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空手から学んだ強さと優しさの源 2027年世界大会に向けて歩む“極める道”【#青春のアザーカット】

THE ANSWER / 2024年4月3日 16時3分

第13回オープントーナメント全世界空手道選手権大会に日本代表として出場した西村くん【撮影:南しずか】

■連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常

 学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、コロナ禍を経験した世の中はどこか慎重で、思い切って全力まで振り切れない何かがある。

 便利だけどなぜか実感の沸かないオンライン。マスクを外したら誰だか分からない新しい友人たち。そんな密度の薄い時間を過ごした後、やっぱりリアルは楽しいと気付かせてくれたのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。

「今」に一生懸命取り組む学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。何よりも大切なものは、地道に練習や準備を重ねた、いつもと変わらない毎日。何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)


小学生の頃はまったく試合で勝てなかったが空手は大好きだった【撮影:南しずか】

■30頁目 国際空手道連盟極真会館 東京城北支部 中央大学3年・西村大河くん

 空手を始めたのは幼稚園の頃。以来、道場に通い続けること15年あまり。道場は「第2の家」とも呼べる場所になった。

 きっかけは、気弱で泣き虫な息子が少しでもしっかりすれば、という両親の願いだった。「本当に泣き虫で、年下の子にも言い返せないくらいでした」。西村くんは当時を思い出しながら、バツが悪そうに笑う。

「始める前は正直、怖いイメージがありました。でも、道場の雰囲気が良くて、すぐに行くのが楽しみになったんです。『よし、今日は空手の日だ!』って。小学生の頃はまったく試合で勝てなくて、地区の大会でようやく入賞できるくらいでした。同じ支部に強い選手がたくさんいたので、全然歯が立たない。強い選手に胸を借りるつもりで全力で向かっていっても、やっぱり勝てない。それがここまで続くなんて、自分でもビックリです(笑)」

 なかなか勝てない日が続いたが、それでも空手が楽しかった。道場には分支部長として取りまとめる相見秀樹先生を筆頭に、年配者から子どもまで幅広い年齢層の空手家が集まる。稽古は真剣そのもの。時にはきつく感じることもあるが、終われば年の差は気にせずに和気あいあい。「道場に一体感があるんです。練習ではライバルでも、終わったらみんな仲がいい。先輩も後輩もお互いのことをよく知っているので、気兼ねなく接することができる安心感があります」と絆を深めた。

 道場には文字通り、毎日通った。小学校から帰宅すると、すぐに道場へ出掛けて空手に打ち込む。再び家に戻るのは夜。「遊ぶ時間は少ないけれど、その分、空手に熱中できるのが楽しくて。道場には土曜日も行きましたし、春休みや夏休みになると朝から晩まで練習がある。家より道場にいる時間の方が長いくらいでした」。道場通いはあまりに自然に日常と化していた。


空手を通じて人間的に成長できたことを実感するという【撮影:南しずか】

■見失った空手を続ける理由「何のためにやっているのか…」

 それでも一度だけ、たった一度だけ、空手を辞めようと思ったことがある。中学2年生の頃、部活も遊びも充実させる友達の姿が、少し羨ましくなったという。

「学校を終えた後、長い時は4、5時間、夜まで空手をする。家に帰るのは10時過ぎで、そこから夕食をとって洗濯して。寝たら、もう朝、という生活がきつくなって、空手を辞めて部活に入りたいって言ったんです。幼稚園から何も考えずに空手を続けてきたので、何のためにやっているのかも分からなくなっていました」

 正直な思いを相見先生に伝えた。すると、こんな言葉が返ってきた。 

「なんで空手を続けているのか、その理由なんていらないんだよ。続けていけば、そこから先に見えるものがある。いいところまで来ているんだから頑張れ。新しく部活に入るより、自分が今まで積み上げてきたものの方が大きいんじゃないかな」

 先生の言葉を聞き、「確かにそうかもしれない」と思う自分がいた。考えてみれば、誰かに強制されて道場へ通っていたわけではない。道場の雰囲気や一緒に稽古する仲間たちが好きで、自然と毎日通うようになっていただけだ。「なんで空手を続けてきたのか再確認できたことが良かったと思います」と、再び空手と向き合うことにした。

 気分を新たに稽古に打ち込むと、まもなく結果が出るようなった。2017年の東日本空手道選手権大会では中学2・3年生男子(+55キロ級)で準優勝。2018年には第14回国際青少年空手道選手権大会の13・14歳男子(+55キロ級)で準優勝を飾った。

「自分にとってターニングポイントになりましたね。もちろん辞めなくて良かったんですけど、辞めたいと思った時期も大切だったなって」


西村くんは空手を通じて多くの学びを得たと話す【撮影:南しずか】

■空手から学んだ大事な教え「他人のことを考える」

 大会で好成績を収めるようになっても、そこで満足することはなかった。自分の学年や年齢では強い方でも、道場に行けば熟練の先輩たちに軽くあしらわれてしまう。「近くに『まだあの人には追いつけない』と思える先輩がたくさんいるので、強くなりたいと思い続けることができた。末っ子で甘えてしまう自分の性格をよく知っている先生や先輩方に引っ張ってもらって、ここまで来られた感じです(笑)」。“第2の家”でもある道場で出会う人々は、いつしか“第2の家族”になっていた。

 礼儀作法はもちろんのこと、年長者に対する敬意や年少者に対する思いやりなど、空手を通じて得た学びは大きい。その中でも西村くんが大切にしているのが「他人のことを考える」ことだという。

「組手で戦う時であれば、自分勝手に攻撃しても意味がない。相手の強さや弱点を感じ取りながら戦う必要があります。指導員として子どもたちと接する時も、子どもの気持ちを考えながら指導しないとズレが生まれて、子どもが辛くなってしまう。他人のことを考える力は空手で身に付きました」

 強さの源でもあり、優しさの源にもなる。「他人のことを考える」という教えは、なかなか奥深い。


大学と空手の両立は「なかなか大変」というがどちらも手は抜かない【撮影:南しずか】

■リザーブ選手から一転、世界大会に正式出場「このままでは終わりたくない」

 大学2年生となった2023年11月、西村くんは第13回オープントーナメント全世界空手道選手権大会に日本代表として出場した。米国、フランス、ブラジル、ロシアなど世界各国の猛者たちが一堂に会し、世界最強を決める4年に一度のビッグイベント。日本代表最年少選手として立った檜舞台では、4回戦でフランスの強豪トゥセウ・アントニオに敗れて準々決勝進出を逃した。

 当初はリザーブ選手だったが一転、大会2か月前に正式出場が決まった。6月に開催された2023全日本体重別空手道選手権大会では男子軽量級で4位。結果も内容も「自分が求めていたものではなかった」と、自分の組手の戦い方を見つめ直しながら練習を重ねる中で飛び込んできた朗報だった。「そこからギアを上げて」臨んだ世界大会は「もちろん悔しい結果でしたけど、本当にいい経験になりました」と清々しい表情で話す。

「世界の強豪選手と並ぶと体の厚みが2倍くらい違う。これは対戦したら負けるよな、と自分の足りない部分がよく分かりました。逆に、3回戦までは勝ったので、通用する部分もあったと思うんです。一番は6月から約5か月、自分の組手と向き合えたことがプラスになった。その過程では、これをこうすればこうなる、という気付きが楽しくて、今後に繋がるいい時間になったと思います」

 現在、大学では情報系学科で学んでいるが、卒業後は就職せずに空手を極める道に進もうと考えている。2027年に予定される次期世界大会に向けて、今回の経験を生かしながら4年をかけて仕上げていくつもりだ。「このままでは終わりたくないので。今回の世界大会を目指す過程は本当にいい経験になった。これを成長のターニングポイントとできるかどうか、それは自分次第ですよね」。


相見先生の話になると自然と表情が柔らかくなる【撮影:南しずか】

■「この人ならついていきたい」と思える“師”の存在

 空手の道に進もうと思う理由はもう一つある。「空手のない生活が考えられないんです。どうなっちゃうんだ?って」と茶目っ気たっぷりに笑うが、心のどこかでは自分を人間的に成長させてくれた道場に恩返しをしたい気持ちもありそうだ。理想の空手家像について質問すると、こんな答えが返ってきた。

「道場に入った時から教えていただいている相見先生は、自分の憧れであり目標です。利益よりも生徒のことを第一に考えて、生徒目線になって親身に指導して下さる方。厳しい時もありますが、この人ならついていきたいと思える。だからこそ、道場に活気があって、みんな通い続けているんだと思います。自分が理想とする空手家像はやっぱり、相見先生です」

 強さと優しさ、そして懐の深さを持った空手家を目指し、西村くんは歩み続ける。(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)

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