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「健康を気にするやつ、評判がいいやつは早死にする」田原総一朗が政財界の重鎮から学んだ"健康長寿の秘訣"

プレジデントオンライン / 2024年4月13日 12時15分

撮影に応じるジャーナリストの田原総一朗氏=2017年10月4日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

昭和に活躍した大物政治家や大企業の経営者は、どのように健康に気を使っていたのか。ジャーナリストの田原総一朗さんは「以前、政財界の大物が集まる『三世紀会』という集まりを取材したことがある。参加者は80歳以上だったが、生肉を食べながら『健康に気を使ったり、人付き合いが良すぎる人は長生きできない』と語っていた」という――。(第3回)

※本稿は、田原総一朗『無器用を武器にしよう 自分を裏切らない生き方の流儀』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

■生肉をむしゃむしゃ食べる政財界の重鎮たち

だいぶ前になるが、「三世紀会」という集まりを取材した。

これは1800年代に生まれた人たちが、19世紀を生き、20世紀を生き、21世紀まで、つまり3世紀を生き抜くぞという集まりなんです。政界では岸信介さん、田中派の長老だった西村直己さん、財界でも小田急の安藤楢六さん、三菱重工の前の社長河野文彦さん、キッコーマンの茂木啓三郎さん、政治評論家の細川隆元さんもいた。

その「三世紀会」の集まりがあって、僕は取材に行った。えらくみんな元気なんで、「長生きの秘訣は何ですか?」と訊いたら、面白いことを言った。「長生きしたい、健康になりたいっていうんで、一生懸命健康のことに気を遣っている奴は早く死ぬ。健康ストレスにやられてしまうんだ」と、断言した。

「ジョギングをやったり、何か健康にいいことをやったり、あれは食べてはいけない、これは体に悪いなんていう連中はみんな早く死ぬ」と言いながら、その三世紀会の連中は生肉を平然とむしゃむしゃ食ってた。当時、80数歳の連中が、ですよ。つまり健康に気を遣うこともストレスの原因だというんだ。さらにこんな言葉もポーンと飛び出してきた。

「評判のいい奴は早死にする。俺たち生き残っている奴はみんな評判が悪い」

これは悪い人間が長生きして、善人は早く死ぬという意味じゃない。彼らが言うには、評判のいいということは、つき合いがいいということであり、人に義理を立てることだと。今日飲みに行こう、ゴルフに行こう、マージャンをやろう、と誘われて、これを断れないようじゃ早く死ぬと。つまり、つき合いをすると自分のペースじゃなくなってしまう。生活が相手のペースになってしまう。

■「長生きする人間は、義理を欠くのがうまい」

いろんな人とつき合うと、他人のペースに巻き込まれて、自分のペースを失ってしまうんです。人間はペースを失ったり、自分のフットワークを失い、体のリズムが狂ってくれば、ストレスが起きる。それで疲れる。早死にするね。だから彼らは「義理は欠くもんだ。長生きする人間は、義理を欠くのがうまい。その代わり評判が悪いんだ」というわけ。考えてみると僕もいちばんペースを狂わされるのは、やっぱりつき合い。

たとえば、もし誰かのパーティーに顔を出そうとしたら、毎晩になってしまう。間違いなく。だからAの人のパーティーに行ってBのは行かない、というのはBに悪いから、僕は全部行かないことにしている。よほどのことがない限り僕は全部断る。

手を突き出して断る人
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

もちろん、ごく親しい人間が会社をやめてフリーになるとかいう場合は行くこともある。あるいはお葬式。これは別ですけど、僕は基本的には義理を欠くことにしている。だから評判は悪いと思う。

それからもうひとつ、三世紀会の人たちが強調していたのは、「イヤなことは忘れることだ」というんです。いやなことを几帳面(きちょうめん)にいつまでもクヨクヨ覚えている。これも早死にのもとだと言うんだ。といっても、人がなんか文句を言ってる時に、ソッポを向いていたら、これは嫌われる。あまり嫌われても、悪口を言われるだけだから、それに耐えることになる。抵抗しなきゃならない。これまた疲れる。だから人が文句を言う時には、ちゃんと聞いて、それで目の前からその人が去ったら、その瞬間に忘れるんだと。

これは長生きの秘訣であると同時に、人生を生きるコツだと思う。つまり、健康を気にしない、義理を欠く、イヤなことは忘れろ、というのは、自分のペースで生きるということですよ。

■人のペースに合わせ続けることはできない

生きるということは極端にいうと、人のペースに自分を合わせるか、自分のペースに人を合わせさせるか、この勝負だと思う。

人のペースに自分を合わせる生き方もある。それが好きな人はやってもいいと思う。ただ、これは長続きしない。若い、頭の柔らかい時にはそれはできるけれど、だんだん年を重ねるうちに疲れてくる。だから勝負は、いかに自分のペースに人を合わせさせるか、だね。自分のペースで生きれば、実は一生懸命生きても、疲れれば自然とスピードは落ちるんです。逆に調子がよくなればスピードはあがる。自分ひとりで走り続けるマラソンのようなものなんだ、人生は。

僕は自分で自分のことをラッキーだなと思っているんです。最初から落ちこぼれだった。まず大学に7年もいた。だから卒業する時に、本来同期の人間から3年遅れてた。卒業する時には、同期はすでに社会人4年目に入ってるわけだ。そして、最初の就職、映画会社は3年半で辞めてしまった。その時点で、そこの同期入社組とも競争する必要もなくなった。

■最初から脱落していたのがむしろ良かった

つまり、なまじっか同期の人間がいると、同期に負けまいとして、一生懸命走るでしょう。互いに負けまいとして、お互いに自分のペースより早く走ってしまう。「あいつが早く走っているから、俺ももっと早くしなきゃ」と。すると相手も、「あいつ、スピード上げたな」とスパートをかけたりするでしょう。悪循環になる。だから息切れしちゃって、倒れる、リタイアする。

僕は幸いなことに最初から脱落して、横を見ても誰もいないわけ。こんな楽なマラソンレースはないと思う。僕は比較的主体性のない人間だし、頭も良くないから、同期がなまじっかいたら、僕は彼らと無益な競争をやって疲れ果てたんじゃないかと思う。あるいは走り過ぎて、心臓がダメになったりね。

ところが幸いなことに周りに競争相手が誰もいなかった。初めから落ちこぼれてたから、無理に走る必要がない。最初からマイペースで走ればよかった。これが、僕がこの年になって、なおかつ走れている最大の原因ではないかと思う。もちろん、自分のペースをつかむのは、とても難しいことです。僕もこう言えるようになるまではずいぶん悩んだ。

ジョギングする人
写真=iStock.com/lzf
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lzf

■値引き競争で差別化するのは難しい

ニチイというスーパーマーケットの社長、小林敏峯さんに会った時に、彼は商売のペースをつかむのにずいぶん苦労したという話を聞いた。ニチイは今、スーパーマーケットから脱皮しようとしているんです。

小林さんは、その時、「値ごろ」という言葉を盛んに使った。これがニチイのコンセプトらしいんです。「値ごろって何だ。なぜスーパーから脱皮するのか?」と訊くと、彼はこう言った。これまでのスーパーは値段の安さで勝負してきた。普通の専門店やデパートより安いことで勝負してきたわけでしょう。

ところが東京にしても大阪にしてもスーパーはたくさんある。スーパー同士が値段の競争をしていくと、これ、いつかは必ず限界が来る。最初は値段の競争をするために店を大きくする。大量仕入れをする。でも、相手も同じことをする。同じ相手と価格の競争をすることは、どこかに無理が生じる。

たとえば、メーカーを泣かせるか、問屋を泣かせるのか。あるいは従業員を低賃金で長時間労働でこき使って、従業員を泣かせるか。これは長続きはしない。メーカーも問屋も、どんどん離れていく。従業員を泣かせたら3K産業だといって誰も来なくなる。それでもスーパーは安いんだといって勝負しなければならないから、今度はバーゲンセール、大売り出しをやる。その時に目玉商品を作る。洗剤だとかね。これは赤字覚悟で安くして客を集めるわけ。集めて目玉以外の商品も買ってもらうことで、採算をとっていくやり方だ。

■バーゲンセールの行き先は地獄

ところがお客さんも気がつくよ。実はバーゲンセールは目玉商品しか安くないんだと。他の商品は安くないよと。すると目玉商品だけを買って、他は買わないってことになる。すると、これは本当の出血です。

そこで考えた。どうも値段一本で勝負するのは先が見えているし、矛盾だ。行き着く先は地獄だと。本当にお客さんは安いものだけを求めているのだろうか。本当はそうじゃないのじゃないか。実は、安さオンリーで勝負するというのは、客をよく見ていない商売なんじゃないか。一方的にスーパーが値段を下げて、これでもかこれでもかとお客さんを脅しているだけじゃないのか……。

本来、小売店はお客さんの欲しいものを置くところでしょう。今はとくに、お客さんのニーズが多様化している時に、安売りだけでいいのかと。同じ靴下、あるいは下着でも色、柄、素材、高級品、いろいろある。お客さんの欲しいものは何も安いものだけとは限らないと。客のニーズに合ったものを的確に置くことが、やっぱり小売業の基本ではないか。その上で、値段をいくらにするかというのは、むしろお客さんと相談だと。

値段というのはある意味で客とのコミュニケーションの道具なんだというわけ。値段を手段にして客と店がコミュニケーションをする。その中で、このあたりがいちばんいいんだなと決める。これを「値ごろ」だというわけです。

スーパーマーケットの店内の「Sale」の表示
写真=iStock.com/VTT Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VTT Studio

■マイペースを掴めるかどうか

これはある意味で、マイペースで走ろうということですよ。これまでは他のスーパーと比べて安売り、安売りで競争してきた結果、それは自滅の道だとわかった。共倒れするしかない。そこで、いかに自分のペースでやるか、それが「値ごろ」というマイペースをつかむことになったわけでしょう。

実はニチイに限らず、今、この不況の中で企業を取材していくと、もう一度、自分の会社の、わが商売はいったい何なのか、ということを考え直そうとしている会社が多くなってるんです。たとえば証券業界でもいま株価が低迷していて、しかも出来高が決定的に少ない。これは投資家、つまり客たちの証券会社や株式市場への不信感、あるいは裏切られたという憤(いきどお)りが強まり、みんな株を買わなくなっているからだ。なぜこんなことになってしまったのか。

バブルが弾けたということもある。しかしバブル時代に証券会社がともかく売り上げを上げる、シェアを伸ばすということだけに奔走して、客に株の押し込みを図ったことに原因がある。これは、よく考えると、証券会社が売り上げを上げることに血まなこになる、必死になるということ自体が自滅への道だったんだ。証券会社の売り上げというのは、株の買い替え手数料なんだ。株を売っても、客が買いっ放しじゃ全然儲からないわけです。

■目先のことばかり求めていると矛盾が生じる

客にはどんどん株を買い替えてもらわなきゃならない。そこで、売り上げを上げるためには、株を買い替える回転速度を速めて、しかも、規模を大きくする必要がある。回転速度を速めるために、株価をどんどん高くしなきゃならない。

田原総一朗『無器用を武器にしよう 自分を裏切らない生き方の流儀』(青春新書インテリジェンス)
田原総一朗『無器用を武器にしよう 自分を裏切らない生き方の流儀』(青春新書インテリジェンス)

株価を上げるということはバブルを生み、それはいつか弾けてしまうものだ。株価を吊り上げるというのは、自分の首を絞めること――よく考えてみればわかることなんだけど、人間、そして企業というものは、得てしてこうした「視野狭窄(きょうさく)」に陥る。利益を上げろというと、もうそれだけしか見えなくなる。安易な道に走って自滅してしまう。視野狭窄に陥ったあげくに、バブルが弾けて、客の不信感がドーンと強まり、いま証券会社はそのしっぺ返しを受けているわけです。非常に苦い体験をしている。

この体験の中で、証券会社がどこも客との関係、客と企業の関係について、基本の基本からもう一度作り直そうとしているんです。

自分たちはバブルの中で視野狭窄に陥ってしまい、客のニーズが見えなくなり、あるいは自分の商売が見えなくなり、社会というものが見えなくなって突っ走ってしまったと。さっき言ったニチイの例もこれと同じ。目先のことばかり求めていると、最後には大矛盾が起きてしまう。

■「自然体になる」と「手を抜く」はまったく違う

よく野球でピッチャーに“肩の力を抜け”という。自然体で行けということですね。肩に力が入り過ぎるというのはね、リキミ過ぎる、意識をし過ぎるということだ。

そのため間違って力を入れてしまって、自分の力量や自分のやらなきゃいけないことがわからなくなり、空まわりしてしまう。あるいは自分の置かれた状況すら判断できなくなる。つまりこれは視野狭窄でしょう。自然体になるということは、もっと視野を広くしろ、よく見ろということなんです。

僕がこの年になってもよく間違うのは、自然体になることと、手を抜くことの違いを、錯覚してしまうこと。自然体になる、マイペースでいくことと、手を抜くことは正反対なんだ。結局世の中、うまい話なんてのはない。要領よくやろうとか、うまく立ち回るってのも、結果的に損している人が多いと思う。

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田原 総一朗(たはら・そういちろう)
ジャーナリスト
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所へ入社。テレビ東京を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。著書に『起業家のように考える。』ほか。

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(ジャーナリスト 田原 総一朗)

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