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もう絶望死しかない…介護10年で最愛母を失い鬱になった60代独身息子の目の前の"1億円"の意外すぎる使い道

プレジデントオンライン / 2024年3月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

65歳の男性は大学の理系学部を卒業して社会に出たが、勤めた会社はどれも長続きしなかった。最初に父が逝き、最愛の母の介護を機に、仕事を辞めた。両親他界後は魂が抜けたようになってしまい、鬱状態に。親が残した資産はみるみる減っていく。これから自分はどうやって生きていけばいいのか。思案した男性が乗り切るために編み出した考えとは――。

■働かなくても両親は「働け」と言わなかった

都内に住む川越彰さん(仮名・63歳)は、4年前まで、自宅で母親の介護を担っていた。父親は15年前に他界。父親の介護は、母親が行っており、父親亡き後、一人っ子である川越さんが、母親の介護を担当した。

川越さんは学生の頃から、コミュニケーションを取るのに苦労をしてきた。悪質ないじめを受けた経験はないが、いつも周囲からは浮いた存在だったという。友達が少なかった川越さんは、小学校、中学校、高校のいずれでも、休み時間になると読書をして時間をやり過ごすような少年だったという。

大学は理系学部を選択。理系は就職に有利だと考えたからだが、指導教授からは就職先の斡旋を得られず、自分の力で就職活動を行うことになった。川越さんなりには就活を頑張ったが、もともとプレゼンテーションのように、自分をアピールする行為を苦手としていることもあってか、希望する企業からの内定をもらうことはできなかった。その結果、川越さんは新卒ながら、派遣社員として社会に出ることになった。

派遣社員として社会に出た川越さんだが、一番長く続いた会社で3年ちょっと。早いと半年くらいで仕事を辞めていた。途中、アルバイトをしていた時期もあったという。

幼い頃からおとなしく、人にも気を使うタイプだった息子のことを、両親は心配しながらも、温かい目で見守ってくれた。派遣社員を辞めて、しばらく自宅にいた時にも、「働け」と言われたことはなく、その後、契約社員やアルバイトを転々としていても、「正社員になったらどうか」と言われたこともなかったという。

そんな両親のことが大好きだった川越さんは、父親に介護が必要になったときは、契約社員として働いていたにもかかわらず、仕事が終わると急いで自宅に戻り、母親を精一杯手伝った。父親を介護していた期間は、プライベートな用事はほとんどあきらめていた。

その後、父親を見送って数年が経ち、今度は母親に介護が必要になった。父親の介護の時には、メインの介護は母親に任せていたが、今度は迷うことなく、仕事を辞めた。この時点で川越さんは、40代半ばを過ぎていた。

母親の介護は10年を超え、介護を終えた川越さんは、50代の終わりに差し掛かっていた。

「母親の介護をしていたときは、介護が大変でも穏やかな時間を過ごせた感じでした。自分にとっては、幸せな時間だったと思います。僕が介護をすることについて、母も初めは抵抗を感じていたようですが、介護に慣れてくると、『いつも、ありがとう』と言って、よく涙を流していましたね」

母親の介護をしていた時のことになると、それまで口が重かった川越さんが、突然饒舌に話し出すほど、川越さんにとっては「人生でもっとも穏やかな時間」だったようである。

■最愛の母を失い重度の鬱に…貯金は4年で800万円減った

大好きな両親を見送って、1人になった川越さん。一人っ子であるだけではなく、連絡を取り合う親戚などもいない。母親の介護が終わった後は、魂が抜けたようになり、気づいたら2年近くが経過していたそうである。

母親が亡くなってからは、ほとんど家から出ず、食事も最低限しか取っていなかったのだという。近所の人が心配をして、民生委員に話をしてくれて、ある時、民生委員が川越さんの自宅を訪問。そして、魂が抜けたような状態だった川越さんと出会うことになったそうだ。

積み上げられた汚れた食器
写真=iStock.com/izzetugutmen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/izzetugutmen

話をしていても目の焦点が合わず、受け答えも満足にできない川越さんの様子を見た民生委員は、自治体に相談。その後、自治体からカウンセラーが訪問してくれて、生活状況の確認と精神科の受診に繋がった。受診結果は、重度の鬱(うつ)状態とのこと。川越さんは語りたがらないが、軽度の発達障害があるようだと、私は川越さんの支援者から教えてもらった。

さて、ここからは川越さんがこれから生きていくためのライフプランの話に入る。

家族構成
川越彰さん(仮名・63歳)

資産状況
預金 約1200万円
不動産 時価約1億円

母親が亡くなった時点で、預金として遺された金額は約2000万円。葬儀代と4年間の生活費で、現在は1200万円程度まで減っている。

川越さんが65歳からもらえる公的年金は、月に9万円程度。国民年金については、母親の介護がスタートした時点で、申請免除の手続きをしていた。

公的年金がもらえるまでには、あと2年弱ある。川越さんの月の生活費は14万~16万円くらいなので、固定資産税の負担を考慮しても、貯蓄で10~12年くらいはなんとかしのげそうだが、川越さん曰く、「今は貯金が減っていくのが何より怖い。貯金が底を突いたら死ぬしかない」と感じるそうである。

川越さんから、「貯金が底を突いたら、生活保護をもらえますか?」と聞かれた。「貯金が10万円を切るくらいまで減れば、資産のほうの申請条件は満たすかもしれませんが、川越さんの場合、自宅の評価がお住まいの自治体の基準額を大きく超えています。自宅を売却して、そのお金を使ってもなお、貯金が10万円を切るくらいまで減らないと、申請はできないと思います」と答えた。

私の言葉を聞いて、「自宅に住んだまま、生活保護をもらうこともできないんですね」と肩を落とす川越さん。「自宅の評価が、お住まいの自治体の基準額以下であれば、自宅に住んだまま、生活保護を受けることも可能なんですが、川越さんのご自宅は1億円前後で売却できるはずですので、無理ですね」

ここで、いったん相談は終わり、後日、改めて相談を受けることになった。

■資産価値1億の自宅…リースバックか、リバースモーゲージか

川越さん「実は、自分でも少し調べてみたんですが、リースバックという方法を使えば、自宅に住み続けることができると知りました。私がリースバックを利用するのは、どうでしょう?」

畠中「リースバックを利用すれば、家の売却代金が手に入って、資産は一時的に増やせます。ただ売却後は家賃を払い続けることになりますので、その分、月々の生活費が膨らみ、年間の赤字額もかなり増えます。川越さんにとって、家に住み続けることの優先順位が高いのであれば、リバースモーゲージという方法もありますよ」

明かりの付いた家
写真=iStock.com/Zeferli
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Zeferli

川越さん「リバースモーゲージのほうなら、家賃を払わなくていいんですか?」

畠中「リバースモーゲージは、主に土地を担保にしてお金を借りる方法です。金融機関によっては、マンションも担保にしてくれるところもあり、だいたい担保価値の50〜60%までの借入ができます。リバースモーゲージを利用すると、借りたお金から利息が発生します。ただ川越さんの場合、現時点では無収入なので、無収入の場合、申し込み資格を満たさない金融機関もあります」

川越さん「リバースモーゲージは無収入だと申し込めないんですか?」

畠中「土地を担保にするので、元金の返済は亡くなった時になりますが、利息部分はご存命中に支払うため、利息を支払えるだけの収入が必要になるんです。ただ、金融機関によって、申込める条件は異なりますので、土地の評価が高ければ、収入条件を緩くしてくれるところはありますね」

川越さん「リースバックには収入条件はなかったですよね」

畠中「リースバックは自宅を売却するわけですから、収入条件は必要ないと思います。ただ川越さんの場合、周辺の家賃相場を考えますと、リバースモーゲージから発生する利息のほうが、リースバックで家賃を払い続けるよりも負担は抑えられるはずです。またリバースモーゲージの場合、リースバックとは違って、自宅は自分名義のままなので、修繕なども自分の意思で自由におこなえます。年金が受け取れるようになるまでは、手持ちの貯蓄で生活費を賄えるはずですので、年金収入を受け取るようになってから、リバースモーゲージを利用する方法もありますね」

川越さん「僕には兄弟姉妹もいないですし、親戚とは疎遠なので、家を遺してあげるべき人は1人もいません。僕は若い時から本が好きで、自宅の一部屋には天井まで本が積み上げられている状態なので、引っ越しするのも大変です。そういう意味では、今回うかがったリバースモーゲージのほうが、僕に向いているような気がします」

畠中「将来、川越さんが亡くなった後に、自宅の片付けなどを第三者に任せたい場合、身元保証会社と『死後事務』を含めた死後の整理契約を結ぶことを検討するとよいでしょう。残余財産が発生した場合、自分があげたい人やお世話になったNPO法人などに、財産を遺贈したいと頼むこともできます。リバースモーゲージを利用して借りる金額を決める際は、川越さんの生活費だけでなく、身元保証会社に依頼する分の料金も含めて考えてはいかがでしょうか」

後日、川越さんから連絡があった。ある銀行に行って、リバースモーゲージの説明を受けたそうである。ただし無収入の現時点では、申し込みを受理できないと言われたそうだ。先述の通り、リバースモーゲージは利息分を支払える能力が求められるので、無収入状態では無理なケースもある。これから川越さんは、ひと月に1行くらいのペースになりそうだが、いくつかの金融機関に借り入れの条件などを聞きに行くという。

川越さんの自宅は、リバースモーゲージの担保にするのに十分な価値のある家である。収入面でのハードルがあるとしても、年金をもらえるようになる近い将来、リバースモーゲージを利用することで、川越さんは住み慣れた家を離れることなく、生活費の確保と身元保証会社に支払う費用を確保できそうである。

ただ、川越さんには、もう1点問題がある。

■母他界後に相続税の申告をしなかった…

川越さんの母親が亡くなったとき、川越さんは相続税の申告をしなければならなかった。ところが、川越さんには相続税についての知識がなく、その結果、一切の手続きをしていない。本来、川越さんに知識があって、相続の発生から10カ月以内に相続の手続きをしていれば、「小規模宅地等の特例」が使えたはずなのにである。

「小規模宅地等の特例」とは、被相続人と同居していたり、別居はしていても、賃貸住宅に住んでいる相続人(配偶者にも持ち家なし)が被相続人の家を相続した場合、評価額を80%も引き下げてくれるという特例である。

相続人が住まいを失わず、住み慣れた家に住み続けるために設けられている優遇策だ。実際、小規模宅地等の特例を利用する人は多いが、10カ月以内に相続税の申告書を提出しなければ小規模宅地等の特例は使えないという原則がある。すでに相続開始から4年が経過している川越さんにとっては、小規模宅地等の特例を使えなくなっているため、相続税や延滞税などを払わなくてはならない可能性があるわけだ。

相続税の申告書の作成などについては、私が関わるべきでないため、相続税の申告をしていなかったことや、家の名義を変えていないことなどを伝えて、知り合いの税理士に伝えて、申告や納税などの対応をお願いした。家の名義については、相続の手続きが終了したのち、税理士の知り合いの司法書士に繋ぐような手配もおこなった。リバースモーゲージを利用するにも、家の名義が川越さんのものになっていなければ、申し込みができない現実もある。

すでに60代に入っており、鬱病を患っている川越さんにとって、これから働いて収入を得ていくのは現実的ではないだろう。いっぽうで、さまざまな専門家の助けがあれば、親が遺してくれた預金と家を活用することで、生活を成り立たせられる可能性は高くなる。

民生委員と出会った時には、人生に絶望していたそうだが、「引っ越しをせず、この先働かなくても生活は成り立ちそう」という見通しが立ってきた川越さんからは、「死ぬしかないという考えは、頭に浮かばなくなりました」という言葉を受け取った。

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畠中 雅子(はたなか・まさこ)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」「高齢期のお金を考える会」主宰。『お金のプロに相談してみた! 息子、娘が中高年ひきこもりでもどうにかなるってほんとうですか? 親亡き後、子どもが「孤独」と「貧困」にならない生活設計』など著書、監修書は70冊を超える。

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(ファイナンシャルプランナー 畠中 雅子)

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