Z世代が囚われる「第三者目線」という強迫観念 メリットなき個人行動の「コンプライアンス化」
東洋経済オンライン / 2024年6月27日 11時0分
だから少しベタですけど、みんな自分なりの自己判断基準を失っていると感じます。映画監督の是枝裕和さんが、早稲田大学の入学式で「自分だけのお気に入りの城を作った方がいい」と祝辞を述べていましたが、本当にそのとおりで。
與那覇:いろんな人や場所とのつきあいを試して、いちばんしっくり来るところを「城」にすればいいのに、そうした試行錯誤を許さない社会になっていますよね。
舟津:まさに。
與那覇:思い出すのは平成の半ば、2000年代の前半に「ゼロトレランス」(寛容さをゼロに)が日本でも唱えられた時期のことです。総数で言えば青少年の犯罪は減っていたにもかかわらず、ショッキングな事件の報道が続いたことを契機に、「もっと厳罰化を。未成年でも死刑に!」といった空気が高まりました。
アメリカでは「校則違反は一発で退学。言い訳は一切聞かない」とするゼロトレランスの政策が、秩序の回復に成果を上げたとされて、「じゃあ日本でも」という声が出てきた。しかし欧米のゼロトレランスは、事前に守るべきルールを明示してサインさせた上で、「これを破ったらアウトだよ」と互いに約束するわけです。
ところが日本では、何がルールなのかが曖昧なままゼロトレランスを導入し、「ここまで炎上したからには、きっとそれだけ悪いんだろう」といった後出しじゃんけんで処分が決まってしまう。
與那覇:平成期にゼロトレランスを唱えたのは「自由や人権より、規律と秩序」を優先する保守派でしたが、令和に入ると彼らを批判していたはずのリベラル派まで、キャンセルカルチャーの形でゼロトレランスを振り回すようになった。一度でも失言したやつには、二度とチャンスをやるなという発想です。結果として「基準なしのゼロトレランスは危険だ」と、警鐘を鳴らす人がいなくなってしまった。
舟津:基準のなさとそれに対する結果の厳しさとのギャップは本当に怖いですね。若者もそれを恐れていると思います。何をしたらダメなのかがわからないからです。
與那覇:確かに友達間の「ハブり」は、原理的に基準がないですからね。この条件を満たすものが友達だ、のようにサインして友達を始めるわけではないですから。
舟津:就活も同じで、基準が曖昧です。ペーパー入試は基準が比較的に明確なのに対して、就活では何が条件で合格するのかわからない。ゲームのルールが明示されないままゲームに参加させられる感じです。就活ではまさに、明確な基準を示されないまま不採用、つまり一発退場させられる。
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