株価が暴落するかしないかは大した問題じゃない バブルで何を失ってしまったのか
東洋経済オンライン / 2024年3月9日 8時30分
これにより、新時代のビジネスモデルを確立すること、あるいは、新しいビジネスモデルのためのアイデアの準備、そのための試行錯誤の投資を怠ったのである。これが「失われた30年」の根本的な原因である。
だから、安売りをしたり、昔の高度成長期のひたすらコスト削減で競争力の回復を図るという単純なモデルへ逆戻りするしか、生き残る道がなくなったのが2000年代であったのだ。
先に飛んでしまったが、1990年代が失われたのは言わずもがなである。ひたすらリストラを行った10年間であった。銀行危機、金融危機があったから仕方がなかったが、しかし、その原因はバブル期にあった。いわゆる「3つの余剰」、余剰人員(高すぎる中高年の正社員の賃金)、余剰設備、そして余剰な資産(肥大したバランスシート)である。
これらの処理、リストラ、スリム化に終始したのが1990年代であった。処理したのは不良債権だけではない。むしろ、不良資産と呼ぶべき余剰があらゆるところにあった。処理に終始して1990年代は終わった。
そして、2000年代は、いよいよ新しい時代、まさに21世紀、新しいビジネスモデルでバンバン稼ぐときがやってきたはずだった。だが、これもバブルのせいで不可能になっていた。
なぜなら、1980年代はビジネスモデルの知恵への投資をせず、1990年代は後ろ向きの処理に終始したために、既存の大企業においては、2000年代になってふと気づいてみると、社会に前向きにアイデアを出し合い、工夫して新しいビジネスモデルで儲けるという経験のある社員が誰もいなくなっていたのだ。
これは官僚にもいえる。官僚とは国のデザインを法律により行う人々だが、実際に知恵を絞って社会、国のシステムをデザインしたのは、主に昭和20年代あるいは30年代までだった。バブルが終わってみると、新しい社会をデザインしたことのある経験者の官僚が全員引退していた。
そもそも、そういうスピリッツも失われていた。制度は維持するものであり、政治や社会の弱者のふりをしたクレーマー(個人、企業を問わず)に対する抵抗をすることが、彼らにとっての唯一の社会的正義となっていた(今では、その正義も「官邸主導」により失われたが)。つまり、社会システムを試行錯誤してデザインしていく担い手が、この世から消えているのである。これが日本の最大の問題だ。
これは民間企業でもまったく同じ構図だ。現状維持により利益を回復するには、コスト削減、あるいは円安による輸出のバーゲンセールしかなかった。この結果、2000年代前半の小泉政権時代の「実感なき景気回復」、つまり雇用も生産も輸出も増えたが、安売りをしただけで収入は増えず、円安、資源高、食料高により実質的に貧しくなった2000年代日本経済だったのである。それが今も続いているといえる。
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