「はい論破!」で損をする人が知らない議論の極意 話し合いがいつも「水掛け論」に陥る根本原因
東洋経済オンライン / 2023年11月29日 15時0分
ソクラテスの考えの根っ子にあるのは「自分は知らないという自覚」だ。彼はこの自覚を出発点に、本当に自分が知っているのか否かを、他者との対話を通じて謙虚に吟味し、検証し続けている。
玉川大学名誉教授の岡本裕一朗氏は著書『教養として学んでおきたい哲学』(マイナビ新書)で、こう述べている。
「よく言われるところのソクラテスのちゃぶ台返しは、正面から相手を否定するのではなく、相手にトコトン語らせた後、相手の中の自己矛盾を指摘して、最終的にひっくり返すというもので、実はこれが〝問答法〞の一番基本となるスタイルになるのです。(中略)日本人の議論があまりうまく行かない理由は、お互いに論点が異なっているのにもかかわらず、自分の主張のみをぶつけ続けるからであり、それゆえ、相手を的確に批判することができないのです」
国会答弁を見ていても、与野党の議論はすれ違い、自分の主張の繰り返し。相手の主張の矛盾を突く議員は少数で、的確に相手を批判できない。国民を代表する知識人であるべき国会議員にしてこのありさまだ。
主張をぶつけ合うのは議論ではない。主張を聞き届け、互いの矛盾点を指摘し合うのが、本来の議論だ。たとえば「はい、論破」と言われたお母さんだと、こうなる。
息子「はい、論破」
母親「なんで『はい、論破』って言うの?」
息子「学校で流行ってるんだよ。みんな言ってるよ」
母親「そうなのね。『はい、論破』って言われたら、あなたどう思う?」
息子「うーん。ホントは、何かイヤーな感じがするんだよね」
母親「なんでイヤな感じがするのかな?」
息子「何かバカにされている感じがするんだよね……」
この場合、母親は息子に質問を投げかけて、彼の考えを理解しようとしている。この結果、対話が深まり、息子は「論破するとバカにされてイヤな感じがするのかも……」という新たな知を発見している。これはソクラテスの問答法を実践した例だ。
このように「自分は知らない」ことを自覚して、謙虚に問い続けて、学び続ける姿勢がソクラテスの問答法なのだ。ビジネスも同じだ。
上司「A社案件、失注したね。理由はなんでだろう?」
部下「実は受注したライバルは、お客さんの要望なんて聞いてないんですよ」
上司「へぇ。要望を聞いていないのに何で受注したのかな?」
部下「お客さんが気づいていない課題を指摘することに、お客さんが満足して決めたんです」
上司「そんなやり方があるのか。ウチはどうすればいいんだろう?」
部下「うーん。私たちの営業のやり方、見直す必要があるかもしれませんね」
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