「打撃練習中にバットが飛んできた」巨人ルーキー時代の広岡達朗を襲った“プロの洗礼”とその理由
日刊SPA! / 2024年4月6日 15時50分
『92歳、広岡達朗の正体』が各書店で発売中
現役時には読売ジャイアンツで活躍、監督としてはヤクルトスワローズ、西武ライオンズをそれぞれリーグ優勝・日本一に導いた広岡達朗。彼の80年にも及ぶ球歴をつぶさに追い、同じ時代を生きた選手たちの証言や本人談をまとめた総ページ数400の大作『92歳、広岡達朗の正体』が発売直後に重版となるなど注目を集めている。
巨人では“野球の神様”と呼ばれた川上哲治と衝突し、巨人を追われた。監督時代は選手を厳しく律する姿勢から“嫌われ者”と揶揄されたこともあった。大木のように何者にも屈しない一本気の性格は、どこで、どのように形成されたのか。今なお彼を突き動かすものは何か。そして何より、我々野球ファンを惹きつける源泉は何か……。その球歴をつぶさに追い、今こそ広岡達朗という男の正体に迫る。
(以下、『92歳、広岡達朗の正体』より一部編集の上抜粋)
〜読売巨人軍編〜
◆第二期黄金時代を支えた巨人時代
一九五〇年代後半から七〇年代前半までの後楽園球場のホットコーナーは、カクテル光線以上のスポットライトが常に浴びせられ、白く浮かび上がる別次元の空間だった。
プレイボール前、ファーストの王貞治から投げられたゴロをショートの広岡達朗が軽快に捕球して一塁へ送球する。そこに、サードの長嶋茂雄がツカツカと二、三歩近寄ってくる。右手を軽く口に添え、こう告げる。
「ヒロさん、今日動けないんで頼みます!」
平然とした顔で、守備位置に戻っていく。
「おい、またかよ」
広岡は、苦笑いしながらショートの定位置の土をスパイクで均す。
「面白いやっちゃなぁ」
心のなかで静かにほくそ笑んだ。
〝背番号3〟はいつだって華やかで躍動感があり、守備位置での構えも軽いタッチでいる。
〝背番号2〟の広岡はこれぞ見本といった姿勢で、腰をしっかり落として低い状態のままつま先立ちで構えている。この相反する姿を見るだけで、野球人としての生き方が異なるのがわかる。
広岡が巨人に入団したのは、昭和二九年。戦争が終わってから九年後、戦争の爪痕はまだ残ってはいるが、壊滅状態からの危機は脱し、ようやく混乱期を抜けた感がある頃だ。
当時の巨人は第二期黄金世代と言われ、きらびやかなメンバーばかりが名を揃えていた。投手陣にはエースの別所毅彦、日本プロ野球初の完全試合達成者である藤本英雄、大友工、中尾碩史。キャッチャーには日系二世の広田順一、ファーストに川上哲治、セカンドに千葉繁、サードに宇野光雄、ショートに平井三郎。そしてレフトに岩本堯、センターに与那嶺要、ライトに南村侑好。さらに、監督には水原茂と、プロ野球黎明期のレジェンドがずらりと並ぶ布陣だ。
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