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長崎ちゃんぽん「リンガーハット」が値上げで客離れ…フードコート依存からロードサイド型への転換に光はあるのか

集英社オンライン / 2024年4月3日 8時0分

「長崎ちゃんぽん」の全国チェーン、リンガーハットの業績に異変が起こっている。稼ぐ力が戻らないのだ。2024年2月期は11億円の営業利益を予想しているが、この数字はコロナ禍を迎える前の半分にも達していない。リンガーハットは飲食業界でも業績堅調な優等生と見られていた。しかし、成長をけん引したビジネスモデルの限界が見え、中期的に停滞する可能性もある。

会社の成長をけん引したフードコート型店舗

リンガーハットの2023年3-11月の売上高は前年同期間比8.0%増の296億7200万円、4億8500万円の営業利益(前年同期間は6億900万円の営業損失)を出した。3期連続で営業赤字を出していたが、ようやく暗黒期を抜けた格好だ。



ただし、出遅れ感は出店形態が似ている丸亀製麺と比較をするとよくわかる。トリドールの丸亀製麺事業は、2021年3月期の利益率が前期と比較して10ポイント以上落ちたものの、黒字化を堅持していた。2023年4-12月のセグメント利益率は16.0%に達している。リンガーハット2023年3-11月の営業利益率は1.6%だ。

不調の要因は値上げによる客離れが関係しているが、その前にリンガーハットの成長と出店戦略について整理しておきたい。売上高とロードサイド、フードコート、ビルイン型の3つの形態別出店数の推移を見てみる。

リンガーハットはもともと郊外のロードサイド型店舗が多かったが、2016年2月期にフードコート型が逆転する。2014年2月末にフードコート型の店舗は200店舗に達し、2020年2月末には437まで拡大した。その間、ロードサイド型はわずか9店舗の純増に留まっている。ロードサイド型主流の時代の営業利益率は3~4%だった。フードコートの出店によって7%以上まで高めることに成功している。

リンガーハットの売上高と、本業で稼ぐ力である営業利益の引き上げに大貢献したのはフードコート型なのだ。

度重なる価格改定で長崎ちゃんぽんの値段は1.2倍に

次にコロナ禍を迎える直前とその後の、既存店の売上高と客数、客単価の推移を見ていこう。なお、既存店とはオープンしてから一定の年月が経過したもののこと。オープンしたての一時的な集客力を加味しないため、ブランドや店舗そのものの本質的な稼ぐ力や集客力を見るのに便利なものだ。

2019年各月の各指標を100とした場合の、2020年以降の推移を示したグラフを見ればわかる。

売上高は2023年10月にようやく2019年と同じ水準を取り戻している。注目したいのは、その10月の客数だ。1割以上落としているのである。実はリンガーハットは2020年3月以降、客数が2019年比で9割を超えている月は一度もない。客数がまったく回復していないのだ。

グラフを見るとわかる通り、リンガーハットの売上高と客数は2021年3月までは張り付くように推移していた。しかし、それ以降は乖離する様子がわかる。そして客単価に注目するとジリジリと上昇している。客数の減少を単価増で補っているのだ。

リンガーハットは2021年3月に総額表示に切り替え、一部商品の値上げを行った。それからは度重なる値上げを断行している。2021年3月の「長崎ちゃんぽん」は650円。2024年3月1日からは780円だ。3年あまりで主力商品の価格は1.2倍になったことになる。

フードコートの独特な消費者意識に支えられていた

フードコートに出店する最大のメリットは、広告宣伝費をかけずに集客できることだ。

また、客層は家族連れが圧倒的多数だという特徴もある。地域SNSアプリを運営するPIAZZAの大型商業施設の調査(「大型商業施設利用に関する意識調査」)によると、ショッピングモールに訪れる顧客のうち3名以上のグループ来店は52%に及んでいる。

家族がフードコートで食事をする場合、各人が好きな料理を注文することがほとんどだ。それをシェアするのが楽しみの一つだとも言える。このような飲食形態において、長崎ちゃんぽんは絶妙なポジションを獲得していた。

仮に誰かがラーメンを食べるとすると、他の人は同じカテゴリーを避けたがる。しかし、ラーメンが食べたかった場合、同じ麺類のうどんやスパゲッティが選択肢に入るだろうか。これらはラーメンとは別の食べ物と認識されているため、選択肢に入りづらいはずだ。ところが、ご当地グルメである長崎ちゃんぽんはラーメンと近いもののカテゴリーには若干のズレがあり、うどんやスパゲッティほど離れていないと感じるはずだ。

マーケティングには「純粋想起」という言葉がある。これは、消費者の頭の中にはっきりと浮かぶブランドのことだ。フードコートの場合、この純粋想起が起こることはどのブランドにおいてもほとんどない。消費者は目的を持って来店するのではなく、買い物途中にフードコートに立ち寄り、店舗を比較しながら絞り込むためだ。

リンガーハットは、「長崎ちゃんぽんという選択肢があったな」という消費行動に支えられていたと考えられる。これを「助成想起」という。

つまり、リンガーハットは純粋想起させる強力なブランドを構築して集客していたというよりも、ポジショニングをもとにした助成想起に支えられていた側面が強い。

野菜と小麦粉の100%国産使用は毒か薬か

フードコートは、他店と価格を比較されるというデメリットがある。長崎ちゃんぽんは780円だ。丸亀製麺のかけうどんは390円。トッピングで野菜のかき揚げ180円を加えても570円だ。

トッピングを自由に選べることや、天かす・青ねぎを無料で入れられることを考慮すると、丸亀製麺のお得感が強い。こうなると、先ほどのポジショニングによる優位性は消失し、コストパフォーマンスが大きなウエイトを占めるようになる。

リンガーハットが値下げをするのは難しいだろう。この会社は野菜と麺・餃子の小麦粉はすべて国産を採用し、契約している農家を月別に紹介するなど徹底的に素材にこだわっているからだ。

値下げができずフードコードで集客に苦戦すると、ロードサイドが主戦場になる可能性が高い。しかし、ロードサイドは消費者の比較検討要素が少なく、移動する間の一瞬で長崎ちゃんぽんを食べる理由を想起させなければならない。ラーメンほど食べ物としての認知度が高くないため、これは簡単ではない。

テレビCMや近隣にチラシなどを配布し、消費者にリンガーハットというブランドの純粋想起を促す宣伝活動が必要だ。そうなれば広告費がかさんで利益を圧迫するだろう。

業績回復への険しい道のりを、リンガーハットはどうひっくり返していくのだろうか。

取材・文/不破聡

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