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キム・ゴードンが語る電子音楽とリズムへの傾倒、『バービー』、カート・コバーン、大統領選

Rolling Stone Japan / 2024年3月11日 17時30分

ILLUSTRATION BY MARK SUMMERS

キム・ゴードン(Kim Gordon)はまだノイズを出し終えていない。挑戦的なソロ2作目『The Collective』を3月8日にリリースし、フジロック出演も決定している元ソニック・ユースのメンバーが、最新アルバムや過去にまつわる話、時事的なトピックなどへの見解を率直に語った。本記事の翻訳は、回顧録『GIRL IN A BAND キム・ゴードン自伝』(DU BOOKS刊・2015年)の訳者・野中モモ。

キム・ゴードンはソニック・ユースでの30年に及ぶ活動で、ロックの可能性を広げるのに貢献した。たとえばその不安を掻き立てる声と地下鉄が響かせる重低音の如きベース演奏から、自身のフェミニズムとアートスクール教育のバックグラウンドをバンドの歌詞と精神に組み込む手法に至るまで。現在、ソニック・ユース解散後2枚目のソロアルバム『The Collective』を引っ提げてのツアーを準備中のゴードンは、これから進もうとしている道について熟考している。「いまのバンドはすごくいい」と、彼女は言う。「でも、いちばん難しいのはすべての決断を自分でしなくちゃいけないことね。Tシャツのデザインからステージの背景をどうするか、オープニングを誰にするかまで。決めることが本当にたくさんある」。

信じ難いことだが、ゴードンとサーストン・ムーアが夫婦としての関係解消を発表し、それに伴ってソニック・ユースも解散してから13年の時が流れた。解散後、ゴードンが最初に取り組んだ音楽プロジェクトはギタリストのビル・ネイスとの実験的デュオBODY/HEADだった。しかし5年前、ゴードンは本格的にひとりで表に出はじめた。エンジェル・オルセンやチャーリーXCXからリル・ヨッティ、キッド・カディ、ティーゾ・タッチダウンまで誰もかれもを手掛けているプロデューサーのジャスティン・ライゼンと組み、2018年の『No Home Record』を制作。彼女の語りのような歌声をポストアポカリプス的な電子音のサウンドスケープにのせて強い印象を残した。

ライゼンとの2度目のコラボレーションになる2ndアルバム『The Collective』は、前作よりほんの少しだけスウィングしている。まるで彼女はまだ終末後の世界を彷徨い歩き続けていて、アンダーグラウンドなダンスクラブに行き当たったかのようだ。「基本的には前作の続きだけれど、今度はもっとビートを重視したかった」と彼女は言う。「ジャスティンはサウンドを選んでめちゃくちゃにするのが本当にうまい。そういう意味で彼はパンクみたいなものね。ある意味テクノロジーをリスペクトしてないところが」。

現在ロサンジェルスに暮らすゴードンはかつての拠点ニューヨークが恋しいと認め、彼の地に住む娘のココを折々に訪ねているという。LAの音楽シーンもまたNYと同じではない。「音楽シーンはかなり栄えている様子だけれど、私は本格的に関わっているわけじゃない。ここでは音楽の作りかたが違う」。だが光あふれる自宅の部屋に座っているゴードンは、相変わらず控えめでありながら鋭い切れ味をみせている。



―ソニック・ユースの解散後、生まれ故郷のカリフォルニアに戻りましたね。日々どんなふうに過ごして、周りに馴染んでいますか? たとえばハイキングをするとか。

ゴードン:私はハイカーじゃないわね。自宅が好き。カリフォルニアではしょっちゅう車を運転することになる。だけど、ヴィジュアル面に関しては昔からずっとお気に入りの場所のひとつだったんです。ただ家とか建築を見て、一軒の家が隣の家とどう違っているか観察するだけでも.....ここではまだ70年代を感じられます。

―これで電子音楽的な要素が強めのソロアルバムを2枚出したことになります。ソニック・ユースではできなかった、あるいはしなかったけれど追求したかった音楽的な方向性とはどんなものでしょう?

ゴードン:そうね、私は生まれもってのシンガーじゃない。でもリズムと空間を使う感覚に関しては自分にとって何がいいのかをわかっていて、リズムに取り組むのが本当に好き。単純にそれをもっとやってみたかったんです。ある意味、何を歌うかに関してはずっと自由に感じます。いろいろな意味で自分を抑えなくちゃならないと感じなくなりました。

―以前はそう感じていたのでしょうか?

ゴードン:ある意味ではね。(ソニック・ユースの)音楽は私たちみんなで作るものだったから。バンドの型があったし、ヴォーカルはその一部だった。いまはそれと同じやりかたで自分自身に問いかけるわけじゃない。

―あなたは自分を疑ってばかりの人には見えませんが。

ゴードン:両極端なんですよね。自己不信とは違う……ただ思いを巡らして、考えて、それから「やっちまえ」となる。このレコードでは、リリックの多くは即興です。何行かの言葉からはじめました。その割合は曲によって違うけれど。レコーディングに臨むと、ただ頭に浮かんだり口から出てきたりする。そこからはジャスティンが得意な編集と音づくりの問題になります。このレコードを作っていてある種の本物の自由と自信を感じました。自分のやっていることには不安を感じていません。



―「Tree House」はソニック・ユースの「Pacific Coast Highway」の続編みたいですね。どちらもヒッチハイカーが関わる不気味な話で。そこにつながりはありますか?

ゴードン:ある意味では。最初のパートはトラウマみたいな、記憶の中の10代っぽい経験的な。次のパートは実際にあった大人になる経験をもとにしているけれど、マルグリット・デュラス(フランスの作家)の影響も受けています。『愛人』を読んでいたのに加えて、私は(若い頃)香港に住んでいたんです。彼女はベトナムについて語っていて、記憶を表現しようとしていました。

―「Trophies」の題材は……ボウリング? あなたはボウラーなんでしょうか?

ゴードン:明らかに違います。友達のレイチェルに「何について書いたらいいと思う?」と聞いたら、「ボウリングのトロフィーは?」と。それで、いいチャレンジになると思ったんです。

―「Bye Bye」の歌詞は文字通り旅行の持ちものリストですね。

ゴードン:そう、これもまた友達に何か題材はないか聞いたら、「持ちものリストは?」と言われたんです。それで「オーケー、いいじゃない」と。私は日々の記録を書いてるんです、テイラー・スウィフトみたいに。同じやりかたではないけれど。



―こうしたソロ作品を作ることで、自分についてどんなことを知りましたか?

ゴードン:自分はよく心配するってこと。私は自分のことをミュージシャンだと思ったことは一度もないんです。いまでも自分は音楽を演奏するヴィジュアルアーティストだと思っています。いまだにコードとかはわからないし。でも、音楽とパフォーマンスについてはある程度わかっていることに気づきました。それは私の中に埋め込まれていて、ちょうどいいタイミングで活性化するみたい。(ソニック・ユースが終わる)以前には「あぁ、40歳までだな……これをやるには年を取りすぎてる 」と思っていたんだけど。これはひとつのライフスタイルなんです。ブルースやジャズの人が生涯演奏し続けるみたいにね。

「お人形の年」、カート・コバーン、大統領選

―直近で感動したアート作品は?

ゴードン:いい映画を何本か。それがアートに入ればだけど。『関心領域』はすばらしかった。

―『バービー』はいかがでした?

ゴードン:いいんじゃない。私は1959年に発売された初代バービーを持っていました。あの映画がそれを使ってフェミニストの熱弁をふるっても別に嫌じゃなかった。ケンが家父長制を発見するのはよかったな……笑えた。あの映画はもっとひどいものになっていてもおかしくなかった。チャーミングだったわ。とはいえ、あれはまるでマテル社がクールか何かであるかのように見せかけるけど、実際は単なる一企業よね。

―メディアがあの映画とテイラー・スウィフトとビヨンセを引き合いに出して、2023年は「女性の年」だと宣言したことについてはどう思われましたか?

ゴードン:「お人形の年」と言われているのも聞いたけど。ビヨンセやテイラー・スウィフトを悪く言うつもりはまったくない。だけど、ステージ上の彼女たちの姿は、ある意味で非現実的でしょう。どちらも完璧に輝けるものと化して。そういう理由で『哀れなるものたち』はとても好きでした。彼女は発達するにしたがって、女性たちがこの文化において経験してきたさまざまなステージを経験する。ホラー版『ピグマリオン』みたいな。


『関心領域』は5月24日より日本公開



―若い頃の自分にアドバイスをするとしたら?

ゴードン:もっと自分に自信を持つこと。深刻になりすぎないこと。

―後悔していることは?

ゴードン:両親が生きているうちにもっと一緒に時間を過ごさなかったこと。

―カート・コバーンが亡くなってもうすぐ30年です。彼との忘れられない思い出は?

ゴードン:信じ難いことだけど、そうなるわね。私の娘はその年に生まれて、いま29歳です。いまでも私の中に彼が笑って、ほほえんで、バックステージでふざけ回っている姿がすごくあざやかに残っています。そして、あのすごいライヴをやりながらドラムにぶつかっていく姿。本当にそれまで他に見たことがなかった勢いで。

―ニルヴァーナのグッズが最近よく売れているとか。

ゴードン:そうね。歩いていてニルヴァーナのTシャツを着ている人を見かけると思わず笑っちゃう。あの人たちは本当にニルヴァーナに夢中なのかもしれないし、一度も聴いたことがないのかもしれない!


Photo by Danielle Neu

―今年の大統領選に関して希望と不安は?

ゴードン:私の希望はバイデンが撤退してグレッチェン・ウィットマーみたいな人が入ってくること。私の不安は再びトランプとバイデンが当選すること。

―地元のカリフォルニア州知事、ギャビン・ニューサムの出馬に関しては?

ゴードン:彼は最悪ではないだろうけど、大統領になりたいのなら見た目を作り込みすぎてるのをやめなきゃいけないわね。髪型を変えるべき。

ソニック・ユース、人生最良のアドバイス、回顧録を振り返って

―あなたがソニック・ユースの再結成ライヴやツアーに参加する気になるには何が必要ですか?

ゴードン:わからない。やっても前ほど良くはならないでしょう。

―サーストン・ムーアの回顧録はどう思われましたか?

ゴードン:まだ読んでません。ついに世に出せてよかったねと思う。


Photo by Danielle Neu

―あなたのヒーローをひとり挙げてください。

ゴードン:ジョーン・ディディオンがヒーローみたいなものかな。一種のアンチヒーローでもあるけれど。彼女は典型的にポジティブなロールモデルではないけれど、彼女の文章のスタイル、彼女の揺るぎなさ、歴史上のいまとは違う時代にただ彼女自身でいたこと、ジャーナリズム界の女性でいたことに共感をおぼえます。

―いまのインディーロックを追いかけていますか?

ゴードン:いいえ。でも今度いっしょに演奏するケルシー・ルーは好き。彼女は面白い。チェロを弾くんです。



―これまでにもらった最高のアドバイスは?

ゴードン:ニール・ヤングに言われたんだけど、音域とかそういう意味での声の良し悪しは関係ない、どれだけ本物に聞こえるかが重要なんだ、って。それはずっと心に残ってますね。

―ベストセラーとなった回顧録『GIRL IN A BAND キム・ゴードン自伝』が出版されてからもうすぐ10年になります。あの本を書いたことでどんな影響がありましたか?

ゴードン:自分の人生について、自分がどこから来たのかを考えたかな。自分はこれまでずっとあまり変わっていない、たとえば5歳の頃から同じ人間だというふうに感じてきました。あの本が出て私は前より人から興味を持たれるようになったと思う。

―あの本の成功には驚きましたか?

ゴードン:間違いなくそうね。正直、回顧録を書くというのは私自身が発案したわけではなかったんです。みんなパティ・スミスの回顧録がすごくうまくいったのを見て、次を探していたんだと思う。「私は書くのが好きだし、この機にどうやっていまの自分がいるところに至ったのか考えてみるのもいいかも」と思ったんです。

―それについてどんな結論に達しましたか?

ゴードン:私は結論というものを信じない。

From Rolling Stone US.



キム・ゴードン
『The Collective』
発売中
国内盤CD+Tシャツも発売(数量限定)
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13861

FUJI ROCK FESTIVAL'24
2024年7月26日(金)27日(土)28日(日)新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※キム・ゴードンは7月28日(日)出演
フジロック公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/

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