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男性ホルモン濃度の低下は腸内細菌叢の多様性を損なうことが判明

PR TIMES / 2022年7月15日 13時45分

~ 前立腺がんの内分泌治療の副作用低減に期待 ~

順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学(東京都文京区)の呉彰眞 助手、堀江重郎 教授、慶應義塾大学先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)の福田真嗣 特任教授(研究当時。現:順天堂大学大学院医学研究科細菌叢再生学講座・特任教授)らの共同研究グループは、前立腺がんの内分泌治療(ADT)により男性ホルモンのテストステロン濃度を低下させると、腸内細菌叢に変化が生じて、その多様性*3が損なわれることを明らかにしました。



概要
順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学(東京都文京区)の呉彰眞 助手、堀江重郎 教授、慶應義塾大学先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)の福田真嗣 特任教授(研究当時。現:順天堂大学大学院医学研究科細菌叢再生学講座・特任教授)らの共同研究グループは、前立腺がんの内分泌治療(ADT)*1により男性ホルモンのテストステロン濃度を低下させると、腸内細菌叢*2に変化が生じて、その多様性*3が損なわれることを明らかにしました。前立腺がんの内分泌治療による主な副作用には肥満、フレイル、骨粗しょう症、うつ、認知症などがありますが、腸内細菌叢の多様性の低下はこれらの病態と関連することが知られていました。本成果により、内分泌治療時に腸内細菌叢の多様性の低下を抑制する手法を開発することで、前立腺がんの内分泌治療時の副作用を低減できることが期待されます。本研究はProstate Cancer and Prostatic Diseases誌のオンライン版に掲載されました。

本研究成果のポイント


内分泌治療を行った前立腺がん患者の腸内細菌叢の変化を経時的に測定した。
テストステロン濃度の低下により腸内細菌叢の多様性が損なわれることが明らかになった。
腸内細菌叢の変化が内分泌治療の副作用の発症に関与している可能性が示唆された。


背景
前立腺がんは男性が罹患するがんで最も多く、日本国内でも年間8万人以上が罹患します。転移がんや根治治療をできない場合に男性ホルモン(テストステロン)を遮断する内分泌治療が行われます。しかしながら、内分泌治療では、しばしばその副作用として肥満やフレイル、骨粗しょう症、うつ、認知症などを発症することが課題になっています。
一方、腸内細菌叢の多様性や腸内細菌が産生する代謝物質が、人の健康に大きく影響することが近年の研究で明らかになりつつあり、腸内細菌叢の多様性の低下が、フレイル、骨粗しょう症、うつ、認知症などの疾患リスクにもなり得ることが示唆されています。本研究では、前立腺がんの内分泌治療によるテストステロン濃度の低下と腸内細菌叢との関連性について調査しました。

内容
本研究では、内分泌治療を行った日本人の前立腺がん患者23人を対象に、血中テストステロン濃度と腸内細菌叢やその代謝物質との関連について調べました。具体的には、対象者の治療開始前2週間から治療開始後24週間の間で定期的に便と血液をサンプリングし、次世代型シークエンサー*4を用いて細菌の16S rRNA遺伝子をもとにした細菌叢解析と質量分析器を用いた便中代謝物質解析を行い、治療の経過に伴うそれらの変化を調べました。その結果、腸内細菌叢の多様性解析では、細菌叢に含まれる菌種がどのくらい豊富であるかの指標となるα多様性(図1)と、細菌叢に含まれる菌種同士が系統的にどのくらい似ているかの指標となるβ多様性(図2)が治療に伴って有意に低下していることが明らかになりました。
以上の結果から、内分泌治療による血中テストステロン濃度の低下によって患者の腸内細菌叢の多様性が有意に低下する関連性が明らかになりました。このことは、腸内細菌叢の変化が内分泌治療の副作用の発症に関与している可能性を示唆します。

今後の展開
本研究により、前立腺がん患者への内分泌治療による血中テストステロン濃度の低下によって患者の腸内細菌叢の多様性が損なわれることが明らかになり、肥満やフレイル、骨粗しょう症、うつ、認知症などの副作用の発症が腸内細菌叢の多様性の低下と関連している可能性が示唆されました。このことから、前立腺がん患者への内分泌治療時に腸内細菌叢の多様性低下を抑制するような食事療法などを併用することで、前立腺がん患者の内分泌治療時の副作用を低減できることが期待されます。

[画像1: https://prtimes.jp/i/21495/433/resize/d21495-433-a8a0f99fb6ba96c0ccc1-0.png ]

図1.内分泌治療による腸内細菌の多様性の経時的変化(α多様性)
この図は内分泌治療に伴う細菌叢の多様性(α多様性)の変化を示した結果です。Chao1指標(その細菌叢に含まれる細菌の種類数の推定値)では治療開始から12週以降でα多様性が有意に低下していることが明らかになりました。

[画像2: https://prtimes.jp/i/21495/433/resize/d21495-433-b38ade530774bc1e05f6-1.png ]

図2.内分泌治療による腸内細菌の多様性の経時的変化(β多様性)
この図は細菌叢の構成がどの程度類似しているか(β多様性)を相対的な距離(縦軸)として表しており、その経時的変化を測定した結果です。細菌叢の構成種のみを評価した場合、治療後の時間経過と共に距離が小さくなる(細菌叢の構成種が類似してくる)傾向がありますが、各細菌種の存在量も考慮した場合、そのような所見は認められないことから、このβ多様性の変化は、もともと存在率の低い菌種が内分泌治療の経過とともにいなくなり、細菌叢の多様性が損われたことが推察されます。

用語解説
*1 前立腺がんの内分泌治療(ADT):テストステロン(男性ホルモン)を遮断することで前立腺癌の病勢をコントロールします。
*2 腸内細菌叢:腸内には40兆以上の微生物が存在しており、私たちの健康に深く関与しています。
*3 腸内細菌叢の多様性: 細菌叢に含まれる菌種がどのくらい豊富であるか(α多様性)、また細菌叢に含まれる菌種同士が系統的にどのくらい似ているか(β多様性)を表す指標です。
*4 次世代シークエンサー: 数万以上のDNA分子の配列情報を一度に解析することができます。

原著論文
本研究成果は、医学雑誌「Prostate Cancer and Prostatic Diseases」のオンライン版(2022年4月13日付)に掲載されました。
論文タイトル: Gut environment changes due to androgen deprivation therapy in patients with prostate cancer
タイトル(日本語訳): 前立腺がんの内分泌療法による腸内環境変化
著者 : Akimasa Kure, Tomoya Tsukimi, Chiharu Ishii, Wanping Aw, Nozomu Obana, Gaku Nakato, Akiyoshi Hirayama, Haruna Kawano, Toshiyuki China, Fumitaka Shimizu, Masayoshi Nagata,
Shuji Isotani, Satoru Muto, Shigeo Horie & Shinji Fukuda
著者(日本語表記): 1)呉彰眞、2)月見友哉、2)石井千晴、2) Wanping Aw、3)尾花望、4)中藤学、2)平山明由、1)河野春奈、1)知名俊幸、1)清水史孝、1)永田政義、1)磯谷周治、1)武藤智、
1)堀江重郎、2-4)福田真嗣
所属: 1)順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科、2)慶應義塾大学先端生命科学研究所、
3)筑波大学 トランスボーダー医学研究センター、4)地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所
DOI: 10.1038/s41391-022-00536-3

本研究はJSPS科研費(JP18H04805 to S.F.)、AMED-CREST(JP21gm1010009 to S.F.)、 JST ERATO (JPMJER1902 to S.F.)の支援を受け実施されました。
なお、本研究をご理解、ご協力いただいた皆様には深謝いたします。

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