地方私鉄と「台北メトロ」友好協定の本当の狙い 「知られざる観光地」求める訪日客取り込めるか
東洋経済オンライン / 2024年9月7日 7時0分
この背景には、台湾側からしても台湾の人々にまだ知られていない、日本の地方の観光地を知ってもらいたいという思惑がある。東京や大阪の有名な観光地は何度も訪れ、もう知り尽くしてしまっている人も多い。表向きには相互送客というのが友好協定の理由付けであるが、実は台北メトロ側としても、日本により多くの観光客を送り出したいという思いがある。
台湾から日本へのインバウンド旅行者に対し、日本から台湾へのアウトバウンドが圧倒的に少ないという根本的問題は、過去にも取り上げられているが、昨今の日本人の海外旅行離れからして、これを均衡化するのはかなり難しい。
隠居部長によれば、「将来的には台北メトロとして、台湾から日本に送客する事業をやりたいという希望があるようだと聞いている」とのことで、台北メトロによる日本のプロモーションは今後、一層強化されるかもしれない。だからこそ、今の段階から地方の鉄道事業者と連携し、観光資源を発掘することに力を入れているわけだ。
協定に基づき、台北メトロの駅のデジタルサイネージを用いて、アルピコ交通および長野電鉄沿線観光地のPRが始まっているが、今後は日本側でも台湾の観光PRが展開される予定だ。
アルピコ交通といえば、松本駅―新島々駅を結ぶ鉄道(上高地線)よりも、東京、名古屋、大阪の三大都市圏と長野県各地を結ぶ高速バスのほうが馴染みのある人が多いかもしれない。白い車体に「Highland Express」のロゴとレインボーカラーのバスは一度は見たことがあるという人が多いのではないだろうか。
この高速バスをサイネージに活用すれば、より多くの日本の人々に台湾の観光地を知ってもらう機会になりそうだが、今回の協定は、あくまでも鉄道事業に限ったものだそうだ。よって、台湾のPRは上高地線の駅や車内に限られることになる。
それでもなお、台北メトロ側からのプロポーズで友好協定を結んでいるというのは、日本の地方の観光地を台湾の人々に知ってもらいたいとする、台湾側の並々ならぬ熱意を感じる。
地方鉄道の利用支える「訪日観光客」
地方の公共交通需要が先細りする中、インバウンド観光客の獲得は非常に重要だ。上高地線の利用者数は長らく微減を続けていたが、2010年を境に増加に転じた。地域利用者の増加もあるが、国内外問わず観光客の存在も大きい。2023年現在の利用者数は、コロナ前(2019年)に比べてまだ低い水準であるが、定期外のみを見ると、すでにコロナ前を大きく上回っている。
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