と呼ぶ。部会には各部会の議員(一般的に族議員と呼ばれる)以外でも自民党国会議員であれば誰でも参加できる。一般的に国会は9時から始まるため、部会は国会の準備を兼ねて8時から始まる仕組みになっている。実はここで政策と予算のほとんどが決まってしまうのである。

問題は、ここに役人たちの利権と議員の陳情案件が多く含まれることであり、それが国益に反していてもゴリ押しで通ることがあることにある。

■国民感情に反した政策や予算が連発される理由

さらに、予算は基本、前例踏襲であり、時代にそぐわなくなっても、無駄になってもなかなか削られないことも問題だ。自らの省庁の予算を増やすことが役人の手柄であり、族議員はそれを後押しするとともに自らの実績にするわけだ。これらが間違った方向で出ているのが、国民感情に反する各種政策や予算ということになる。

議員は選挙で選ばれる。そして、役人と異なり各分野の専門知識を持つ人は少ない。議員を育てるのが部会制度であるが、同時に長年のなれ合い構造による問題も生じるのである。そこで、政権交代でこれを壊すという話になるが、過去の政権交代の例を見てもわかるように、それは簡単ではなく、逆に議員側が素人集団の集まりになってしまうため、役人たちに牛耳られることになる。

■コロナ禍に新たな利権が生まれ、暴走している

また、コロナは予算を大きく変えたことも大きい。景気対策、雇用対策等で膨大な新規の事業計画が生まれ、それを個別に丁寧に精査することなく、緊急性を優先する形で即時予算化された。ここに、新たな利権が生まれ、それが暴走しているともいえる。その最たるものが森補佐官の「ブライダル補助金」であるといえる。

今回、森まさこ首相補佐官の不用意なツイートで発覚したこの問題であるが、先述のようにこれはブライダルだけの問題ではない。すべての分野で同様の案件があり、時代にそぐわなくなっても続いている補助金が多数存在する。本来、このような問題を指摘し改善を求めるのが野党の役割といえるが、それが機能していないのが日本の最大の問題であり、またメディアの役割でもあるといえる。

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渡邉 哲也 (わたなべ・てつや)
経済評論家
1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。主な著書に、『世界と日本経済大予測』シリーズ(PHP研究所)、『「米中関係」が決める5年後の日本経済』(PHPビジネス新書)のほか、『「中国大崩壊」入門』『2030年「シン・世界」大全』(以上、徳間書店)など多数。

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(経済評論家 渡邉 哲也 )

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