米国大統領が「日本製鉄」をこうも目の敵にする訳 人気取りは、時に自国民の利益よりも優先される
東洋経済オンライン / 2025年1月11日 8時50分
アメリカのジョー・バイデン大統領が日本製鉄によるアメリカの大手鉄鋼メーカーのUSスチールの買収を禁止する行政命令を発表し、大きな騒動に発展している。
【画像】やがてクビに?日鉄による買収に賛成するUSスチールの労働者たち
日鉄とUSからスチールは反発強める
日本製鉄とUSスチールは、今回の命令を「実質的な調査に基づかず、バイデン政権の政治的目的を満たすためにあらかじめ決定されたもの」とし、「アメリカ政府が、アメリカの利益につながる競争を活性化する本買収を拒否し、同盟国である日本国をこのように扱うことは衝撃的であり、非常に憂慮すべきこと」とする共同声明を発表。
USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEО)は、大統領の判断は「恥ずべきもので、腐敗している」などとコメントした。
両社は1月6日、日本製鉄によるUSスチールの買収計画を阻止したとしてアメリカ政府を提訴。バイデン大統領が「全米鉄鋼労働組合の支持を得て、自身の政治的目的を達成するために法の支配を無視したこと」などを訴訟で明らかにするという。
石破茂首相は、「なぜ安全保障上の懸念があるのか」と述べ、アメリカ政府に強く説明を求めるなど、日米関係に小さくない亀裂を生じさせる出来事となった。
重要なのは多くの国民が感情的に納得できるかどうか
これらの買収計画をめぐる一連の動きは、ウォール・ストリート・ジャーナルが「アメリカの製造業と安全保障を損なう経済的な自虐行為だ」と批判したように、行き過ぎた保護主義の産物といえるものであり、まさに産業政策が「政争の具」にされる事態といえるだろう。
ポピュリズムの観点から見れば、また違った風景が見えてくる。政治家が人気取りのために「実益」よりも「世情」を優先する志向の先鋭化である。
合理的に考えてどのような利益や損失があるかどうかを見極めることなどよりも、多くの国民が感情的に納得できるかどうかのほうが重要になるからだ。
これは理屈ではない。道徳心理学者のジョナサン・ハイトが提唱する道徳基盤理論が分析の助けになる。彼は『社会はなぜ左と右にわかれるのか 対立を超えるための道徳心理学』(高橋洋訳、紀伊國屋書店)で、人間の道徳心は6つの道徳基盤によって構成されていると説いた。
「ケア」「公正」「自由」「忠誠」「権威」「神聖」だ。それぞれが進化の過程で獲得された認知モジュール(脳内にある小さなスイッチのようなもの)で、さまざまな文化ごとにその内容は異なっているという。
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