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寄付額1兆円突破「ふるさと納税」大衆化の危うさ 上位10%の自治体が"寡占状態"で広がる格差

東洋経済オンライン / 2023年12月30日 7時0分

ふるさと納税の人気は肉や海産物、果物などに偏る傾向がある(記者撮影)

「ふるさと納税をやめよう」

【1兆円突破が間近】右肩上がりで寄付額を増やしてきたふるさと納税

そんなテレビCMが12月26日に放映された。広告主は、ふるさと納税ポータルサイトの大手「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンク。CMでは「ふるさと納税をやめよう。なんて言いたくない」「ふるさとを応援する意義を伝えたい。ふるさと納税を考えよう」などと発信した。

最古参で最大手だったふるさとチョイスだが、サイト間の熾烈な競争に直面し、シェアを落としている。寄付の申し込みが集中する年末の時期を狙い、あえて意見広告を出すこととした。

「そもそも税金を使ったビジネス。節度を守って運営したい」と静観してきたが、最近は決済事業者と提携したポイント還元もしており、今年はテレビCMも解禁することになった。

マス層まで広がったふるさと納税

制度創設から15年が経ったふるさと納税は右肩上がりに拡大を続け、2023年度は寄付総額が初めて1兆円を突破することが確実視されている。これまで何度か制度の微修正はあったものの、根本の問題が残ったまま普及してきた。

ふるさと納税は当初、もっぱら高所得者が利用する制度だった。所得水準にかかわらず、一律住民税の20%(2015年度までは10%)まで税額控除される仕組みのため、高所得者ほど受けられる恩恵が大きくなるからだ。

しかし最近は、制度の存在を知らない人がほぼいないほど浸透した。2013年度は1件あたりの平均金額は3万4000円ほどだったが、直近の2022年度は1万8000円ほどまで下がっている。小口の利用が増えたのは、ふるさと納税の裾野がマス層まで広がったためだ。

最近では「訳あり品」と称してお得感をアピールしたり、ティッシュペーパーなどの生活必需品で寄付を集めたりと、生活防衛に敏感なユーザー層への訴求が目立つ。「寄付」「地方創生」を掲げるが、本来ならば住民税として公共のために使われるお金を、返礼品に変えているのが実態だ。

多くの自治体は返礼品競争に熱を上げ、ポータルサイトは自社サイト名を連呼するだけのようなCMや、過度なポイント還元施策でシェア争いを繰り広げている。こうした「ふるさと納税商戦」が、年の瀬の風物詩としてすっかり定着してしまった。

このままでは、制度の存続そのものが危うくなる可能性もある。いちばんの主役である地方自治体の悩みも深まるばかりだ。

理念では人気の返礼品には勝てない

京都府宇治田原町は、人口8000人余りの小さな町だ。大きな茶畑や、茶葉を販売する小売店があり、緑茶発祥の地として知られる。2005年をピークに人口減少が続いており、「20〜30年後には、いくつかの集落が限界を迎え、遠い将来には消滅するかもしれない」と、企画財政課ふるさと応援推進係長の勝谷聡一氏は危機感を募らせる。

宇治田原町では、ふるさと納税で集めた資金の使い道を「未来挑戦隊『チャレンジャー』育成プロジェクト」と称する子どもの教育に一本化している。勝谷氏は「大人たちが真剣に子どもたちの将来を考えている姿勢を見せることが肝心」と話す。

唯一の公立中学校では、地元の製茶場などによる商品開発の授業を毎年行っている。中学生の発案したアイデアを実際に商品化し、返礼品として提供している。

同町に住む西出孝さん、淳子さん夫妻の家では、3姉妹の長女が就職を機に町外へ転出した。淳子さんは「(長女が)今後町に戻って近くに住んでくれたらうれしい。町の子育て支援の充実は、その後押しになる」と期待を寄せる。最近では、小学校の教員から「こんな事業をチャレンジャー事業でやってもらえないか」と提案されることも出てきた。

勝谷氏は「使い道で勝負するのは正論だが、(返礼品で勝負する自治体に)勝ち筋を見出すのは難しい」とも明かす。同町が2022年度に集めたふるさと納税の金額は2億0815万円。5年間で約10倍へ増加したが、全国1738自治体の中では796番目にとどまる。

宇治田原町には海や牧場がなく、返礼品として人気化しやすい海産物や肉を扱っていないこともあり、ポータルサイトのランキングなどでは埋もれてしまう。

住民税の獲得をめぐる「自治体間の自由競争」のように見えるが、自治体によって特産品や産業立地は大きく異なり、そもそもスタート地点が公平ではないという声は多い。「特産品づくりや産業誘致も含めて、自治体の創意工夫次第」とする意見もあるが、納税者のお得志向が強まる中、返礼品ばかりが寄付の決定要因になっていることは長らく問題視されてきた。

にもかかわらず自治体職員の多くは「金額をたくさん集めた自治体がえらい風潮」(ポータルサイト担当者)という考えに苛まれている。どんなに理念を掲げて寄付を募っても、ユーザーはお得な返礼品にばかり目が向いてしまう。

上位の自治体は固定化

激化する返礼品の人気投票によって、「持てる自治体」と「持たざる自治体」の格差は開く一方だ。

2022年度、ふるさと納税受け入れ額上位1%の18自治体が全体に占める金額シェアは18.9%、上位10%のシェアは57.9%にも上った。直近3年間で、上位自治体による寡占度合いも強まっている。しかも、最上位の自治体の顔ぶれは固定化されつつあり、自治体間の格差は累積している。

都市部から地方への税収の移転が目的の1つだが、実際は一部の勝ち組自治体ばかりが潤う構図となっている。最近では、住民税の流出に耐えかねた都市部の自治体も返礼品を強化し始めており、京都市や名古屋市といった大都市も上位1%に名を連ねる。

人口減少が続く地方の自治体であっても、住民税の流出過多となっているところもある。ふるさと納税受け入れ額から返礼品や配送料などの経費を差し引き、自身の自治体から流出した住民税控除額を加味すると、2022年度は488自治体がマイナスになった。そこには奈良県田原本町や、愛媛県松前町など大都市圏でない自治体も含まれる。

この制度には「正直者がばかを見る」インセンティブが働く。人気の返礼品をそろえて金額を集める自治体に、ふるさと納税の大半は持っていかれてしまう。ふるさと納税を利用しない人も、利用する人がほかの自治体に住民税を流出させることで、自らの町の財源が減少する。

本来、居住地の行政サービスに使われるべきお金が、ポータルサイトのテレビCMやポイント還元、物流費、返礼品を生産する事業者などに、膨大なコストと手間をかけて分配されているのが現在の姿だ。

自治体が自由に使える貴重な財源

問題を抱えたまま大衆化したふるさと納税は、さらなる制度の改良が欠かせない。現場の自治体職員やポータルサイト関係者からもさまざまなアイデアが浮上している。

現在は「とりあえず寄付を集めればいい」という姿勢で、使い道を指定しない「市長におまかせ」といった選択肢を設ける自治体も少なくない。目標金額付きのプロジェクトを先に決め、クラウドファンディングのような形で、その後に返礼品を受け取れるやり方もあるだろう。生まれ育った自治体や、住んだことのある自治体への寄付に対し、インセンティブを設けることも考えられる。

住民税の流出が深刻になっている東京都の特別区長会が主張するように、所得に応じて控除割合を下げることや、現在寄付額の3割までとなっている返礼品の割合を下げて、自治体に残るお金を増やすことなども、過熱する制度を落ち着かせるためには必要かもしれない。

多くの自治体では、住民税や法人税など既存の財源だけで自治体の基本的な運営にかかるコストを賄えず、財政需要に足りない分は国から地方交付税の交付を受けている。税収を増やしたところで地方交付税が減ることになるので、税収を増やすインセンティブに乏しい。

それに対してふるさと納税は、手取り収入分をそのまま自治体が独自の政策に使うことができる。利用する側にとっても、税金の使い道を選べる世界でも珍しい施策だ。問題は多いが、15年かけて普及してきた制度である。活用方法を改めて議論する必要がありそうだ。

佐々木 亮祐:東洋経済 記者

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