香港政府が「住宅投機の抑制措置」を撤廃した事情 特別印紙税の徴収やめ、不動産市場をテコ入れ
東洋経済オンライン / 2024年3月14日 15時0分
低迷する不動産市場の活性化を図ろうと、香港政府が思い切った措置を打ち出した。不動産投機を抑制するために過去に導入した特別印紙税の全廃に踏み切ったのだ。
【写真】香港での住宅投資は、賃料から得られる物件利回りが住宅ローン金利を下回る「逆ザヤ」状態になっている(写真はイメージ)
2月28日、香港政府の陳茂波(ポール・チャン)財政長官が、2024年度の予算案説明のなかで明らかにした。具体的には、住宅取引にかかわる「追加印紙税」「買主印紙税」「新住宅印紙税」の徴収をやめる。
3つの特別印紙税は2010年からの不動産高騰をきっかけに相次ぎ導入され、不動産投資家の間で「辣招」(訳注:香港で話される広東語で「厳しい強制措置」を意味する)と呼ばれていた。
短期転売などを事実上解禁
これらのうち追加印紙税は、住宅の短期転売を抑えるのが目的だった。住宅購入者が契約から6カ月以内に物件を転売した場合には転売価格の20%が、6カ月から1年以内は15%が、1年から2年以内は10%がそれぞれ課せられていた。
買主印紙税は(中国本土の住民や外国人など)香港の永住権を持たない個人が住宅を購入する場合や、法人名義で購入する場合が対象だった。新住宅印紙税は、香港で初めて住宅を購入する場合を除くすべての買い主に課税された。
なお、買主印紙税と新住宅印紙税の税率は2023年に15%から7.5%に引き下げられていた。
「香港政府は住宅市況の動向に一貫して注意を払っている。『辣招』の全廃は、目下の全体的な状況を慎重に考慮したうえでのことだ」。陳長官は、今回の決定の背景についてそう述べた。
陳長官の言う「全体的な状況」とは、香港の不動産市況の長引く低迷にほかならない。香港政府が2月27日に発表した1月の個人向け中古住宅の販売価格指数は9カ月連続で下落。過去最高をつけた2021年9月から2割以上落ち込んでいる。
香港政府は、以前は財政収入の約2割を公有地の払い下げによる収入から得ていた。しかし市況の悪化と金利の高止まりにより、2023年に競売にかけた土地の多くは(予想価格を大きく下回る)安値での売却を迫られた。その結果、香港政府の2023年4月から12月までの土地売却収入は123億香港ドル(約2364億円)と、計画のわずか14.5%にとどまっている。
効果は短命との見方も
不動産投資家の立場では、特別印紙税の全廃は間違いなく朗報だ。とはいえ市場関係者の間には、その作用は香港政府が期待するほど大きくないと見る向きもある。
例えば、投資銀行大手のUBSは調査レポートのなかで、「特別印紙税の全廃は中国本土の投資家の関心を引く可能性があるものの、効果は長続きしないだろう」と指摘した。
その理由の1つは、現在の賃料水準から得られる物件利回りが住宅ローン金利よりも低い「逆ザヤ」状態にあることだ。さらに住宅の新規供給量などを加味すると、香港の住宅に対する投資需要は「今後も低迷が続く」と、UBSは予想している。
(財新 駐香港記者:文思敏)
※原文の配信は2月28日
財新 Biz&Tech
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