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機能性表示食品「紅麴サプリ」はなぜ健康被害を生んだのか…「日本のサプリには定義がない」という事実

プレジデントオンライン / 2024年4月6日 12時15分

出典=『その一錠があなたの寿命を縮める 薬の裏側』

国の認める「機能性表示食品」である小林製薬の「紅麹サプリ」は、なぜ健康被害を生んでしまったのか。薬剤師の鈴木素邦さんは「日本の健康食品・サプリメントには明確な定義がなく、中には国の審査を受けずに流通している『ただの食品』もある」という――。

■なぜ「紅麹サプリ」で健康被害が発生したのか

小林製薬のサプリメント「紅麹コレステヘルプ」を摂取した方のうち、5人が死亡、延べ100人以上が入院するという深刻な健康被害が発生しています。

厚生労働省によると、サプリメントの製造過程において、「プベルル酸」という予期しない物質が発生したとされていますが、まだ健康被害の正確な原因は明らかになっていません。

健康食品やサプリメントには国が定めた安全基準があるのに、なぜこんな大事件が起きてしまったのか。疑問に思われた方も多いのではないでしょうか。

実は、日本にはサプリメントの「定義」はありません。「サプリメントは健康に良い特定の成分のみ取り出し、飲みやすい形にした商品」という「暗黙のルール」があるだけです。

■サプリに病気を治す効果はない

「健康食品」(サプリ含む)は、「もともと健康な人」が食べたり飲んだりすることで「健康維持につなげる」のが目的であり、「病気を改善するため」に作られたものではありません。

一部には、すでに病気になった人が回復するためにつくられた健康食品もありますが、基本的には病気を治すものではなく、「食品の一つ」と考えるほうが良いと思います。

なお、「健康食品」には国が定める区分があります。中でも特定の効果効能が見込める健康食品として、図表1のように「特定保健用食品」「特別用途食品」「機能性表示食品」「栄養機能食品」があります。

■「トクホ」には国の審査がある

・特定保健用食品(通称:トクホ)

商品毎に国が審査して、健康に良いというお墨付きをもらった食品です。医薬品ではありませんが、効果効能を書くことを許されています。

国の審査を通過するには相応の根拠が必要で、メーカーはトクホの取得のために、多額の費用をかけて、大掛かりな試験を行っており、最も信頼度の高い健康食品と言えます。

ただ、あくまで「食品」であり、病気を治す目的で使用しても、効果が認められてはいない点には注意が必要です。

ピペットを使用する科学者
写真=iStock.com/DNY59
多額の費用をかけて、大掛かりな試験を行っている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/DNY59

■「特別用途食品」は病後の回復にも使える

・特別用途食品

病気の方の健康の保持や回復のための食品、乳児の発育など特別な用途に使える食品を指します。

特別用途食品と認められるためには、それぞれの基準に適合しているか国による審査を受ける必要があります。例えば低タンパク質食品であれば、いくつか基準はありますが、通常の同種の食品に比べタンパク質が30%以下であるなどの基準を満たす必要があります。

■「紅麹サプリ」は国の審査を受けていない

・機能性表示食品

話題の「紅麹コレステヘルプ」はこの機能性表示食品として申請されたものです。

「トクホ」に似ていますが、開発した会社の責任のもとで売られる商品であり、国の審査が不要で、届出だけでいい点が異なります。

「トクホ」同様、臨床試験などの科学的検証を経て、届出をするため、一般的には信頼度の高い健康食品(サプリ含む)と言えます。

しかし、国が審査しているわけではないため、信頼性に欠けるという意見もあります。

今回の紅麹サプリについてはまだ調査中の部分も多く、「機能性表示食品」の認定が正しかったのか、審査なしという制度設計に問題はないのか、今後の検証が待たれるところです。

小林製薬の小林章浩社長
写真=時事通信フォト
「紅麹サプリ」は国の審査を受けていない(小林製薬の小林章浩社長、2024年3月29日) - 写真=時事通信フォト

■認可されていない健康食品もたくさんある

・栄養機能食品

カルシウム、ビタミンCなど、決められた20種類の成分を含み、国が定めた基準やパッケージで販売されるものです。例えば「カルシウム」は、「骨や歯の形成に必要な栄養素です」と書くことが決められています。認可が必要というものではありませんが、わかりやすい基準を満たしている商品と捉えて良いでしょう。

・いわゆる健康食品

ほか、国が認可していない食品で、健康を謳っているものもたくさんあります。

いわゆる健康食品は、法律的には一般的な食品と同じであり、効能・効果や機能性を表示することはできません。

ですが、巧みな宣伝広告などにより、普通の食品とは異なる素晴らしい効果があるかのように期待させて、売り上げを伸ばしている怪しいものも存在しています。

■「著名人が宣伝しているサプリ」だからといって信用できない

いわゆる「健康食品(サプリ含む)」には次に挙げる三つの問題があります。

一つ目は、安全性については、製造者の自主性に委ねられている点です。

もちろん、ちゃんとした会社の信頼できる健康食品(サプリ含む)もありますが、そうでないものも多く、そうした商品を摂取すると思わぬ健康被害を受けることもあり、注意が必要です。

著名人が宣伝している、医師が監修している、実験結果は動物実験のデータのみ、口コミの利用など、効果効能がなくても消費者をその気にさせる手法が蔓延しているのが現実です。安全かどうか慎重に見極める必要があるでしょう。

スマートフォンを使用する女性
写真=iStock.com/itakayuki
「著名人が宣伝しているサプリ」だからといって信用できない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/itakayuki

■サプリより医療機関にかかるほうがいい

二つ目は、サプリメントには医薬品のような効果・効能は期待できない点です。

一般にサプリメントは薬より効果や副作用が穏やかです。

今回の「紅麹コレステヘルプ」の場合、コレステロールを下げる効果があったかもしれませんが、コレステロールが血管に蓄積して起きる動脈硬化性疾患(脳梗塞や心筋梗塞など)を予防するには、継続して正常値を維持する必要があり、サプリメントで一時的にコレステロールを下げてもあまり意味がありません。

薬剤師の立場としては、もしコレステロール値が高いのであれば、紅麹サプリを飲むよりも、医療機関にかかるべきと思います。

■自己判断で「紅麹サプリ」を服用していた

三つ目は、購入者が健康食品(サプリ含む)の有効性や健康被害の危険性を自分で判断しなければならない点です。

医薬品の場合、自分の意思で購入できるものと、処方されないと購入できないものがあります。

【図表2】自分の意志で購入できる薬、できない薬
出典=『その一錠があなたの寿命を縮める 薬の裏側』

健康食品(サプリ含む)は、すべて自分の意思で購入できます。必要かどうかは購入者が自分で判断することになります。

■大学病院の専門医でも判断は難しい

「紅麹コレステヘルプ」の健康被害は、当該サプリメントを昨年3月頃から服用し続けた方に起きています。

大学病院で持病や常用薬が無い患者さん3名に、腎機能の低下が見られ、尿細管間質性腎炎を疑ったようです。

高度な専門性を持つ大学病院の専門医でも原因がサプリだったことを突き止めるのは簡単ではありませんでした。まして医学の知識に乏しい一般消費者に、サプリの危険性を自分で判断するのは困難と言わざるを得ません。

■「食事や運動の改善なしに、サプリに頼る」は本末転倒

健康を維持するには、「食事」「睡眠」「運動」を適切に行うことが重要です。

詳しくは拙著『その一錠があなたの寿命を縮める 薬の裏側』(総合法令出版)でも挙げさせていただきましたが、健康食品(サプリ含む)はそれらを部分的に補うのが基本です。

「食事や運動の改善なしに、サプリに頼る」というのは、本末転倒であり、悪しき習慣と言わざるを得ません。

ほとんどの健康食品(サプリ含む)は効果があるかどうかもわかりません。人間の体は複雑です。サプリを飲むことでどんな変化が生じるか、簡単にわかるものではないのです。

■サプリメントの服用記録をつけよう

とはいえ、「あらゆるサプリメントは危険だから飲むべきではない」とまで言うつもりはありません。

忙しい毎日、「食事」「睡眠」「運動」がおろそかになることもあります。そんな時にサプリメントで一部を補うのはそれほど問題はないでしょう。

一部をサプリメントで補うとして、健康被害を避けるためにはどうすればよいでしょうか。

お勧めは、サプリメントの服用記録をつけることです。

鈴木素邦『その一錠があなたの寿命を縮める 薬の裏側』(総合法令出版)
鈴木素邦『その一錠があなたの寿命を縮める 薬の裏側』(総合法令出版)

病院に通われている方なら、「お薬手帳」にサプリメントも記録するとよいでしょう。

こうしておくことで、医療機関のほうでもチェックできますし、万一体調が悪くなった場合にも対処しやすくなります。

健康とはかけがえのないものです。健康でなければできることが制限されてしまいます。仕事、親孝行、恋愛、子育て、食べ歩き、趣味などすべての根幹は、健康であること。

安易な宣伝に流されてしまわないよう、少しずつ健康を積み重ねることが大切ではないでしょうか。

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鈴木 素邦(すずき・そほう)
薬剤師、経営学修士(MBA)
1980年生まれ、千葉県出身。東京大学、慶應義塾大学など32大学の教壇に立ち、3万人以上の薬剤師を世に送り出す。また、武田薬品工業、ファイザー製薬など大手製薬企業20社以上から研修依頼なども受け、論理的でありながらユーモラスな講義で人気を集める。祖父が創業した不動産管理会社の3代目社長として、薬局経営を指導している。ほか、NHK文化センターでサプリメントについてのオンライン教室を担当。著書に『その一錠があなたの寿命を縮める 薬の裏側』(総合法令出版)がある。

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(薬剤師、経営学修士(MBA) 鈴木 素邦)

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