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なぜ1950年代以前は花粉症患者がほぼゼロだったのか…花粉症が国民病となった「本当の原因」とは

プレジデントオンライン / 2024年3月26日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TAGSTOCK1

なぜ1950年代以前は花粉症患者がほぼゼロだったのか。腸内細菌学者の小柳津広志・東大名誉教授は「アレルギーは抗生物質が腸内フローラを攪乱することで起こると考えられている。1950年以降に生まれた、ほぼすべての人は抗生物質を処方されているため、運が悪いと花粉症になってしまう」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、小柳津広志『東大の微生物博士が教える 花粉症は1日で治る!』(自由国民社)の一部を再編集したものです。

■花粉症になる、ならないを決める「免疫寛容」

花粉症はI型アレルギーであることを連載1回目でお伝えしましたが、II型、III型、IV型を含めてすべてのアレルギーで、あらゆるものがアレルギーを起こします。

「あらゆるものがアレルギーを起こす」と言うと混乱されるかもしれませんが、アレルギーの原因物質であるアレルゲンが肌の傷から侵入したとしても、簡単にはアレルギーは起こりません。アレルギーの原因物質が肌の傷から体に入っても、これが日常的に食べているものならアレルギーは起こらないのです。

私たちは毎日食べ物を口から摂り、消化管で分解・吸収して残りを肛門から排出します。消化管の粘膜ではすべてのものにアレルギーを起こさないようになっており、この仕組みは、免疫寛容と呼ばれています。消化管で食べ物がアレルゲンとして作用したら、私たちは何も食べられなくなってしまいます。

ここまでお読みいただいたみなさんは、おそらく「免疫寛容は、Tレグ細胞の機能」だとお解りになると思います。

Tレグ細胞は私たちの体にとって、非常に重要な細胞なのです。口に入れたものがアレルギーを起こさないという免疫寛容は、当たり前であると本書を読まれているみなさんは簡単に理解されると思いますが、なんと、医学界では2015年まで、「アレルギーを治すには原因食品を食べさせない」という認識が当たり前だったのです。

■マスク、ゴーグルをしてもよくならない

みなさんの中にも、「そばアレルギーの子どもにはそばを食べさせない」とつい最近まで信じていたり、また、いまでもそのように信じている人もいるかと思います。

ところが、2015年2月に米国のヒューストンで開かれたアメリカアレルギー学会でギデオン・ラック博士が「子どものピーナッツアレルギーを予防するにはピーナッツを小さい時から食べさせるほうがよい」と報告したのです。この発表によって、「アレルギーを治すには原因食品を食べさせる」に変わりました。

この報告は、食べているものにはアレルギーができない。つまり、食べているものには免疫寛容が起こるということを意味しています。言い換えれば、花粉症だからといって、マスクやゴーグルをして花粉を避けていても花粉症はよくなりません。極端なことを言うと、毎日、少しずつ花粉を食べればよいのです。

■1950年代以前、花粉症の人はほぼゼロだった

「花粉症はアレルギー体質の人がなる」と言う人がたくさんいます。

しかし、これは、間違いです。なぜなら、すべてのアレルギーは1950年代に抗生物質が使われるようになる前は、ほとんどなかったからです。

鼻をかむ人のイメージ
写真=iStock.com/west
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

「アレルギー体質だから花粉症になる」のであれば、1950年以前はアレルギー体質の人がいなかったことになります。遺伝的体質であれば、当然、1950年以前にもいたはずです。

アレルギーは抗生物質が腸内フローラを攪乱したことで、起こるのです。1950年以降に生まれた、ほぼすべての人は抗生物質を処方されています。「アレルギー体質」になった人は、たまたま運が悪かっただけなのです。

■アレルギー体質とは何か

ここで、ヘルパーT細胞の説明をしたいと思います。

連載2回目でお話ししましたが、T細胞は免疫の司令塔で、何を攻撃するかを決める細胞です。ヘルパーT細胞にはいろいろありますが、花粉症に関係するのはTh1細胞とTh2細胞なのです。

Th1細胞はウイルスに感染した細胞やがん細胞を攻撃する司令官で、Th1が行う免疫は細胞性免疫と呼ばれています。

Th2はB細胞にIgG抗体を作らせて侵入した細菌を攻撃する司令官です。Th2はTh1が少ないとB細胞にIgE抗体を作らせてしまいます。これがI型アレルギーを起こします。

Th2が多くTh1が少ない人がいますが、このような人が「アレルギー体質」と呼ばれます。Th1とTh2がバランスよく存在すると、I型アレルギーは起こりません。Tレグ細胞はTh1とTh2のバランスをとります。つまり、Tレグ細胞が免疫寛容を行うのです。

Tレグ細胞は大腸で増え、酪酸菌が作る酪酸がTレグ細胞を増やします。ですから、抗生物質で腸内フローラが攪乱されても、フラクトオリゴ糖などの食物繊維をたくさん食べてTレグ細胞を増やせば、アレルギーは発症しないのです。

■花粉症予防は認知症予防でもある

花粉症の人はTレグ細胞が少なくなっています。高齢者ですでに脳の神経細胞にアミロイドβが蓄積してしまった人では、Tレグ細胞が少ないと脳の免疫細胞のミクログリアが神経細胞を攻撃するようになります。

これがアルツハイマー病の最終段階です。ミクログリアが神経細胞を破壊すると知性、記憶、感情などを失います。

しかしながら、フラクトオリゴ糖などの食物繊維をたくさん食べてTレグ細胞を増やしておけば、ミクログリアの攻撃を抑えることができるのです。つまり、花粉症を治せば、アルツハイマー病も予防できるということを意味しています。

■花粉症を抑えれば長生きできる

腸内フローラの研究で有名な辨野義己博士は、著書『100歳まで元気な人は何を食べているか?』(三笠書房)の中で、「100歳まで元気で長生きしている人の便は酪酸菌を大量に含んでいる」と書いています。

辨野博士は非常に多くの健康な百寿者の便を日本全国から集め、腸内フローラの分析をしました。百寿者はすべて、大腸の酪酸菌が多く、全身の炎症が抑えられているようです。

免疫学者の熊沢義雄博士は、著書『慢性炎症を抑えなさい』(青春出版社)で「慢性炎症が老化を進める」と書いています。慢性的な炎症のある人は、すべての臓器の老化が進むということです。

ノーベル医学生理学賞を受賞したエリザベス・ブラックバーンと健康心理学者のエリッサ・エペルは『テロメア・エフェクト 健康長寿のための最強プログラム』(NHK出版)で「うつ病や不安はテロメアを短くする」と著書に記しています。

私たちの遺伝子は46本の染色体に収められています。染色体は糸状になっていて、環状ではありません。それぞれの染色体の末端には、テロメアという特定の遺伝子配列の繰り返しがあります。

このテロメアの遺伝子の繰り返しが短くなると、寿命が短くなると言われています。しばしば、テロメアの長さは命の切符にたとえられます。切符を使って短くなると細胞は死を迎えるのです。テロメアの長さはストレスによって短くなり、リラックスした生活を送れば長くなることがわかっています。

大腸の酪酸菌を増やせば脳の炎症が抑えられ、常にリラックスした状態になります。テロメアの長さを保つという点でも、フラクトオリゴ糖などの食物繊維をたくさん摂って酪酸菌を増やすことは重要なのです。つまり、花粉症を抑えれば長生きできるのです。

■抗生物質を飲み過ぎている人は花粉症になる

大腸にはおよそ1000種類の細菌が生息しています。全細菌数はおよそ100兆と言われています。これまで、抗生物質が腸内フローラを攪乱すると書いてきましたが、具体的に何がどれくらい減って、何が増えるか、詳しいデータはほとんどありません。分析が非常に難しいのです。

マウスを用いた実験では、抗生物質2剤を与えるとおよそ80%の種類が消失すると、報告しています。これは、強烈な腸内フローラの破壊です。じつは、抗生物質が人の腸内フローラを攪乱すると、成長が促されます。身長が大きくなるのです。

飲み薬を手にする人のイメージ
写真=iStock.com/Vasil Dimitrov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vasil Dimitrov

人の身長は幼児期の成長速度が速くなると、大人になった時の身長が高くなります。日本では、1950年代以降に大量に抗生物質を使用するようになりましたが、この時期から子どもの平均身長は急激に伸びました。

抗生物質が家畜の成長を速めることも、畜産業者は昔から知っています。人に使われるより、大量の抗生物質が家畜の成長促進に使われてきました。抗生物質を頻繁に摂る人は腸内細菌の種類が極度に減少しており、花粉症だけでなく、自己免疫疾患を含めたすべてのアレルギーを起こすリスクが上がっています。

フラクトオリゴ糖などの食物繊維で腸内細菌の種類はすぐには増えませんが、抗生物質を摂らない生活を10年、20年と続ければ、種類も増加して、良好な腸内フローラを得ることができます。

抗生物質は細菌感染によって高熱が出た時だけ使うようにしてください。

■酪酸菌を増やす食物繊維が花粉症を防ぐ

現在、スーパーマーケットにはさまざまな食材が溢れています。たとえ珍しい食材でも、ネット販売で翌日に手に入れるこができるようになりました。東京、大阪などの大都市では、無数のレストランがあり、さまざまな国の料理を簡単に食べることができます。

小柳津広志『東大微生物博士が教える 花粉症は1日で治る!』(自由国民社)
小柳津広志『東大の微生物博士が教える 花粉症は1日で治る!』(自由国民社)

私たちは「食べたいもの」を好きなだけ食べる生活をしていますが、果たして、嗜好(しこう)性にまかせて食事をしていていいのでしょうか。

糖質は血糖値を上げ、脳からドーパミンやセロトニンが出ることによって中毒になります。当然、人々は糖質をたくさん含んだ食品を好みます。塩分が多いと味が濃くなります。人は味の濃い食べ物のほうを好み、塩分中毒になります。糖質を多く含んだ精米、ふすまを取り除いた小麦粉、不純物を取り除いた砂糖など90の糖質過多食品には、ビタミンとミネラルがほとんどないだけでなく、食物繊維もほとんど含まれません。

そもそも、これらの農業が育種した穀類はたとえ全粒で食べたとしても、酪酸菌を増やす食物繊維をほとんど含んでいません。なぜなら、これらの穀類はでんぷんを貯蔵物質として保存します。でんぷんと同じように酪酸菌を増やすフラクトオリゴ糖も植物の貯蔵物質です。でんぷんを貯蔵物質とする植物はフラクトオリゴ糖をほとんど作らないのです。

人の腸のイメージ
写真=iStock.com/Sewcream
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sewcream

酪酸菌を増やす食物繊維は、根菜類や葉物野菜に含まれています。私たちの祖先は、新石器時代以前には根菜類、野草、海藻、小動物、魚介類、木の実を食べて生活していました。新石器時代以前の食事には、酪酸菌を増やす食物繊維が大量に含まれていたのです。

人類が創ってきた農業と食文化が、大腸の酪酸菌を減らす一つの原因になってきました。そして、現代人の食の嗜好性もそれを加速させています。

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小柳津 広志(おやいづ・ひろし)
東京大学名誉教授 株式会社ニュートリサポート代表取締役
1953年12月10日生まれ。静岡県出身。1977年、東京大学農学部農芸化学科卒業。富山大学教養部助教授、東京大学大学院農学国際専攻教授等を経て、2003年より東京大学生物生産工学研究センター教授。2016年に東京大学を退職。現在は東京大学名誉教授に就く。専門は微生物系統分類、腸内細菌学など。2017年3月、神奈川県横須賀市に高齢者を対象とした減塩カフェ「カフェ500」をオープン。著書に『東大微生物博士が教える 花粉症は1日で治る!』(自由国民社)などがある。

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(東京大学名誉教授 株式会社ニュートリサポート代表取締役 小柳津 広志)

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