みそ汁は「1時間45分以内」に使い切る…びっくりドンキーの「330円モーニング」にある意外なこだわり
プレジデントオンライン / 2024年3月28日 7時15分
■びっくりドンキーがモーニングを始めたワケ
(前編から続く)
2020年春から始まったコロナ禍で外食産業は大きな打撃を受けた。外出自粛や各種の規制による店舗休業・営業時間短縮で売り上げが激減。売上減を補うために、各店がテイクアウトやデリバリーに力を入れたのはご存じのとおりだ。
ハンバーグレストラン「びっくりドンキー」(運営は株式会社アレフ、本社:北海道札幌市)の業績回復は競合に比べて早かったが、持ち帰りに注力した結果、コロナ前まで来店客数比で0.8%だったテイクアウトが、ピーク時にはデリバリーも含めて10%まで伸びた。現在も約5%前後を維持し、売り上げを支えている。
来店客の利用時間帯も変わった。
「コロナ以前から深夜時間帯のご利用は減っていましたが、コロナによって加速。現在はディナーのご利用時間が早まりました。コロナ前は18時~20時台の時間帯がピークでしたが、17時~19時台になっています」
FC店舗運営部部長の堀雅徳さん(アレフ びっくりドンキー店舗運営本部)はこう話す。
一方、新たな時間帯での利用に訴求してきた。その代表がモーニングタイムだ。
■朝食目当ての新しい客層が生まれた
「コロナ前から朝の時間帯に注目していましたが、コロナ禍で背中を押されるようにモーニングメニューを導入したのです」(堀さん)
2024年2月時点で、国内店舗数343店のうち約260店で「モーニング」(開店~11時)があり、大半の店で営業時間が朝8時からと早くなった。コロナ禍が始まってすぐの2020年4月に宮城県内の店でモーニングを導入すると、同年10月には東北各県の店舗に広げ、翌2021年7月には全直営店で導入が完了。その後、FC(フランチャイズチェーン)店にも広げていった。
現在の状況はどうなっているのか。
「ご利用は増えています。朝の利用はルーティン化するようで、週に2~3回ご利用される方もおられます。以前は私たちも『レストランだから11時頃から営業』といった意識を持っていたのですが、導入した結果、ご利用時間帯の幅が広がりました」(同)
たとえば、トーストとゆで卵がつく「プレーントーストセット」(380円~ 店舗によって価格が変わる、以下同)を頼めば、ドリンク単品では390円の「いきいき乳酸菌ヨーデル」も選べる。朝の時間帯は半額で楽しめる感覚だ。
飲食店の「モーニング(サービス)」は、かつては喫茶店の代名詞だった。それがマクドナルドの「朝マック」に代表されるように、ハンバーガー店、立ち食いそば店、牛丼チェーン、ファミレスなど多くの業態が導入するようになった。
■みそ汁に対するこだわり
びっくりドンキーのモーニングは、多彩なメニューがそろう。
「シンプルな『プレーントーストセット』以外に、レストランらしいメニューもご用意しています。朝からハンバーグを食べたい方向けに、一番人気のチーズバーグを100グラムにした『ミニマムチーズバーグディッシュ セット』(810円~)もあります。『ドンキースペシャル ブレックファスト(スクランブルエッグ)チーズトースト』(990円~)はホテルの朝食を意識したメニューです」(堀さん)
いずれのモーニングもドリンクorみそ汁つき。ホットコーヒーだけでなくアイスコーヒーもおかわり自由だが、みそ汁を選ぶお客さんも多いという。
「ハンバーグに合うよう、コクのある信州みそで、中に入る具材は週替わりです。みそ汁は蓋(ふた)つきで提供しています。冷めにくいだけでなく、蓋を開けた時にみそや出汁(だし)の香りを感じていただきたいからです。少しずつ調理し、1時間45分以内にみそ汁を使い切る。各店で天然出汁からとって毎日作っているのも特徴です」
そうしたきめ細やかさが評価されたのか。「2023年の売り上げランキングはチーズバーグディッシュ、レギュラーバーグディッシュに次いで、みそ汁が第3位」だという。
今回取材した南池袋店(東京都豊島区)の入り口には、本日のコーヒーならぬ「本日のみそ汁 3種類の具が入っています 海苔 油揚げ 青ねぎ」と掲げてあった。
■卵かけご飯に添えるのは醤油ではない
朝のメニューらしく「卵かけご飯」(330円)も提供する。面白いのは醤油ではなく、オリジナルのハンバーグソースが用意されること。頼めば醤油も出してくれるが、多くのお客さんがハンバーグソースをかける。
「びっくりドンキーのハンバーグソースは、和風の醤油ベースでご飯とみそ汁に合う味つけにしています。そのレシピは厳格に管理されており、社内でも数人の関係者しか知らない秘伝の味ですが、卵かけご飯にも合う味なのです」(堀さん)
爆発的に利用とまではいかないが、午後の時間から「ちょい飲み」する人も増えた。北海道小樽市で製造する自社製クラフトビールを頼む人もいる。近年は単品メニューも充実させており、「さくさくイカ唐揚げ」や北海道の会社らしく「ザンギ&ポテト」もある。
前編で紹介した5つの特徴のうち、「時間帯別に楽しめる」メニューをそろえた結果、モーニングやちょい飲みの利用が増えて売り上げに上乗せされた。
こうした施策が功を奏したようだ。びっくりドンキーチェーンとしての年間売上高は2023年3月期に666億円と過去最高を記録し、2024年3月期は700億円以上を見込む。びっくりドンキーの店舗数もコロナ前の「330店」(2019年)から「343店」(2024年2月末)に拡大した。
■長年愛される店になるために
びっくりドンキーの前身となる「ハンバーガーとサラダの店・べる」(岩手県盛岡市)が開業したのは1968年だ。長年続く店になるには顧客の世代交代も欠かせない。
将来の顧客となる子どもたちに人気なのが「もぐチャレ‼」という企画だ。
「きちんと残さず食べたら1回目のチャレンジ成功で小さな表彰状を渡し、2回目のチャレンジ成功で前回もらった表彰状にふたつ目のスタンプを押印。3回目の来店時に2回成功した表彰状を見せるとデザートをプレゼントする企画です。
子どもたちの『残さず食べる』を応援するために始めました。好き嫌いをなくすことで健康に貢献し、食べ残しが減ることで地球環境にもやさしい。年間約45万人以上のお子さまが参加してくれています」(堀さん)
子ども時代の外食体験は、大人になっても覚えていることが多い。小さい頃は家族や親戚に連れられてきた店に、成長すると友達やカップルで訪れる人もいる。店側は、時に「何らかの楽しい体験」を用意するのも大切なようだ。
■消費者は意外と業態を気にしない
最後に、少し引いた視点で「消費者の外食」について考えてみたい。
筆者は20年近く、カフェをはじめとする外食店を取材してきたが、現代の消費者(受け手)は、送り手(店や企業)が思うほど業態を気にしない。その時の自分の気持ちや予算(使いたい金額や許せる価格)にピンとくれば、気軽に利用する。
2013年に大ヒット商品となり、消費生活に浸透した「コンビニコーヒー」が代表例だ。最大手のセブン‐イレブンが「セブンカフェ」で仕掛けて大ヒットすると、競合も追随して一大勢力となった。この事例は業態を超えた象徴だと筆者は考える。コンビニ店内のイスに座ってコーヒーを楽しむ消費者は、小売店で飲食している意識はないだろう。
びっくりドンキーがコロナ禍で行ったのは、「店側の思い込みをひとまず横に置く」姿勢だった。「レストランだからランチ以降の来店客で勝負」ではなく、「朝からハンバーグを食べたい人(モーニング)も、自宅でハンバーグを食べたい人(テイクアウトやデリバリー)も一定数いる」ことがわかった。
それまで、びっくりドンキーの利用頻度は平均して「3カ月に1回」だったと聞く。その来店頻度を増やすのにも注力した結果、「みそ汁が人気ベスト3」になるなど、新たな需要が生まれたのだ。
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経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)
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