アルバイトにLINEを送ったら次の日から店に来なくなった…店長が激しく後悔した"軽い注意喚起"の文面
プレジデントオンライン / 2024年4月14日 10時15分
■肩書で呼ばれたい上司世代、平気で「さん」で呼ぶZ世代
コロナ禍の急速なリモートワークの普及、そして大量のZ世代の新社会人の流入によって従来の職場のコミュニケーション文化の変化が起こりつつある。
ひと昔前まではメールを上司や取引先に送る場合は、新人社員教育などでは時候の挨拶や「謹啓」「前略」などの使い方を厳しく叩き込まれたものだが、メール自体の存在価値も薄れている。
その代わりに普及しているLINEや各種ビジネスチャットは職場の「報・連・相」を気軽にできるメリットがある。「Slack」では絵文字のスタンプも多く、挨拶の言葉も不要で効率的だ。チャットツール開発企業も「会議の必要性が低下し、絵文字を使えば即座に返信でき、メッセージ件数も圧縮できる」ことを謳い文句にしている。
しかし、こうしたツールの急速な浸透にとまどいや違和感を覚える人たちもいるようだ。
たとえば職場のLINEグループで上司が仕事を指示しても「既読スルー」で返信をしない社員もいるが、上の世代は「本当にやってくれるのか」と不安に思う人もいるだろう。あるいは、親指を立てる「サムズアップ」の絵文字を了解しましたとの意味で使う人もいるが、上司の中には「カジュアルすぎる」「生意気だな」と思う人もいるかもしれない。
職場内だけならまだしも取引先に対しても既読スルーや絵文字で返事をするとなると、ビジネス上のリスクになるかもしれない。取引先の相手に名前の下に「~さん」を付けて送るケースもあり、理解ある人であればよいが「見下ろされている」「馴れ馴れしいやつ」と不快に思う人もいるだろう。
これまで社内のコミュニケーションでも、言葉遣いや呼称には一定のルールがあった。メールを送る場合、課長、部長など役職名をつけるのが常識とする企業も多い。
最近は役職名を外し、さん付けで呼ぶケースもあるが、「日本の組織では常務、局長、部長、課長といった肩書で呼ばれることに喜びを感じる人もいる」(40代商社社員)。ヒエラルキー的秩序を重んじる層少なくない。
LINEやチャットをビジネスで使う場合の「ルール」はあるのか。ビジネスマナー検定の検定委員に聞くと「試験の中に、コミュニケーションツールとしてLINEやチャットの内容も入れ込んでいるが、実はどれが正解というところがまだはっきりしていないのが現状だ。社内や社外を含めてどう使い分けるのがいろいろ難しいところがある」と語る。
従来のルールが通用しなくなり、新たなルールが確立される過渡期だとすれば、社内で一定のルールを設けることがあってもよいかもしれない。
■文末の句点「。」に恐怖感や威圧感を覚える「マルハラスメント」
実は若い世代の中にもチャットの使い方で迷っている人もいる。人材サービス会社の広報担当の26歳の女性はこう語る。
「『チームズ』のチャットには、チャットグループの人に連絡するときに相手の名前か、フルネームが表示される。そのまま名前を呼び捨てにして通知するのか、あるいは名前に「さん」と入力して通知するべきか迷ってしまう。また、絵文字や顔文字もたくさん出てくるが、先輩社員や上司など、相手によって使ってよいものか考えてしまう」
会社が公認しているLINEや「チームズ」「Slack」に搭載されている機能である以上、使い分けをどうするのか、会社としてガイドライン的なものをつくったほうがトラブルの予防にもなるだろう。
こうした中でLINEなどの文末の句点(。)に恐怖感や威圧感を覚える「マルハラスメント」という言葉が若い世代の中で生まれている。
LINEを使う若い世代は句点をつけることはほとんどない。しかし一定以上の年齢の人にとっては文章の末尾に句点をつけるのは常識となっている。なぜ怖いのか。聞けば、「とくに理由はなく、とにかく怖い」と口をそろえる。
前出の人材サービス会社の女性は「なんか相手が怒っているように感じる。こちらが相手の気に障るようなことをしてしまい、不機嫌なのかと思ってしまう」と語る。
彼女だけではない。飲食店を経営する40代の店長が実際にあった経験を語ってくれた。
「アルバイトとの連絡にはLINEを使うこともある。ある夜、バイトの学生に店を任せて外出したことがある。翌日、店にくると厨房の灯りがついたままになっていた。『電気を消すのを忘れていましたよ。』と、LINEで送ったら次の日から店に来なくなった。既読になったまま返事も寄こさないでそのまま辞めてしまった」
店長は「今にして思えば、マルハラと受け取られたのかもしれない。若い子はマルをつけたら冷たいとか、プレッシャーに感じるらしく、今はつけないようにしている」と語る。
では、マルハラと意識する年齢と、そうでない年齢の境界はどのへんにあるのか。29歳の出版取次会社の営業職の男性は「マルをつけたらプレッシャーを感じるという感覚はない。メールやLINEにしても文章にはマルをつけないといけないという気持ちがある。LINEは同期や後輩にはつけないが、先輩や上司にはマルをつけるようにしている」と語る。
同じ20代でも前出の26歳の女性とではマルに対する感覚が異なる。違いがあるとすれば、女性が1990年代後半に生まれたいわゆるZ世代で、営業職の男性は1994年生まれのミレニアル世代であることだ。
■「一往復半」が正しいのか「一往復」ですませていいのか
コミュニケーションの世代間ギャップは他にもある。
一般的に、上司や取引先にメールなどで仕事の依頼をする場合、自分が送信し、相手から返信がきたら、それがOKであれNGであれ、承諾やお礼の旨の返信をする「一往復半」が1セットとされている。
しかし、最近は最後の返信をせず「一往復」ですませる若い世代が増加中との指摘がある。上の世代にとっては、たとえば仕事の依頼に即OKを出したにもかかわらず、何の返信もないと不安・不審に思う人もいるだろう。
前出の29歳の営業職の男性は「社員教育の講師からは、目上の人に仕事で何かをお願いする場合、相手の返信だけで終わりにするのはNGと教わっています。お願いしたこちらが返信しないと失礼にあたり、返信するにしても、取引先に絵文字だけ送ったら、驚くのではないか」と語る。
一方、人材サービス会社の26歳の女性は最後の返信をするのを躊躇してしまうと言う。
「承諾の返事をいただいて、こちらから『承知しました。ありがとうございます』と返信すると、相手がメールを見たり、追加の返事をしなければならない空気にして、相手に余計な業務を増やしてしまうのではないかと思ってしまう。返信するにしても『ありがとうございます』のスタンプを送ることができればそうしたいと思うが」
同じ20代でも真逆の反応だ。LINEや新しいチャットツールは便利だが、旧習を大事にする組織や人も少なくない。チャットなど新しいコミュニケーションスタイルをどう取り入れていくのか、難しい時代に直面している。
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人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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