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「このレールから降りちゃダメ?」親の見栄で医学部を目指す小6を待ち構える悲しすぎるシナリオ

プレジデントオンライン / 2024年1月18日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokoroyuki

医学部進学を目指して中学受験をすることにリスクはあるのか。プロ家庭教師集団・名門指導会の西村則康さんは「難関校を受験するために、低学年から勉強ばかりをさせるのは勧められない。中学受験の直前に伸び悩み、医学部を狙えるような学校にはとても行けないレベルにまで落ち込んでしまうケースが少なくないからだ」という――。

■関西の難関校では以前から医学部進学が人気だった

私立中高一貫校のホームページを見ると、どの学校にも必ず直近3年の卒業生の大学進学実績が載せられている。東大をはじめとする国立大学、早慶などの私立難関大学、そしてGMARCHと続き、自分たちの学校がいかに多くの優秀な生徒を輩出してきたかをアピールするページだ。そのなかで、近年異変が起こっている。それは、医学部進学をあえて別枠にして見せていることだ。

もともと関西の難関校では、灘中を筆頭に医学部進学の人気は高かった。特にリーマンショック以降の長引く不況で、世の中の景気に左右されずに一生食べていける職業として、わが子を医者にさせたがる親が一定数いた。ところが、近年は関東の難関校でもその傾向が強く見られるようになっている。

やはりこれだけ格差が広がっている社会で、お金で人の幸福感が決まってしまうわけではないと思っていても、わが子の将来は安泰であってほしいという親の願いがあるのだろう。だが、ここ数年、医学部へ進学させたがる親たちを見てきて思うのは、それだけではないような気がしてならないのだ。

■「お医者さんになりたい」という子は2割いるかいないか

中学受験のプロ家庭教師として、数多くの家庭を訪問して30年以上。子どもの特性や志望校に応じたきめ細かな個別指導をモットーにしているため、どうしても他の大手個別指導塾や家庭教師サービスよりも高額な授業料をいただくことになる。すると、おのずと医者や弁護士といった名だたる職業や、大手企業に勤める親のいる家庭に訪れるケースが増える。こうした家庭に多いのが、「わが子を医学部に進学させたい」というもの。

もともと代々医者の家庭では、わが子にも継いでほしいと、医学部進学が可能な私立中高一貫校に入れさせたいというニーズはあった。ところが最近は、「私は私大の医学部出身なのですが、わが子には何がなんでも国立大医学部に進学させたいんです」と、やたらと国立大医学部にこだわる人がいたり、自分は企業に勤めているけれど、「これからの時代は会社員だから安泰というわけではない。だから、わが子には手に職をつけさせたい」と自分が置かれている状況を痛感して、子どもを医者にさせたがる親が多い。誰もが「わが子のため」と口を揃えて言うが、話を聞けば聞くほど、その裏には自分の学歴コンプレックスや能力の優劣をわが子でリベンジしたいという思惑が隠れているように思えてならない。

もちろん中には、子ども自らが「僕は将来、お医者さんになりたい」と言い出して、「それならより良い教育を受けさせてあげたい」と中学受験を選択した家庭もあるだろう。だが、これは私の肌感覚になってしまうが、そういう子は医学部を目指す子のうち全体の2割いるかいないか。それ以外は親からのなんらかの押しつけがあって、そう言わせているように感じるのだ。

■中学受験の勉強が「小3の2月から」なのには理由がある

わが子を将来、医者にしたい。そう熱望する家庭では、「医学部進学」=「中学受験で難関校に合格させる」というシナリオがすでに出来上がっている。確かに、私立中高一貫校のホームページを見ると、いわゆる偏差値が高い難関校ほど医学部進学者が多い。そういう家庭では、何がなんでも中学受験で難関校に合格させなければと、親に力が入る。そして、まわりよりもわが子ができるだけ有利な立ち位置でいられるように、低学年から塾通いを強いる。

一般的に中学受験の勉強は、小3の2月からスタートする。なぜなら、中学受験で求められる力には抽象的な思考が不可欠で、それが理解できるようになるのが9歳・10歳頃からとされているからだ。それ以前に勉強したところで、概念の理解は難しいし、たとえ「できた」「わかった」ように見えても、それはパターンで覚えているだけで、本当に理解しているとは言い難い。

それよりも、幼児期から低学年のうちに培っておきたいのが、これから本格的な勉強が始まる前の“学びの土台”となる素地づくりだ。この時期の子どもには、遊びや日常生活を通じて、五感を使っていろいろなことを感じとる経験を積ませてあげることが何よりも大切。それをまるっと省いて、「勉強らしいこと」だけをさせても、その子の本当の力として使えないことが多い。

公園でサッカーをしている子供たち
写真=iStock.com/TATSUSHI TAKADA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TATSUSHI TAKADA

■早い時期から勉強をやらせ過ぎると中学受験で伸び悩む

また、早い時期から受験の先取り勉強をさせると、親が成績の順位や偏差値などの目先のことばかりに目が向いてしまい、子どもが本来持っている力や可能性に気づいてあげられないという残念な状況を生み出しやすい。そして、「早く勉強しなさい」と急かしたり、「どうしてこんな点数なの?」と子どもを責めたりするネガティブな言葉が増え、本格的な受験勉強が始まる前に勉強に対して苦手意識を植え付けてしまったり、嫌いにさせてしまったりするのだ。

こうなってしまうと、中学受験では伸び悩む。スタート地点の4年生のうちは、それまでの貯金で上位クラスに滑り込めたとしても、5年生、6年生と学年が上がるにつれて学習内容が高度で複雑になってくると、ただパターンで解いたり、丸暗記で覚えたりといったこれまでの勉強のやり方が通用しなくなり、じわりじわりと成績を落としていく。そして、6年生の入試時には、医学部を狙えるような学校にはとても行けないというレベルにまで落ち込んでしまうケースは少なくない。

■「もうこのレールから降りたい」言えない子ども達

または課金に課金を重ねて、なんとか得点力を上げるテクニックを身につけ、難関校に合格できたとしても、その先の中学・高校で失速してしまう子もいる。そういう家庭では、決められたレールを走らせることが、医学部進学への近道と信じ、中学入学と同時に、今度は難関大学進学のための予備校や塾にわが子を放り込む。そうやって、決められた狭いレールを走らせることになる。親にもその狭いレールしか見えていないのだ。

だが、そこでも大量学習が待っている。中学受験ですでに疲れ切っているのに、さらにまた6年間頑張り続けなければいけない。「もうこのレールから降りたいんだけど、降りちゃダメなの?」そう言いたいけど、言い出せない子ども達を、私はこれまでに何度も見てきた。すべては親の見栄から始まった悲しいシナリオだ。

勉強ができないために泣いている小学生の女の子
写真=iStock.com/TATSUSHI TAKADA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TATSUSHI TAKADA

■「間違えた勉強のやり方」では安定した学力は身につかない

誤解をしないでいただきたいのが、「安易に医学部進学を目指すな」と言いたいわけではない。また、医学部進学を目指すのに、中学受験をすることもあながち間違えてはいないと思う。実際、難関私立中高一貫校では、医学部に進学する生徒は多いし、まわりにそういう友達がいれば、仲間と切磋琢磨(せっさたくま)しながら、夢に向かってチャレンジしやすい。

私が何よりも懸念しているのは、難関中学合格だけを目標にして、間違えた勉強のやり方をしてしまうことだ。中学受験の目標は志望校に合格することではある。だが、何がなんでも合格させるために、幼少期の“学びの土台”を地固めする大事なときに、「あなたは勉強だけ頑張ればいいのよ」と机の上の勉強だけをさせて、遊びから遠ざけたり、家のお手伝いをさせなかったりすると、安定した学力は身につかない。基礎工事のできていないところに無理やり立派な家を建てるような状態になるからだ。

また、子どももいつも追い立てられる状態になり、「とりあえず、お母さんから言われた通りにやっておこう」と、ろくに問題文を読まず、途中式や図も書かずに答えだけ書いて、ドリルをやったという形跡だけを残すような勉強をするようになる。さらに、気持ちに余裕がなくなると、「これ以上点数が下がって、親に叱られるのは嫌だ」とカンニングに走る子もいる。そうなってしまうと、中学受験をすること自体がマイナスになってしまう。

■中学受験の良さは「正しい勉強のやり方」を身につけられること

中学受験をする良さは、「日々の学習習慣が身につく」「目標に向かって努力をする経験ができる」「より高度で良質な問題に出合える」などさまざまなメリットが挙げられるが、最も良い経験となるのが、10歳〜12歳の頭が柔軟なときに、正しい勉強のやり方を身につけられることだと思う。

正しい勉強のやり方とは、問題文の読み方だったり、答えの導き方だったりといった勉強の作法をはじめ、過去の経験や知識と新しい知識を自分なりに関係性を理解しながら結びつけるといった「考える型」が身につくことだ。この正しい勉強のやり方が身につくと、中学受験で成功するし、大学受験でも成功し、それによって将来の選択肢が広がり、結果、医学部進学も可能となる。つまり、一生使える力となるのだ。

これを間違えて、大量暗記やパターン学習だけで勝負しようとすると、中学受験ではなんとか難関校に滑り込めたとしても、その後で伸び悩む。「自分なりに試行錯誤しながら考えた」という経験をしてこなかった子は、概念理解や因果関係の理解ができていないまま、ただパターンで解こうとする癖がいつまで経っても抜けない。すると、必ず高校の数学でつまずいてしまう。特に医学部の入試は高度な数学になってくるので、とても太刀打ちできなくなる。

セミナーに参加する医療従事者
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■高1くらいになってから目指す子もいる

繰り返しになるが、「医学部に進学させたいから、中学受験で難関校を目指す」という考え方自体はあながち間違えてはいない。だが、そこで正しい勉強を身につけられるかどうかで、結果は大きく変わってくる。そのことを親は十分に理解した上で、中学受験を検討してほしい。

最後にひとこと加えると、もちろん、私立中高一貫校に進学しなくても医学部を目指すことはできる。全国的に見れば、その方が圧倒的に多いだろう。また、小さいときから医者を目指さなくても、高1くらいになって、世の中のいろいろなことを知るようになった中で、「僕も医者になって人の役に立ちたい」と強い意志を持って医者を目指す子もいるし、「将来は医者になって、お金持ちになる!」と言い出す子もいる。

どんな理由であっても、それが本人の中から湧き出てくるものであれば強い。「医学部を目指すには、こんな難しい勉強をしなければいけないんだなぁ」と現実を思い知って、頑張る努力をするからだ。最終的には本人のモチベーションほど効力のあるものはない。そして、忘れてはいけないのが、子どもの将来は、子ども自身が決めるということだ。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。

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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康)

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