【内田雅也の追球】野球選手である前に…
スポニチアネックス / 2025年1月11日 8時1分
プロ野球の新人研修会が初めて行われたのは1962(昭和37)年だった。当時は新人研修講座といった。
第3代コミッショナー・内村祐之の発案だった。父はキリスト教思想家の内村鑑三、自身は精神科医だった。一高・東大で左腕投手として活躍した。『ドジャースの戦法』の訳者でもある。
ドラフト制度のない自由獲得競争の時代、札束にまみれて入団してくる新人選手を憂い、人間教育の必要性を感じていた。各界の有識者、著名人に講演を依頼した。
62~64年の研修内容をまとめた野口務編『プロ野球読本』(プレス東京)に当時の文部大臣・愛知揆一が序文を寄せている。<世人、なかでも青少年の注目の的である。教育の見地からいって、プレーヤー諸君の行動は影響が重大である>。<野球の神髄はフェア・プレイであり、真摯(しんし)敢闘の精神は人生の指針でもあろう>。
そんな歴史があるNPB新人研修会が10日、東京都内で開かれた。開講当初のテーマは今も貫かれている。
昨年の新人研修会でOB講師として招かれた藤川球児(当時阪神球団本部付スペシャルアシスタント、現監督)の講義を思い出す。「自分に打ち勝つ。必ず迷ったり、悩んだりすることがある。その時は迷わず前を向く」「誰よりも自分が長く活躍すると思い続けることが諦めない姿勢になる」など、プロ野球選手としての姿勢を諭した。
そして強調したのが「プロ野球選手である前に社会人であれ」だった。
現役時代から抱いていた思いである。2008年にNPBと日本プロ野球選手会が発行した『夢の向こうに』に記している。高校球児とのシンポジウムに合わせてつくられた小冊子だ。
<野球抜きにどれだけ立派なのかが問われます>として<世の中にはいろんな仕事があり、みんなプロとしてお金をもらっています。僕は野球選手より朝早く起きて会社に行く人の方が偉いと思っています>。野球を職業にする者として襟を正した。
いま、監督となっても恐らく同じ思いでいるだろう。時間を守る、靴をそろえる、あいさつをする、道具を大切にする、掃除をする……。人間としてのあり方を問う。
そんなことをして野球がうまくなるのか、という問いには「なる」と答えておく。 =敬称略= (編集委員)
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