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「はい論破!」で損をする人が知らない議論の極意 話し合いがいつも「水掛け論」に陥る根本原因

東洋経済オンライン / 2023年11月29日 15時0分

「ソクラテスより知恵がある者は、誰もいない」

私ならこう言われると、つい喜んで舞い上がるところだが、それを聞いたソクラテスはマジメに考え込んでしまった。

「俺に知恵なんてないんだが。でも神様がうそつくわけないよな。これは神様の謎かけなんじゃないかな」

ソクラテスはさっそく、検証することにした。自分より知恵がある人物を見つければ「神様、それ、間違いですよ」と言える。そこでソクラテスは、アテナイの「自分は知識も知恵もある」という知識人たちをつかまえては、問答を繰り返してみた。しかし驚いたことに、知識人は誰ひとりキチンと質問に答えられず、最後には言葉に詰まってしまう。こうしてソクラテスは気がついた。

「知識人だって言っているけれど、誰一人ちゃんと答えられないんだなぁ。知らないのに知っていると言う人よりも、『俺は知らない』と自覚するだけマシなのか」

しかし恥をかかされた知識人たちはソクラテスを逆恨みするようになった。一方で若者は「知識人は偉そうだけど、大したことないぞ」と考えてソクラテスの真似を始めた。結果、ソクラテスは「若者を堕落させた」として裁判で訴えられた。

その裁判の一部始終を弟子のプラトンが書いたのが、本書「ソクラテスの弁明」である。

ソクラテスの問答法

本書に、ソクラテスを告発したメレトスとの裁判での対話が掲載されているので紹介しよう。(注:原文をくだけた調子に変えたうえで一部を省略している)

メレトス「ソクラテスは若者を堕落させている。だから私は訴えた!」
ソクラテス「そうか。君は若い人が良くなることが大事というんだね」
メ「むろん、そうだ」
ソ「教えてくれ。誰が彼らをよくするんだろう?」
メ「………。法律だ」
ソ「そんな事聞いてない。『どの人間が』と聞いているんだ」
メ「ここにいる裁判員の皆さんだ」
ソ「それは、裁判員の全員かな。それとも一部かな?」
メ「全員だ。傍聴している人々も、区会議員たちもだ」
ソ「若者には沢山の助っ人がいるってことだな。私を除いて」
メ「まったく、私はそのとおりのことを主張している」
ソ「他の人々が助けるなら、私一人が堕落させても問題ないのではないか?」

これが典型的なソクラテスの問答法だ。相手に徹底的に語らせたうえで、その矛盾点を指摘するのである。そして、より深い議論につなげているのだ。それは相手にとっても気づきが多いはずだ。

メレトスとのソクラテスの問答は一見、揚げ足取りに見えるかもしれないが、彼の真意は違う。ソクラテスは相手を茶化しているのではない。真剣なのだ。

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