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歴代最強朝ドラの予感大…生理で4日寝込む主人公の「虎に翼」に女子高大生・Z世代・50歳以上女性が熱視線の訳

プレジデントオンライン / 2024年4月23日 8時0分

吉田 恵里香、豊田 美加『NHK連続テレビ小説 虎に翼 上』(NHK出版)

NHK連ドラ「虎に翼」が話題を呼んでいる。放送開始3週間の視聴率を分析した次世代メディア研究所代表の鈴木祐司さんは「女性主人公の描かれ方がこれまでの作品と決定的に違う。女性にとっての理不尽がこれでもかと描かれる物語に若い女性やZ世代、50歳以上の女性だけでなく、若い男性も注目している。登場人物たちの情念が爆発すれば、間違いなく記憶に残る斬新な朝ドラに進化できるだろう」という――。

NHK連続テレビ小説「虎に翼」が好調だ。

理由はいくつもある。

寅子(伊藤沙莉)が従来の朝ドラの主人公と異なるキャラクターであること。女性が弱者としてたびたび描かれるが、寅子は「はて?」と呟いた後に自然体で状況を乗り越える点。さらには生理の話が何度も登場したように、従来はあまり触れられなかったディテールが普通に描かれる新しさだろう。

こうした魅力は、視聴者層の変化にも表れている。

特定層の視聴率も測定するスイッチメディアのデータから、どんな人が今作に魅せられているのかを浮き彫りにし、同作の可能性を考えた。

■従来と異なる視聴層

朝ドラは通勤通学前の忙しい時間帯に放送される。

このため視聴率の多寡は多少生まれるものの、視聴者層は大きく変化することがない。ところが今作は、「ブギウギ」(23年度後期・主演は趣里)や「らんまん」(23年度前期・主演は神木隆之介)と比べると、明確な変化が生まれている。

【図表】朝ドラ3本の特定層別視聴率比較
スイッチメディア「TVAL」データから作成

スタート3週間の平均を比べて見よう。

個人視聴率は3作とも7%強で大差はない。ところがF3~4(女性50歳以上)では5~6%ほど「虎に翼」が上回った。ただし男性75歳以上では同ドラマは1割前後低い。

つまりドラマが描く時代に近い世代では、男性はあまり受け入れていないが女性は惹きつけられているようだ。

もう1つ、変化が生じた層がある。

女子高生・女子大生・Z世代・M1などだ。いつもより2割前後も高くなっている。これらの変化は、主人公のキャラクターによるところが大きいと思われる。

従来の主人公は、“女だてらに”奮闘することが多かった。

「木に登る」「水に落ちる」「男社会に飛び込む」などの場面が印象的だった。ところが今作の寅子は、“お見合い3連敗”で始まり、「女性は無能力者」と定義される社会で覚醒するものの、“生理で4日”も寝込んでしまう。明らかにいつもの朝ドラのエネルギッシュな女主人公とは異なる。

かくして伝統的な朝ドラを好む75歳以上の男性に脱落者が生まれた。

ただし女性は違う。よりリアルな女性の位置づけの中で奮闘する寅子に、中高年の女性が熱い視線を送っている。また若年層も、一定程度変化した日本社会が、どこから出発したのかを目の当たりにし、興味を持った人々がいるようだ。

■弱者と意識高い系が注目

ドラマでは女性にとっての理不尽がこれでもかと描かれる。

「女性は無能力者」という法の規定に始まり、家庭内での嫁の位置づけ、貧しい農村での娘の運命などだ。東京の街中でも、人生に絶望した女性や苦労の絶えない老女などが画面の端を通行することが多い。

【図表】3ドラマの特定層別個人視聴率比較
スイッチメディア「TVAL」データから作成

女性を中心に支持されている本作だが、女性の属性でその内容を掘り下げてみよう。データから確認できたのは仕事をする女性の中で、見られ方に差が生じたことだ。

女性の「正規職員」では、3ドラマ中で最下位を競っている。「派遣社員」では最下位は脱したものの、「らんまん」と同程度。ところが「パート・アルバイト」の女性では、2位を1割以上上回った。弱く不安定な立場の人ほど描かれた世界に共感している可能性がある。

興味関心の持ち方でも差が生じた。

吉田 恵里香『NHK 連続テレビ小説「虎に翼」シナリオ集』(NHK出版)
吉田 恵里香『NHK 連続テレビ小説「虎に翼」シナリオ集』(NHK出版)

教育・介護・地域など身近な問題に関心のある層、テレビドラマ・タレントなどの芸能情報に関心のある人々の間では、「虎に翼」は特に傑出していない。ところが、政治・経済・社会など世の中のシステムに関心のある女性20~50代となると、1割前後高くなる。

伝統的な女性の生き方に疑問を感じ、法を武器に立ち上がった女性を物語は描いている。社会の仕組みに目を向ける意識の高い女性が注目しているようだ。

生き方の違いにも、差が表れている。

周りを気にする人・人生を楽しむタイプでは同ドラマは傑出しない。一方、「自分らしさにこだわる」20~50代の女性では1割以上高い。

周囲に流されない女性たちが自分事として見ている可能性が高い。

■性年齢での質的差

特定の傾向は、性・年齢でも差が生まれていた。

【図表】3ドラマの特定層別個人視聴率比較
スイッチメディア「TVAL」データから作成

例えば「自分らしさにこだわる」人々。

20~50代女性も男女60歳以上も、「ブギウギ」「らんまん」より1割以上よく見ている。ただし、20~50代男性では、「ブギウギ」とは大差なく、「らんまん」よりは2割以上高い数字となった。

造り酒屋の跡取りとして生まれ育ちながら趣味の植物学にまい進した男の物語(「らんまん」)には、20~50代男性はあまり反応しなかった。自分とは境遇や姿勢が違い過ぎると感じたのだろう。しかし、音楽芸能の世界で新たな道を切り拓いた女と法の扉を開けようとした女の物語(「ブギウギ」)には、同じように興味を示した。逆に言えば、両ドラマでは差は大きくなかった。

「政治に興味あり」層でも状況は似ていた。

ところが「社会に興味あり」層では、男女60歳以上だけが明確に前2ドラマに大差をつけた。昭和から令和にかけての変化を目の当たりにして来た世代は、社会のシステムや仕組みを強く意識した物語に惹きつけられていることがわかる。

■話題作となる予感

以上の層の各視聴率は、3週までに力強い動きを見せている。

【図表】特定層別個人視聴率の推移
スイッチメディア「TVAL」データから作成

そもそも個人全体は、1週から3週にかけて微減となった。

過去の朝ドラや夜の連ドラでもよくあるパターンだが、序盤をリアルタイムでチェックした後、見るのをやめてしまうか録画再生にする人が少なくないので、視聴率下落はよく起こる。とはいえ、同作は微減に留まっている点、物語に力がある証拠と言えそうだ。

注目すべきなのは20~50代女性だ。

第2週で下がりながらも第3週で持ち直す層がいくつかある点だ。「政治に興味あり」層は、2週で2割弱落としながら、3週で半分ほど戻した。「社会に興味あり」層も、1割落としても1割弱戻した。

■視聴者が「自分事」として見られる工夫がなされている

最も力強いのは「自分らしさにこだわる」層だ。

1割弱落としたが1割超戻して、第1週を第3週が上回った。“無能力者”と位置付けられ、実際の生活の中で数々の理不尽に直面する女性たちが、どう状況を打開し“自分らしく”生き始めるのか、女性たちの熱い視線が送られていることがわかる。

しかも同作は、自分事として見られる工夫がなされている。

主人公の周りに、さまざま課題を抱える女性たちが配置されているからだ。貧農だった実家を飛び出した山田よね(土居志央梨)、華族のしがらみにもがく桜川涼子(桜井ユキ)、朝鮮半島からの留学生・崔香淑(ハ・ヨンス)、猪爪家に嫁いできた寅子の親友・花江(森田望智)などだ。

視聴者は誰かを身近に共感しながら見ている。

各人の課題が、どう乗り越えられるのかを固唾(かたず)をのんで見守っている。半年におよぶ放送期間に、カタストロフの瞬間を幾度と迎えられる仕掛けとなっている。

もちろん“無能力者”と女性を貶める男たちも何人も登場するだろう。敵をどう倒すのか、次々と現れる難敵とどう対峙するのか、物語を深める設定が次から次へと出てくるのだろう。

女性ならではの柔らかい対応で、各種の課題を解決すれば従来にない名作になる可能性がある。社会のシステム・仕掛けというフレームを前提に、登場人物たちの情念が爆発すれば、間違いなく記憶に残る斬新な朝ドラに進化できるだろう。

制作陣の力量に期待したい。

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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。

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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)

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