ハリルホジッチ監督の電撃解任 その理由を探る

2018年4月17日更新

4月9日未明に伝えられた日本サッカー協会によるハリルホジッチ監督の電撃解任。ワールドカップ(W杯)まであと2カ月というタイミングでの解任と新監督就任はなぜ行われたのか。多数の報道の中から、ハリル監督解任の理由を探ります。

突然の解任劇 未明の報道からJFAの発表まで

4月9日未明 ハリルホジッチ監督解任が報じられる

未明に報じられた監督解任

4月9日未明、デイリースポーツがサッカー日本代表のハリルホジッチ監督電撃解任を報じた。

最速で報じたのはデイリースポーツ。その後、4月9日のスポーツ紙各紙が一面でこのビッグニュースを伝えました。

同日16時 日本サッカー協会(JFA)の田嶋会長が会見

日本サッカー協会の田嶋幸三会長が9日、都内で記者会見を行い、日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督との契約を4月7日付けで解除したことを発表した。後任として西野朗技術委員長が代表チームの指揮を執ることも合わせて発表された。

新監督に選ばれた西野朗氏の契約はW杯まで。プロフィールや戦績は後述します。

4月7日に伝えられた契約解除 ハリル氏は激高

田嶋会長は7日(日本時間8日)にパリ市内のホテルでハリルホジッチ氏と面会し、契約解除を伝えた。その際、報酬支払いに関する事項も盛り込まれた契約書を渡そうとしたが、ヒートアップしたハリルホジッチ氏は受け取りを拒否。「彼も売り言葉に買い言葉の状態だった」とその場で前監督の怒りを静めることはできず、今後、改めて契約書を郵送することを明かした。

ハリル氏は4月中に来日して会見へ

日本代表監督を電撃解任されたバヒド・ハリルホジッチ氏(65)が今月中に来日して会見を開く見通しとなった。「コミュニケーション不足」「信頼関係の喪失」を理由に更迭されたことに憤慨。
セルビアメディアでは訴訟を検討していることも報じられているが、日本協会は「引き続き誠意を持って対応していきます」としている。

W杯出場決定後の監督交代は日本サッカー史上初の出来事であり、日本のみならず海外でもさまざまな報道がされています。W杯まであと2カ月というこの時期にハリル監督が更迭されたのはなぜなのでしょうか。ハリルジャパンの戦績などを振り返りながら、解任の理由について探っていきます。

日本代表監督就任後の戦績と目指したサッカー

アギーレ監督解任後に監督就任

2015年3月に就任 就任も電撃だった

八百長疑惑の渦中にあったハビエル・アギーレ監督(59)が電撃的に解任された後を受ける形で、ハリルホジッチ前監督は2015年3月に急きょ就任。準備不足のなかでワールドカップ・アジア予選を苦戦しながらも勝ち抜き、日本代表を6大会連続6度目のヒノキ舞台へと導いた。

日本人と体格が似ているメキシコ代表監督として結果を出していたアギーレ監督のもと、メキシコ流のサッカーを目指していた日本代表。そのアギーレ監督が就任半年でスペインでの八百長関与の疑惑によって解任され、白羽の矢を立てられたのがハリルホジッチ氏でした。

ハリルホジッチ氏のプロフィール

1952年5月15日、ボスニア・ヘルツェゴビナ生まれ。65歳。旧ユーゴスラビア代表FWで82年スペインW杯出場。82~83年、84~85年にフランス1部ナントで得点王に輝き87年に現役引退。97年ラジャ・カサブランカ(モロッコ)の監督に就任し、アフリカクラブ王者。2008~10年にコートジボワール代表監督。11年からアルジェリア代表を率いて14年ブラジルW杯で同国初の16強。同年7月にトルコ・トラブゾンスポルの監督に就任し同11月に退団。15年3月に日本代表監督就任。

日本代表監督就任後の戦績

ハリルホジッチ監督は15年3月に就任。昨年8月31日にはW杯アジア最終予選オーストラリア戦でW杯出場権を獲得したが、その後低迷。欧州組を招集した試合は1勝1分け4敗で、3月のベルギー遠征ではW杯出場権のないマリに引き分け、ウクライナには完敗した。国内組で臨んだ昨年12月の東アジアE―1選手権ではホームで宿敵・韓国に1―4で惨敗している。

今年3月のベルギー遠征時の戦績が決定打か

解任への動きが決定的になったのは、今年3月のベルギー遠征だったようだ。W杯で対戦するセネガルとポーランドを想定し、マリ戦(1-1)とウクライナ戦(1-2)を行いながら、1分1敗で内容も伴わずに課題が噴出。選手も不安を口にするなど、本大会に向けて暗雲が漂っていた。

ハリルジャパンの全戦績

日付大会名成績相手国会場
2015/3/27 キリンチャレンジカップ ○2-0 チュニジア 大分スポーツ公園総合競技場
2015/3/31 JALチャレンジカップ ○5-1 ウズベキスタン 東京スタジアム
2015/6/11 キリンチャレンジカップ ○4-0 イラク 日産スタジアム
2015/6/16 W杯2次予選 △0-0 シンガポール 埼玉スタジアム2002
2015/8/2 EAFF東アジアカップ ●1-2 朝鮮民主主義人民共和国 Wuhan Sports Center Stadium
2015/8/5 EAFF東アジアカップ △1-1 韓国 Wuhan Sports Center Stadium
2015/8/9 EAFF東アジアカップ △1-1 中国 Wuhan Sports Center Stadium
2015/9/3 W杯2次予選 ○3-0 カンボジア 埼玉スタジアム2002
2015/9/8 W杯2次予選 ○6-0 アフガニスタン Azadi stadium
2015/10/8 W杯2次予選 ○3-0 シリア Seeb Stadium
2015/10/13 国際親善試合 △1-1 イラン Azadi stadium
2015/11/12 W杯2次予選 ○3-0 シンガポール National Stadium
2015/11/17 W杯2次予選 ○2-0 カンボジア National Olympic Stadium
2016/3/24 W杯2次予選 ○5-0 アフガニスタン 埼玉スタジアム2002
2016/3/29 W杯2次予選 ○5-0 シリア 埼玉スタジアム2002
2016/6/3 キリンカップサッカー ○7-2 ブルガリア 豊田スタジアム
2016/6/7 キリンカップサッカー ●1-2 ボスニア・ヘルツェゴビナ  市立吹田サッカースタジアム
2016/9/1 W杯最終予選 ●1-2 アラブ首長国連邦(UAE) 埼玉スタジアム2002
2016/9/6 W杯最終予選 ○2-0 タイ Rajamangala Stadium
2016/10/6 W杯最終予選 ○2-1 イラク 埼玉スタジアム2002
2016/10/11 W杯最終予選 △1-1 オーストラリア Dog Runs Stadium
2016/11/11 キリンチャレンジカップ ○4-0 オマーン カシマサッカースタジアム
2016/11/15 W杯最終予選 ○2-1 サウジアラビア 埼玉スタジアム2002
2017/3/23 W杯最終予選 ○2-0 アラブ首長国連邦(UAE) Hazza Bin Zayed Stadium
2017/3/28 W杯最終予選 ○4-0 タイ 埼玉スタジアム2002
2017/6/7 キリンチャレンジカップ △1-1 シリア 東京スタジアム
2017/6/13 W杯最終予選 △1-1 イラク PAS Stadium
2017/8/31 W杯最終予選 ○2-0 オーストラリア 埼玉スタジアム2002
2017/9/5 W杯最終予選 ●0-1 サウジアラビア King Abdula Sports City
2017/10/6 キリンチャレンジカップ ○2-1 ニュージーランド 豊田スタジアム
2017/10/10 キリンチャレンジカップ △3-3 ハイチ 日産スタジアム
2017/11/10 国際親善試合 ●1-3 ブラジル Stade Pierre-Mauroy
2017/11/14 国際親善試合 ●0-1 ベルギー Jan Breydelstadion
2017/12/9 E-1 サッカー選手権 ○1-0 朝鮮民主主義人民共和国 味の素スタジアム
2017/12/12 E-1 サッカー選手権 ○2-1 中国 味の素スタジアム
2017/12/16 E-1 サッカー選手権 ●1-4 韓国 味の素スタジアム
2018/3/23 国際親善試合 △1-1 マリ Stade Maurice Dufrasne
2018/3/27 キリンチャレンジカップ ●1-2 ウクライナ Stade Maurice Dufrasne

「デュエル」「縦に速い攻め」…ハリルジャパンが目指したもの

ハリル監督が指導した「デュエル」とは?

フランス語で「1対1の決闘」を意味する『デュエル』を合言葉に、ハリルホジッチ監督は縦に速いサッカーを標榜してきた。
ハリルホジッチ氏が居住するフランスのル・マンでプレー経験のある松井選手。「フランスサッカーは個人の戦い、『デュエル』をすごく言われるのでビックリしましたね」と日本サッカーとの違いを語った。「デュエル」(フランス語で決闘)はハリルホジッチ氏も1対1の強さを求める際に頻繁に使用していた言葉だ。

縦に速い攻めの意識

「デュエルに勝つことが重要だ」と1対1で体をぶつけ合い、ボールを奪うことの重要性を繰り返し強調していた。日本人に薄かったタテに速い攻めの意識を植えつけようと精力的に取り組む指揮官を、好意的に受け止める選手も多かった。
「世界で躍進するために、デュエルと速い攻めをベースにしたサッカーを突き詰めている」というのがハリル監督の言い分だったのだが、肝心のアジア以外の試合で成果が出ないのだから、選手側が疑心暗鬼になるのも理解できる。

本田・岡崎・香川ら“常連”を外して競争をもたらす

デュエル、タテへの攻め以外にも、ハリル監督がもたらしたものは少なくなかった。アルベルト・ザッケローニ監督時代からアギーレ時代にかけて固定しがちだった本田、岡崎、香川真司(ドイツ・ドルトムント)ら主力メンバーをいったん横に置いてフラットな競争をあおったこと、最終予選だけで43人もの選手を招集して多くの新戦力にチャンスを与えたこと、井手口や三竿健斗(J1・鹿島アントラーズ)のような20歳前半の若手を思い切って抜擢したことなどが好例だろう。

ハリルホジッチ監督解任の理由

JFA田嶋幸三会長のコメント

「選手とのコミュニケーションや信頼関係の薄れ」

東京・文京区のJFAハウスで午後4時から会見した田嶋幸三会長(60)は、自身の専権事項として下した決断の理由として、3月下旬のベルギー遠征で生じたチーム内のネガティブな変化をあげた。
「マリ代表戦とウクライナ代表戦の後に、(ハリルホジッチ監督と)選手とのコミュニケーションや信頼関係の部分が多少薄れてきた。それが最終的なきっかけになったのは事実であり、それまでのさまざまなことを総合的に評価して、今回の結論に達しました」

ハリル監督と協会との摩擦は「ない」

「ハリルホジッチ監督と協会との間で、具体的にはどのような摩擦やコミュニケーション不足と感じる点があったか?」という質問に、田嶋会長は「協会との摩擦はあったとは思っていません。ハリルホジッチ監督は合宿が終わると、会長室に来てくれて、よく話をしてくれました」と強調した。

「W杯で勝つ可能性を数パーセントでも上げたい」

大会直前での決断に至った理由は「W杯で勝つ可能性を数パーセントでも上げたい」というものだったという。とはいえ、「監督を変えたから決勝に行けるようなことにはならないのは理解している。状況を打破するために監督交代を決断した」と明かしている。

突然の解任に対する選手の反応

DF長友佑都(ガラタサライ)

FW本田圭佑(パチューカ)

パチューカに所属する日本代表FW本田圭佑が10日、自身のツイッターを更新した。
本田は「It’s never too late.」とだけ記した。「遅すぎるということはない」とのメッセージが対象としているものが何かは定かではないが、日本代表の指揮官交代に反応したと推測できるタイミングでのツイートとなった。

MF長谷部誠(フランクフルト)

フランクフルトの日本代表MF長谷部誠が9日の練習後、バヒド・ハリルホジッチ監督の解任について報道陣の取材に応じた。「なかなか言葉を選ぶのは難しいけど、選手として責任を感じている」。
「コミュニケーションに関しては、いろんな部分で監督とは試行錯誤してきて、本音でいろいろ話し合ってきた。その中でこういう結果になったのは大きな責任を感じている」。長谷部は自責の念に駆られたように繰り返した。

DF槙野智章(浦和)

GK川島永嗣(メス)

「今回の出来事を受けて、自分にもっとできることがあったのではないかと、後悔の念で頭が一杯だ。フランス語で彼が放つ言葉とその裏にどんな意図があるのか、それが分かっていたからなおさらだ」
と無念をつづった。
川島は多言語に堪能で、ベルギーの公用語の1つであるフランス語も習得している。通訳を介さずハリルホジッチ監督の細かいニュアンスまで感じ取っていたようだ。

MF原口元気(デュッセルドルフ)

「もちろん(選手に)影響は少なからずあるし、みんな驚いたと思う。どうなるんだという気持ちもあると思う。僕自身は悔しさもありますね。すごく信頼してもらって、使ってもらっていたので。できれば彼とワールドカップに行きたかったですし、僕自身、結果が出ていなかったのも正直な話なので、責任を感じます」
「すごく人間っぽい人だったというか、感情をぶつけてくれる監督だった。僕がオーストラリア戦でPKを与えたときも、すごく人間っぽいというか、愛情を感じました。『次だ』ということ、『失敗は誰でもあるから』ということを、声をかけてもらって、次につながったので、あのシーンはすごく覚えていますね」

FW宇佐美貴史(デュッセルドルフ)

前指揮官から学んだのは「ディテールにこだわること」だった。「完璧に準備をして試合に挑む姿勢」には影響を受けたと話す。個人的には「背後への意識」を植えつけられたという。「ボールに近寄って行くのではなく、もっと背後に抜けて、ゴールに近い位置でボールを受けるように」との指導を受け、プレーの幅を広げた。

FW杉本健勇(セレッソ大阪)

日本代表候補のC大阪FW杉本健勇は「A代表に最初に選んでくれた。学ぶことも、言われたこともたくさんあった」とハリル氏に感謝しつつ、「自分としては、やることは変わらない」。W杯まであと2カ月というタイミングでの指揮官交代に「なったからには、マイナスなことを言っても仕方ない」と前を向いた。

サッカー関係者の声

岡田武史(元日本代表監督)

元日本代表監督で、FC今治オーナーの岡田武史氏(61)が10日、ハリルホジッチ前監督の解任について、日本協会の田嶋幸三会長から電話で相談を受けていたことを明かした。「(解任を告げるために)フランスに飛ぶという切羽詰まった状態で。『会長の専権事項なのでやられたらどうですか』と言いました」と決断を後押ししたという。

報道では、最初に監督の打診をした相手は西野氏ではなく岡田氏だったという推測も飛んでいましたが…

自身への代表監督打診はあったか?との問いには「もちろんなかった」と即答した。
また、岡田氏は日本代表やJリーグの監督に必要な日本協会公認S級コーチライセンスを返上していたことが明らかとなったが、代表監督復帰への意欲については「ないです」と即答。「新しい挑戦をするほうがわくわくするので、監督というものに未練が出るのが嫌なので、ライセンスを返上しました」と語った。

フィリップ・トルシエ(元日本代表監督)

まず最初に「日本ではスポンサーが協会を資金面で支えている。企業が日本協会の決断にも力を持っている」とスポンサーの影響力について力説。昨年12月の東アジアE―1選手権で、韓国に1―4で敗れたことも挙げ「これは日本のシステムでは汚点になる」と、ハリル監督が理解していなかった日韓戦に敗れることの意味合いを解説。解任理由が選手とのコミュニケーション不足だったとの点については「バヒドの要求と選手との間には溝があった」と語った。

中田英寿(元日本代表MF)

話題はW杯2か月前に監督交代した日本代表にも及び、「窮地かは分からないが、判断が遅い。たとえ良い結果が出たとしても、積み重ねにならないし、未来への判断材料にならない」。

城彰二(元日本代表FW)

選手選考からチーム戦術までのすべてをハリルホジッチ監督に“丸投げ”しておいて、あまりに支配的にやりたいようにやったハリルホジッチ監督が思うような結果を出せず、選手から文句が出てきたから、クビを切るというのでは無責任すぎる。
私は、今回の電撃解任の本質は、そういうハリルホジッチ監督を招聘したサッカー協会側にあると考えている。

さらに「ビジョン、指針がない。W杯初出場を決めた20年前から何も変わっていない」と続けます。

日本が世界で勝つために目指すサッカーは、どういうものか。何が足りないのか。そのサッカーを構築するために、今求めている監督像は、具体的にどういう条件を満たす人なのか。
それらの指針が明らかになっていないまま、ワールドカップの実績とネームバリューだけにのっかって監督を選び、すべてを監督任せにしてきたツケが回ってきたのだ。

中西哲生(スポーツジャーナリスト)

「日本サッカー協会(JFA)としては、今後の監督の人選として日本人監督を視野に入れないといけないと思う。ハリルホジッチ監督はセルビア語が母国語だが、今回フランス語でやってきた。結局そのフランス語は、本人が希望したにもかかわらず、選手にも通訳にも伝わり切らなかった、もしくはボキャブラリーが少なくてうまく説明できなかった部分が実際あった。言語の齟齬は、日本人監督なら軽減できるのは当然ある」

川淵三郎(日本サッカー協会相談役)

セルジオ越後(サッカー解説者)

「監督と選手とのコミュニケーション不足ではなく、サッカー協会内のコミュニケーション不足だ。謎が多すぎる解任劇だよ。西野技術委員長(当時)はウクライナ戦の後に継続していくことをバックアップすると言い、それを聞いたハリルホジッチ監督も気持ちが入ったはずだ。その発言を10日あまりでひっくり返す結果だ。会長と技術委員長が話をしていないととらえられておかしくない。もし、会長が解任を考えていたのであれば、バックアップすると口走ってしまった技術委員長は上司に𠮟責されて然るべきことだ」

海外メディアはどう報じたか

韓国メディア「短所を指摘するハリル監督の方針が合わなかった」

「ハリルホジッチ監督は日本のサッカーのスタイルを変えようと努力した。特にデュエルの重要性を強調した。世界で戦うなら、個人の力で相手を圧倒する力を持たないといけないと選手たちに力説していた。この持論は当然の主張だ。しかし日本のサッカー界はこれを簡単に受け入れることができなかった。長所を強くして良いチームを作るよりかは、短所を指摘し、改善を要求するハリルホジッチ監督の方針が合わなかったのかもしれない。それこそ、チームのアイデンティティーを揺るがす問題で、より敏感になっていたところはあった」

ドイツメディア「本田や香川の冷遇が原因かもしれない」

「ここ3カ月ほど、日本代表の試合はプレークオリティーを欠いていた。W杯出場権を獲得した後は、明らかに弱いチーム相手にしか勝利できていない。ただし、結果よりも大きな別のポイントは、ハリルホジッチがチームの基礎になっていることを無視してチームを変えようとしていたことではないか。例えば、ケイスケ・ホンダやシンジ・カガワを冷遇することがファンや選手たちの理解を得られなかったが、それは彼の試みにおいて大きな失敗になった」
田嶋幸三会長はハリルホジッチ監督の解任について「コミュニケーションや信頼関係が薄れた」と強調したが、キッカー誌はその象徴が香川と本田という二枚看板の扱いにあったと分析している。

フランスメディア「ベスト16を達成できなければ解任は失敗」

ハリル監督の解任について「サッカーがいかに先を見通すのが難しいかということ」とした上で、「日本は2002年と2010年に成し遂げたベスト16を達成できなければ、この解任は失敗だ」としている。本大会から2カ月前というタイミングでの監督交代に打って出た判断について、ベスト16入りを果たせなければ正当化されないと基準を設定している。

アメリカメディア「流動的なパスサッカーに変わっていく」

「監督交代の判断のタイミングが遅すぎる」と記事にはありましたが、日本代表の今後については…

ハリル体制のカウンターサッカーから流動的なパスサッカーに変わっていくと展望。「全てを変えるには時間がなさすぎる。しかし、サムライ・ブルーにはそのDNAが宿っており、準備不足による失敗を防ぐ最大の予防策になる」と従来の日本的なサッカーに切り替えることが活路につながると指摘している。

国内メディアやネットの声

スポーツ紙、一般紙、ウェブメディアなど国内のさまざまな媒体がこの解任騒動を取り上げ、取材などから導き出された「解任の理由」を挙げている記事が多数ありました。その一部をネットに寄せられた意見と併せてご紹介します。

選手とスポンサーからの突き上げによる“クーデター”か

ハリル日本は、昨年8月31日の豪州戦に勝ってアジア最終予選を首位で突破、6大会連続6回目のW杯出場を手にしたものの、その後は3勝2分け5敗と低迷。12月の東アジアE―1選手権では宿敵・韓国に1―4と惨敗し、スポンサーからも不満の声が上がっていたという。この時点でハリル解任の可能性が浮上しながら決断するに至らなかった協会も、選手とスポンサーからの突き上げに事態を静観するわけにはいかなくなった。事実上のクーデターだ。

人気低迷によりスポンサーから大ブーイング?

人気低迷には、大金を払うスポンサー筋からブーイングが沸き起こった。ハリル監督は本大会直前の最終合宿地(オーストリア)で出場メンバー23人の発表をかたくなに主張していた。通例ならその前に、本大会の壮行試合(5月30日・ガーナ戦)で発表される。ハリルのワガママを飲んだ場合、「本田(パチューカ)や香川(ドルトムント)が大会直前に代表落ちを通告され、フランス大会のカズのように修羅場となる可能性があった」(協会関係者)。

特に、JFAと総額250億円の契約を結んでいるアディダスの個人契約選手である香川の土壇場落選は、JFAにとって「あってはならないシナリオ」だったといいます。

アディダス社にしてみれば、3月ベルギー遠征のマリ戦は本大会で着用するアウェーユニホームのお披露目試合。そこに故障があったとはいえ、香川が招集されなかったのは衝撃的だった。「ハリルをクビにするのは、むしろ半年遅かった」という声は複数の代表スポンサーからこの日、上がった。

選手から指揮官への不満が噴出

2015年3月の監督就任以来、念仏のように「縦に速く」と繰り返すだけの戦術に対し、FW大迫が「縦に速い攻撃だけじゃ……」と言えば、MF森岡も「監督と選手の間にイメージのギャップ? それは見ていても分かると思う」と戸惑いを隠さなかった。DF槙野の「自分たちの良さは何か。ショートパス、間を使いながらプレーするのが必要だったかなと思う」というのは選手の共通認識で、MF山口は「(試合中に監督が)ずっと蹴れ、蹴れと言っていたが、そんなに全部蹴れない」と辛辣だった。

信頼のおけるコーチがいなかったことも問題だった?

ハリル監督が不得手なフランス語を話し合いで使っていたことをコミュニケーション不足の原因とした上で、次のような指摘をしている記事も。

第2の要因には信頼の置けるコーチがいなかったことが挙がる。ボヌベー・コーチはトルコ1部トラブゾンスポルでハリルホジッチ監督と共に働いたが、期間は半年弱。立ち回りはうまいが、顔色をうかがい真正面から意見をぶつけるタイプではなかった。選手との橋渡しとして期待された手倉森コーチも反りが合わなかった。

ネットでは「スポンサーから圧力があったんじゃないの?」の声も

ネット上には「本田圭佑、香川真司、岡崎慎司を呼ぶか呼ばないかで、スポンサーが変わってくるんだろうな」「これはスポンサーから相当な圧力があったんじゃないの? そうでないと、このタイミングの解任はあり得ない」と、裏事情を推測する声も上がっている。

西野朗新監督で日本代表のサッカーはどうなる?

西野朗監督の経歴

1955年生まれの63歳 日本代表としても活躍

★生まれとサイズ 1955年(昭30)4月7日生まれ、埼玉県浦和市(現さいたま市)出身の63歳。身長1メートル82、体重72キロ。血液型A。
★現役時代 浦和西高から早大を経て、78年に日立(現柏)入り。司令塔タイプのMFで早大時代から日本代表として活躍。国際Aマッチ12試合1得点を記録。90年に現役引退した。

監督として歴代最多のJ1通算270勝

J1歴代最多通算270勝を誇る。16年3月に日本サッカー協会の技術委員長に就任し、日本代表に帯同してきた。

アトランタ五輪でブラジルを破る「マイアミの奇跡」を演出

後任に指名された西野氏は、日本代表監督初就任。1996年アトランタ五輪代表を率い、初戦でブラジルに1-0と勝利する「マイアミの奇跡」を起こした。その後は柏レイソル(1998年~2001年7月)、ガンバ大阪(2002年~2011年)、ヴィッセル神戸(2012年5月~同年11月)、名古屋グランパス(2014年から2015年)の監督を歴任。G大阪監督時代には攻撃的なサッカーを確立してJリーグ優勝、AFCチャンピオンズリーグ制覇を果たしている。

日本代表監督就任会見で語った内容

「必要なことに関しては継続」

前監督の「縦に強いサッカー」を継続するか問われると…

「監督のスタイルというのは今までの日本のサッカーに足りなかった部分でもある。1対1に強さを求めたり、縦の攻撃に対する推進力を求めたり。間違いなく必要なことに関しては継続して考えていきたい」
「ただ、やはり日本化した、日本のフットボールっていうものはありますし、構築してきた中には技術力を最大限に生かしたり、戦い方においても規律や組織的なところで結束して戦っていく強さ、化学反応を起こした上で戦える強さ、そういうものをベースにした上でそういうものをこれからは構築していく必要はあると思いますし、自分自身も必要だと思っています」

西野新監督の新体制

この日、発表された新スタッフには2020年の東京五輪に出場するU―21日本代表から森保一監督(49)、下田崇GKコーチ(42)、U―19日本代表から小粥智浩コンディショニングコーチ(44)が入閣。手倉森誠コーチ(50)と早川直樹コンディショニングコーチ(55)、浜野征哉GKコーチ(45)は留任となり、W杯に臨む新体制が整った。

新生・西野ジャパンの路線は?

西野戦術は基本的に攻撃的なスタイル

J1クラブの監督として歴代最多の通算270勝を誇る西野戦術は基本的に、個々のパスセンスや決定力を生かした攻撃的なスタイル。「守備を固めてロングパスによるカウンター狙い」一辺倒で不評だったハリル戦術とは対照的といえる。

選手に“自由”を与えコミュニケーション重視の組織へ

ハリル氏は選手に戦術を徹底させ、相手に合わせたサッカーが基本だったが「個人のプレーに関しては制限はかけたくない。自クラブでやっているパフォーマンスを評価して選ぶ。攻撃的な戦い方を求めていきたい」。厳しい管理体制ではなく「ある程度逸脱する選手がいても1つの目標に向かっていれば問題ない」と“自由”も与える考えだ。
協会関係者は「少なくともチームと協会の風通しはよくなり、選手の自由度というか、任される部分は増える」とみる。今どきの若い選手向きの、コミュニケーション重視の組織にはなりそうだ。

本田・香川・岡崎の“ビッグ3”にメンバー入りの可能性も

バヒド・ハリルホジッチ前監督(65)の解任を受け、残り約2か月に迫ったロシアW杯(6月14日開幕)に挑む指揮官のもとで、前体制ではチャンスの少なかったFW本田圭佑(31)=パチューカ=、MF香川真司(29)=ドルトムント=、FW岡崎慎司(31)=レスター=の“ビッグ3”に逆転メンバー入りの可能性が浮上。
会見では5月14日に大枠35人のリストを提出し、同31日に23人を発表予定のW杯メンバーについても言及。最も大きい候補リストには100人近い名前があるが核となる選手は絞られている。「できるだけフラットな状況で考えたいが、ベースとなる選手たちは変わらない。現状のコンディションを確認したい。年齢も問わない」。

就任後の初仕事はC大阪-FC東京戦視察

選手を生かした戦いを強調

色眼鏡なしの“ゼロベース視察”だった。日本代表の西野朗新監督(63)が就任後初仕事としてC大阪―FC東京(ヤンマー)の試合を訪れた。白シャツ、ノーネクタイに黒縁眼鏡とダンディーな格好で、W杯に必要なピースをくまなくチェック。今後は中盤を再構築することになりそうだ。
「どういう選手が状態が良くて、どういうシステムを作れるか。選手と戦術、戦略を合わせながら見ていきたい」と、あくまで選手を生かした戦いを強調した。