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COVID-19パンデミックによる胃がん手術の変化を明らかに

PR TIMES / 2024年3月19日 10時15分

~レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB:National Database)を解析~

 公益財団法人ちば県民保健予防財団の藤田美鈴主席研究員および羽田明調査研究センター長らは、千葉大学、慶応義塾大学、藤田医科大学と共同で、厚生労働省が管理するレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB: National Database)(注1)のサンプリングデータセット(注2)を利用し、Coronavirus disease 2019 (COVID-19) パンデミック前後の胃がんの手術件数の変化を調べました。その結果、胃がんの内視鏡的切除および胃切除件数は、パンデミック発生後に減少していることが明らかになりました。胃切除のタイプ別に見てみると、開腹手術件数に大きな変化は認められませんでしたが、腹腔鏡手術件数は減少していました。一方、ロボット支援手術件数は、2018年4月の保険適応以来増加していました。本研究成果は、2024年3月7日に、学術誌Journal of Gastroenterology and Hepatologyにオンラインで掲載されました。



研究の方法
 厚生労働省から2015年1月~2021年1月のNDBのサンプリングデータセット(年4回作成:1、4、7、10月)の提供を受けました。各胃がんの手術について、各月の診療報酬明細書(レセプト)(注3)の件数をカウントし、時系列分析(注4)という手法を用いて、パンデミック前の件数の推移から、パンデミック中の件数を予測するとともに(パンデミックがなかったと仮定した場合の件数の予測値)、パンデミック中の件数の変化量を推定しました。

調べた胃がんの手術
内視鏡的切除(ポリペクトミー、内視鏡的粘膜下層はく離術、内視鏡的粘膜切除術を含む)
胃切除(開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術に分けた解析も実施)

研究の結果とコメント
 胃の内視鏡的切除数は、2020年7月、2021年1月に、胃切除数は、2020年4月、7月、2021年1月に有意に減少していました(図1)。胃切除を種類別に解析すると、腹腔鏡手術数は2020年7月、10月、2021年1月に有意に減少していましたが、開腹手術数に有意な変化を認めませんでした。一方、ロボット支援手術数は2018年4月に保険適応になって以来、増加していました(図2)。
 これまで、COVID-19パンデミックによる胃がん手術への影響が報告されていますが、日本全体を反映した報告は限られていました。本研究は、我が国のレセプト情報を網羅的に蓄積しているNDBを用いて、はじめて内視鏡的切除がパンデミック発生後に減少していたことを明らかにしました。さらに、胃切除件数の減少も確認し、この結果は、全国的な手術症例データベースであるNational Clinical Databaseを用いた報告と一致していました。異なる全国規模のデータベースとの結果の一致は、本研究の妥当性を支持するものです。
 本研究で減少が確認された内視鏡的切除および腹腔鏡手術は、早期がんに実施されます。パンデミック直後には、がん検診が中断され、さらに、医療機関でのがん診断のための検査数(胃内視鏡検査など)が減少しました。その結果、胃がんの診断数(特に早期胃がん)の減少が報告されています。内視鏡的切除および腹腔鏡手術の減少は、早期胃がんの診断数の減少を反映しているものと考えられます。一方、比較的進行した胃がんに対して行われる開腹手術数は変化していなかったことから、進行した胃がんの診断や治療は比較的保たれていたことが示唆されます。さらに、ロボット支援手術は、パンデミックの発生に関わらず増加していました。ロボット支援手術は、失血を抑え、微細な操作を可能にしますが、手術時間が長くなることが知られています。もしも、パンデミックにより胃がんの医療が危機に陥っていれば、時間のかかるロボット支援手術は避けられていたと思われます。しかし、本研究では順調な増加が観察されたことから、我が国の胃がん医療が深刻な危機に陥っていなかったことを示唆します。
 パンデミック中には、がん検診の中断等により早期胃がんの診断が減少し、その結果、内視鏡的切除および腹腔鏡手術が減少しました。一方で、がんが診断されていれば、医療従事者の努力により、胃がんの医療は比較的保たれていたことが示唆されました。

[画像1: https://prtimes.jp/i/119713/10/resize/d119713-10-2fc84ed396df438465d0-0.png ]


図1.胃がんの内視鏡的切除および胃切除術の件数の推移
年に4時点(1月、4月、7月、10月)を観察
黒線:観察された手術数、点線:パンデミック前の推移から予測されたパンデミック中の件数(パンデミックがなかったと仮定した場合の予測値)、灰色の網掛け:95%信頼区間(観察された手術数が網掛けの外の場合、統計学的に有意に変化していると判断する)

[画像2: https://prtimes.jp/i/119713/10/resize/d119713-10-14f323671899ab73f8c0-1.png ]


図2.胃切除術の種類別の推移
年に4時点(1月、4月、7月、10月)を観察
黒線:観察された手術数、点線:パンデミック前の推移から予測されたパンデミック中の件数(パンデミックがなかったと仮定した場合の予測値)、灰色の網掛け:95%信頼区間(観察された手術数が網掛けの外の場合、統計学的に有意に変化していると判断する)


用語の説明
注1)レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB: National Database):NDBは、「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、厚生労働省が蓄積管理しているデータベースで、我が国のレセプト情報と特定健診・特定保健指導情報が蓄積されています。
注2)サンプリングデータセット:NDB情報は、研究等が利活用するために、一定の条件の下、第三者に提供されています。提供形式は3種類あり、そのうちの一つがサンプリングデータセットです。サンプリングデータセットは、年に4回(1月、4月、7月、10月)、NDB情報からレセプト情報を一定の確率で抽出したものです。
注3)診療報酬明細書(レセプト):医療機関が健康保険組合などの公的医療保険者に対して、保険医療に要した費用を請求するために発行する明細書のことです。毎月、患者ごとに作成されます。
注4)時系列分析:Interrupted time-series analysis using seasonal autoregressive integrated moving average (SARIMA) modelsを用いて解析を行いました。この方法を用いることで、自己回帰、移行平均、トレンド、季節変動を調整したうえでの変化量を推定することができます。

論文情報
タイトル:Impact of the COVID-19 pandemic on gastric surgery in Japan: A nationwide study using interrupted time-series analyses
著者:Misuzu Fujita1,2, Kazuya Yamaguchi1, Kengo Nagashima3, Kiminori Suzuki1, Tokuzo Kasai1, Hideyuki Hashimoto1, Yoshihiro Onouchi2, Daisuke Sato4, Takehiko Fujisawa1, Akira Hata1
1公益財団法人ちば県民保健予防財団、2千葉大学大学院医学研究院公衆衛生学、3慶應義塾大学病院 臨床研究推進センター 生物統計部門、4藤田医科大学大学院医学研究科
雑誌名:Journal of Gastroenterology and Hepatology
DOI: https://doi.org/10.1111/jgh.16533

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