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早期に治療しないと「焼けるような」痛みが長期化する…日本人の9割がウイルスを持つ"帯状疱疹"への対処法

プレジデントオンライン / 2023年9月28日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Viktoriya Kuzmenkova

帯状疱疹の患者が増加傾向にあると言われている。産業医の池井佑丞さんは「医師の4人に1人が増加していると回答している調査がある。帯状疱疹で重要なのは早期に治療することだ。50歳以上はワクチン接種も考えた方がいい」という――。

■日本人成人の90%以上はウイルスを持っている

最近テレビやCMでもよく目にする帯状疱疹。コロナ禍のストレスで患者は増加傾向にあるといわれています。ある調査では、コロナ禍以降の帯状疱疹の診療について医師に尋ねたところ、4人に1人が「増加している」と回答しています。(m3.com 臨床ダイジェスト「コロナ禍での帯状疱疹患者、医師4人に1人が「増加」」2022年5月20日)。帯状疱疹の発症メカニズムや特有の痛み、後遺症、ワクチン接種による予防などについてご紹介します。

帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる皮膚病です。子どもの頃に水ぼうそう(水痘)を発症したことがある人は、体内にこのウイルスが残っており、これが何らかの要因で再活性化したときに発症します。

ウイルスの再活性化のきっかけとしては免疫力の低下が挙げられるので、持病があったり、疲労や過度なストレスがかかったりしたときに発症しやすくなります。日本人成人の90%以上はこのウイルスが体内に潜伏しており、帯状疱疹を発症する可能性があります〔国立感染研究所「年齢/年齢群別の水痘抗体保有状況 2017年」〕

さらに、加齢も大きな要因で、50歳以上から発症率が高くなり、80歳までに3人に1人が発症するといわれています(厚生労働省「帯状疱疹ワクチン ファクトシート」平成29(2017)年2月10日)

■「ピリピリする」「チクチクする」特有の痛み

帯状疱疹の初期症状は、体の左右どちらかの神経に沿った皮膚の痛みです。再活性化したウイルスが神経を傷つけながら皮膚に向かうことから痛みが生じます。「ピリピリする」「チクチクする」「針で刺すような」などと表現される特有の痛みがあります。その後、皮膚に小さなぶつぶつ(発疹)ができ、水ぶくれへと変化し、次第に数が増え帯状に広がります。痛みと発疹がほぼ同時に出る場合もあります。上半身を中心に、背中や脇腹などに出る方が多いですが、顔面や目の周りに出る場合もあります。

治療は、原因となるウイルスを抑える抗ウイルス薬が中心となり、内服薬のほか塗布薬、点滴、注射とさまざまです。重症患者に対しては入院による点滴治療、強い痛みに対しては神経ブロックという治療が行われる場合があります。

■早期治療で「長く続く痛み」は予防できる

皮膚症状が治ると多くの場合は痛みも消えますが、神経の損傷によりその後も痛みが続くことがあり、これを「帯状疱疹後神経痛(PHN)」と呼びます。PHNは帯状疱疹の合併症で、「焼けるような」「締め付けるような」持続性の痛みや、「ズキンズキンとする」痛みが特徴です。

50歳以上で帯状疱疹を発症した人のうち、約2割がPHNになるといわれています。PHNは、抗ウイルス薬で予防が可能です。皮疹出現後3日以内に投与することが望ましく、遅くとも5日以内に投与を開始し、早期に治療することが重要です。帯状疱疹の合併症としてはPHNが最も頻度が高いですが、発症部位によっては、角膜炎、顔面神経麻痺、難聴などが合併することもあります。

■50歳以上はワクチン接種が推奨されている

冒頭でご説明したとおり、帯状疱疹の原因となるウイルスは水ぼうそうにかかったことがある人なら誰もが持っていますし、発症には免疫力の低下が大きく関わっているため、日頃から疲労やストレスをためないことが大切です。疲労や加齢以外では、悪性腫瘍、重症な感染症、放射線や紫外線の曝露、免疫抑制剤や抗がん剤使用などが免疫力低下を招く可能性があります。

過去に水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫を獲得していても、加齢とともに効果は弱まるため、帯状疱疹発症のリスクは高まります。特に発症率が増加する50歳以上の方はワクチン接種が推奨されています。ワクチン接種は帯状疱疹を完全に防ぐものではありませんが、たとえ発症しても症状が軽く済むこと、PHNへの有効性も88.8%〔シングリックス®(後述)でのデータ〕であり、高い有効性も証明されました(Cunningham AL, et al. :Efficacy of the Herpes Zoster Subunit Vaccine in Adults 70 Years of Age or Older, N Engl J Med. 2016 Sep;375(11):1019–1032.)

ワクチンの入ったバイアルと注射器
写真=iStock.com/sefa ozel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sefa ozel

■2種類のワクチンがあり一長一短

ワクチンには、2016年に認可された「弱毒生水痘ワクチン」と、2020年に認可された「シングリックス®」の2種類があります。

「弱毒生水痘ワクチン」は、水痘・帯状疱疹ウイルスを弱らせ病原性をなくし、乾燥凍結させたもので、60歳以上で接種した場合、68%の予防効果がみられますが、8年目に32%まで低下します(Céline Boutr, et al : The Adjuvanted Recombinant Zoster Vaccine Confers Long-Term Protection Against Herpes Zoster: Interim Results of an Extension Study of the Pivotal Phase 3 Clinical Trials ZOE-50 and ZOE-70,Clinical Infectious Diseases, Volume 74, Issue 8, 15 April 2022)。接種回数は1回で、シングリックス®よりも安価(1回接種で約8000円)で受けることができます。副反応で注射部位の痛みや腫れや水痘症状が出ることがありますが、副作用は比較的少ないです。ただし、妊娠中の方や免疫抑制患者など、接種できない方もいます。

「シングリックス®」は、病原性をなくしウイルスの一部のみを使用した不活化ワクチンです。50歳以上で97.2%の予防効果があり、10年後も80%を超える長期予防効果が期待できます(GSKプレスリリース「GSK、50歳以上の成人を対象とした「シングリックス」の臨床試験で、少なくとも10年間の帯状疱疹に対する予防効果が示されたことを発表」2022年10月20日)

ただし、弱毒生水痘ワクチンと異なり2回接種しなければならず、価格も高価(2回接種で約4万5000円)です。副反応は注射部位の痛みや腫れ、全身的な倦怠感、頭痛、筋肉痛、悪寒、発熱などがあり、弱毒生水痘ワクチンよりも強く現れる傾向があります。

体温計の表示を確認している女性の手元
写真=iStock.com/Ridofranz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ridofranz

■発症率は10年で1割増加している

費用に関しては一部を助成する自治体も増えているので、接種を希望する方はお住まいの自治体ホームページなどを確認してみてください。

また、50歳以上に加え、2023年6月からは帯状疱疹にかかるリスクが高いと考えられる18歳以上で、病気や治療により免疫不全となった人や免疫機能の低下やその可能性がある人、医師が接種を必要と認めた人へと対象が拡大されました。

1997年から2006年にかけて行われた「帯状疱疹に関する大規模疫学調査(宮崎スタディ)」では、10年間で県内の患者4万8388人のデータを解析したところ、10年間の発症率の平均は1000人あたり4.15人でした。1997年と2006年の発症率平均を比較すると3.60と4.55で、この10年で約1割近くも増加していることがわかりました(国立感染症研究所「帯状疱疹大規模疫学調査『宮崎スタディ(1997-2017)』」2018年8月17日)

発症のピークとなるのは50~80代ですが、年齢を問わず注意が必要になってきています。背景としては、ストレスによる免疫力の低下、水ぼうそうのワクチンが子どもへの定期接種になったことで流行が激減し、大人たちが水ぼうそうのウイルスに触れる機会が減り抵抗力が弱くなっている等が考えられます。

■水ぼうそうに感染したことのない子どもにはうつる

なかには、まさか自分が帯状疱疹になっているとは気づかず放置し、重症化するケースも見られます。帯状疱疹は発症後すぐに抑え込まなければならず、早期治療が一番大切です。特に働き世代は仕事も休みづらく治療開始が遅れるケースが多く、重症化すれば入院が必要になることもあります。また、前述の通り治療が遅れるとPHNの発症リスクも高まり、後遺症に悩む方も多いようです。

帯状疱疹の初期症状は分かりにくいですが、「小さな虫刺されのようなものができた」「筋肉痛やコリを感じる」「皮膚がヒリヒリ、ピリピリ、チクチク」といった、いつもと違った違和感に気づいたら、帯状疱疹かもしれないと疑い、早めに皮膚科を受診するようにしましょう。

若い世代への発症増加に際し、もう一つ注意しなくてはいけないことがあります。それは、帯状疱疹としては他の人にはうつらないが、水ぼうそうに感染したことのない子どもにはうつる、ということです。

親の指を握る赤ちゃん
写真=iStock.com/bernie_photo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bernie_photo

帯状疱疹の水ぶくれの中には「水痘・帯状疱疹ウイルス」が存在し、水ぼうそうになったことのない人に対しては、主に接触により水ぼうそうとしてうつることがあります。20~30代は特に小さいお子さんと生活している方も多く、うつしてしまう可能性があるため、水ぶくれがかさぶたとなって完全に乾燥するまでは、子どもとの接触はなるべく避けましょう。

また、乳児や水ぼうそうのウイルスに免疫を持たない母親から生まれた赤ちゃん、妊婦は水ぼうそうが重症化するリスクが高く、妊娠中に発症した場合には、先天性水痘症候群の子どもを出生することがあります。帯状疱疹を発症した方は、特に赤ちゃんや妊婦との接触は避けるべきだとされています。

■発症したら早く治療することが重要

最後に、帯状疱疹になってしまった際の注意点をお伝えします。

帯状疱疹は疲労やストレスが原因となり、免疫力が低下したときに発症します。十分な睡眠と栄養をとり、精神的・肉体的に安静を心がけましょう。また、患部が冷えると痛みは増します。患部は冷やさず、できるだけ温めて血行をよくしましょう。入浴やシャワーも問題ありません。優しく洗い清潔にして、入浴後は処方された軟膏を塗りましょう。ただし、水疱をつぶしてしまうと、帯状疱疹ウイルスによる二次感染の危険性もありますので、十分に注意してください。同じ浴槽にほかの家族が入っても問題ありませんが、水ぼうそう未発症のお子さんがいる場合は先に入れましょう。

高齢者の病気だと思われていた帯状疱疹ですが、今は年齢に関係なく注意する必要が出てきました。帯状疱疹は、発症からいかに早く治療するかで予後の経過が大きく変わります。もしかしたら、と思ったら、まずは皮膚科を受診しましょう。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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