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公転周期113日、水星よりも太陽に近付く小惑星「2021 PH27」が発見される

sorae.jp / 2021年8月25日 21時45分

小惑星「2021 PH27」(右上)を描いた想像図。小惑星の左下にあるのは水星(Credit: CTIO/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva (Spaceengine))

【▲ 小惑星「2021 PH27」(右上)を描いた想像図。小惑星の左下にあるのは水星(Credit: CTIO/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva (Spaceengine))】

米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)は、地球の公転軌道よりも内側で太陽を周回する小惑星「2021 PH27」が見つかったことを発表しました。2021 PH27は直径約1kmで、公転周期は既知の小惑星としては最短の113日とされています。

■太陽最接近時の距離は約2000万km、表面温度は摂氏約500度

2021 PH27は現地時間2021年8月13日、チリのセロ・トロロ汎米天文台にある「ブランコ4m望遠鏡」の観測装置「ダークエネルギーカメラ(DECam)」によって撮影された画像をチェックしていた、カーネギー研究所のScott Sheppard氏によって発見されました。Sheppard氏がチェックした画像は、同日夕方にブラウン大学のIan Dell’Antonio氏とShenming Fu氏が撮影したものです。Sheppard氏らはもともとダークエネルギーカメラを使って近傍の銀河団107個を研究していましたが、太陽の近くを公転する未知の小惑星を捜索するため、日没前の時間を利用して今回の観測を行っていました。

Sheppard氏らの発見に続き、ハワイ大学のDavid Tholen氏は2021 PH27が翌日観測される位置を予測。8月15日までにチリのラスカンパナス天文台にある「マゼラン望遠鏡」やラス・クンブレス天文台グローバル望遠鏡ネットワークも観測に成功したことで、2021 PH27の軌道が判明しました。

ダークエネルギーカメラが撮影した2021 PH27。色は撮影日時を識別するために着色されたもので、青は日本時間2021年8月14日8時13分15秒、赤は同日8時16分9秒に撮影されたことを示す(Credit: CTIO/NOIRLab/NSF/DOE/DECam/AURA/S.S. Sheppard (Carnegie Institution of Science))

【▲ ダークエネルギーカメラが撮影した2021 PH27。色は撮影日時を識別するために着色されたもので、青は日本時間2021年8月14日8時13分15秒、赤は同日8時16分9秒に撮影されたことを示す(Credit: CTIO/NOIRLab/NSF/DOE/DECam/AURA/S.S. Sheppard (Carnegie Institution of Science))】

NOIRLabによると、2021 PH27は地球の公転軌道の内側で太陽を周回する「アティラ群」と呼ばれる小惑星のグループに属しており、軌道長半径(楕円形の公転軌道における長軸の半分の長さ)は0.46天文単位(約7000万km)、近日点距離(軌道上で太陽に最も近付く近日点における太陽までの距離)は0.13天文単位(約2000万km)です。Sheppard氏によると、最接近時の表面温度は摂氏約500度に達するとみられています。

なお、2021 PH27の発見に貢献したダークエネルギーカメラは、満月約14個分の広さ(3平方度)を一度に撮影できる巨大なデジタルカメラのような観測装置です(画素数は約520メガピクセル)。その名の通りダークエネルギー(暗黒エネルギー)の研究を主な目的として開発された装置ですが、ダークエネルギー研究のための観測が終了した後も運用が続けられています。

関連:推定直径100~200kmの巨大な彗星が見つかる、2031年に太陽へ最接近

■2021 PH27は太陽の重力の影響を水星よりも強く受けている 太陽を中心に小惑星2021 PH27と水星・金星・地球の公転軌道を示した図。発見時点での位置関係が再現されている(Credit: CTIO/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva (Spaceengine))

【▲ 太陽を中心に小惑星2021 PH27と水星・金星・地球の公転軌道を示した図。発見時点での位置関係が再現されている(Credit: CTIO/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva (Spaceengine))】

水星よりも太陽に近付く2021 PH27は、一般相対性理論で説明される効果を既知の太陽系の天体としては最も強く受けており、その影響は近日点移動に現れるといいます。近日点移動とは、太陽を公転する天体の公転軌道全体が、長い時間をかけて少しずつ回転しているように見える現象です。太陽以外を公転する天体の場合は近点移動と呼ばれ、たとえば天の川銀河の中心で超大質量ブラックホールとみられる天体「いて座A*(エースター)」を周回する恒星「S2」(S0-2)でも近点移動が観測されています。

関連:天の川銀河の中心にある恒星の動きから一般相対性理論の正しさを検証

地球の場合、近日点移動は主に木星など惑星の重力による影響で生じます。ところが、太陽に一番近い惑星である水星の近日点移動は他の惑星の影響だけでは説明ができず、かつては「さらに内側に存在する未発見の惑星による影響」とも考えられていました。しかし、20世紀に入って一般相対性理論が登場したことで、水星の近日点移動では太陽の重力がもたらす相対論的効果が強く現れていることが判明しています。太陽の重力が水星の近日点移動にもたらす影響は100年あたり43秒角ですが、NOIRLabによると、2021 PH27の場合は100年あたり約1分角(約60分の1度)とされています。

■数百万年後には惑星と衝突するか外側に放出される可能性

また、Sheppard氏によると、2021 PH27は最初から現在のような軌道で形成されたのではなく、火星と木星の間に広がる小惑星帯で誕生した後に、惑星の重力の影響を受けたことで現在の軌道まで移動したことが考えられるといいます。いっぽう、軌道傾斜角が32度と比較的大きいことから、太陽系の外縁部から飛来した彗星がいずれかの惑星に近付きすぎた結果、重力の影響を受けて現在の軌道を周回するようになった可能性もあるようです。

いずれにしても現在の2021 PH27の軌道は長期的に見れば不安定であり、数百万年後には水星、金星、あるいは太陽と衝突するか、惑星の影響を受けて外側に放り出されると予想されています。

地球から見た2021 PH27は間もなく太陽の裏側に回り込むため、再度観測できるのは2022年に入ってからとなります。今後の観測では2021 PH27の起源に光が当てられるとともに、2021 PH27を地球よりも太陽から遠いところを公転する他の小惑星と比較することで、太陽に近い極端な条件下で存続する小惑星を構成する物質や組成についての知識が得られることが期待されています。

 

Image Credit: CTIO/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva (Spaceengine)
Source: NOIRLab / カーネギー研究所
文/松村武宏

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