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SNSが災害時の情報インフラとして使えない理由 偽情報すら収益化する姿勢で被災地の活動に悪影響

東洋経済オンライン / 2024年4月11日 19時30分

三つめはソーシャルメディア取材のための「情報トリアージ」チームを創設することだ。いくら「便所の落書き」とするにしても、報道の情報源としてソーシャルメディアをゼロにすることはできない。膨大な投稿から必要な情報を取り出す情報トリアージを行うため、専門的な知識を有するチームを系列や媒体を超えて組成する。発災直後に現場に急行して医療を担当する災害派遣医療チーム(DMAT)をイメージするとよいだろう。

いずれも災害発生時から1週間や1カ月など期間を決めた時限的対応とすると導入しやすいのではないか。最も混乱して、現場での取材が厳しい初期段階において信頼できる情報を確保し、現場が落ち着けば各社が独自に取材をすればよい。

仕組みを担う媒体を超えた教育プログラムとネットワークも重要になる。ソーシャルメディアからの取材方法だけでなく、影響工作への理解、災害取材のノウハウも必要だろう。教育プログラムだけでなく、ネットワークを構築して定期的な訓練や研修を行う必要もある。ネットワークがあれば、災害時に各地から現場に派遣して相互協力することで情報空白を埋めることが可能になる。実現のためにはより詳細な検討を行いたい。

信頼できるニュースを自ら伝える

信頼できるニュースを伝えるためにテレビ局が取り組むべきゴールは、災害時に「何かあればここを見ておけばよい」と人々が想起する媒体になることだ。そのためには、ソーシャルメディアなどのプラットフォームに頼らずに、人々に直接情報を届けることができるルートの確立が重要になる。

テレビ各社はYouTubeのような動画サイトに映像提供したり、ヤフーなどポータルサイトへの配信も強化している。しかしながら他企業が運営するプラットフォームを利用しているに過ぎず、人々への情報伝達はコントロール不可能であり、災害時には膨大な玉石混交のコンテンツに飲み込まれてしまう。

人々はテレビ放送から離れつつあり、29歳以下男性単身世帯では7割程度しかテレビ受信機を持っておらず、テレビ受信機離れが進んでいるとの指摘がある(*4)。(普段から)遠い存在となれば災害時に頼りにされることもない。

*4 https://minpo.online/article/part1.html

民放各局が運営するTVerはリアルタイム配信が可能ではあるが、見逃し配信用であることがプロモーションでは強く打ち出されており、災害時に見るべきサイトと認識されていない。ラジオは災害時に有力な媒体であるが、ラジコはインターネットが断絶すると届かなくなる。民放連は能登半島地震でラジオ受信機を被災地に配布しているが、ラジオ受信機は停電時にも電池があれば長時間使える。地域の公共施設や学校も含めて配布を拡大していきたい。

正確なニュースを広く伝えるために

通信事業者との連携も検討したい。災害時にインターネットが利用できるように対応しても、不確実な情報が流通するのでは意味がない。日本国内ではヤフーやLINEが多くの接点を持つ。災害発生から1週間は信頼できるニュースを優先して扱うようプラットフォーム運営企業にガバナンスを求めることを検討したい。その際には偽・誤情報対策を名目に権力に都合が良いメディア規制が行われないように注意するべきだ。

インターネットで「バズる」「いいね」を増やそうとするテレビ局もあるが、それではインプ稼ぎと変わらない。正確なニュースを広く伝えることは災害時の命綱であり、偽・誤情報の対策となりうる。そのための取り組みが求められている。

藤代 裕之:法政大学社会学部教授

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