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終点まで丸4日をかけて北米大陸を横断 カナダの旧紙幣に描かれた看板列車、カナディアン乗車記①「鉄道なにコレ!?」【第57回】

47NEWS / 2024年2月29日 10時0分

VIA鉄道カナダの大陸横断列車「カナディアン」=2023年12月20日、カナダ西部アルバータ州ジャスパー(筆者撮影)

 脱炭素化が急務の中、二酸化炭素(CO2)排出量が多い航空機の利用を「フライトシェイム(飛び恥)」と呼ぶ向きもあるヨーロッパで急拡大しているのが夜行列車だ。カナダの都市間旅客鉄道を運行するVIA鉄道カナダは、3区間で夜行列車を走らせている。代表格が最大都市トロントと西部バンクーバーの約4466キロを停車時間も含めると丸4日、約97時間をかけて走る「カナディアン」だ。乗り込むと五大湖の一つのヒューロン湖や穀倉地帯、カナディアンロッキーの優美な山容などと変わりゆく車窓が飽きさせることがなく、他の乗客や乗務員との会話でも驚きの連続だった―。(共同通信=大塚圭一郎)

 ※音声でも解説しています【きくリポ・鉄道なにコレ!?特別編12】「丸4日をかけて北米大陸を横断、カナディアン乗車記(前編)」(共同通信Podcast)

 【VIA鉄道カナダ】カナダの都市間旅客列車を運行する国営企業。本社は東部ケベック州モントリオール。1977年に設立され、現在はともに貨物鉄道に特化しているカナディアン・ナショナル鉄道(CN)、カナディアン・パシフィック鉄道(現在のカナディアン・パシフィック・カンザスシティー)が切り離した旅客鉄道事業を引き継いだ。カナダ10州のうち東部ニューファンドランド・ラブラドル州、プリンスエドワードアイランド州を除く8州を走る。本業の損益を示す営業損益は毎年赤字で、連邦政府による補助金などで穴埋めしている。2022年12月期決算の本業の損益を示す営業損益は3億5430万カナダドル(約390億円)の赤字だった。CNなどの貨物鉄道会社の線路を借りて列車を走らせているため、貨物列車によってダイヤに影響を受けることが多い。


VIA鉄道カナダの路線図=23年12月17日、カナダ東部トロント(筆者撮影)

 ▽夜行列車の〝台風の目〟「ナイトジェット」
 夜行列車が急拡大しているヨーロッパで〝台風の目〟となっているのがオーストリア連邦鉄道の国際夜行列車「ナイトジェット」だ。8カ国を走っており、オーストリアの首都ウィーンとフランスの首都パリ、ベルギーの首都ブリュッセル、スイス・チューリヒなどを結んでいる。
 新型車両も導入し、2023年12月にウィーン―ドイツ・ハンブルクなどで営業運転が始まった(詳しくは本連載第23回「欧州に“夜汽車ブーム”が再来した理由」)。
 これに対し、北アメリカ大陸で夜行列車を死守して外国人旅行者を呼び込む柱の1つと位置付けられてきたのがVIA鉄道カナダのカナディアンだ。


トロント・ユニオン駅の構内=23年12月16日、カナダ東部トロント(筆者撮影)

 ▽カナダ唯一の大陸横断列車、かつては紙幣にも
 カナディアンは旅客鉄道ではカナダ唯一の大陸横断列車であり、カナダの旅客列車を代表する看板列車だ。トロントの中央駅に当たるユニオン駅とバンクーバーのパシフィックセントラル駅と結ぶ。
 カナダの中央銀行、カナダ銀行が発行していた10カナダドルの旧紙幣は、カナディアンがカナディアンロッキーを駆けるイラストを載せていた。また、列車番号はトロント発バンクーバー行きのカナディアンが「1番」、バンクーバー発が「2番」を付けている。
 米国でも全米鉄道旅客公社(アムトラック)が東西に走る夜行列車を走らせている。だが、中西部の大都市シカゴで東部のニューヨーク、または首都ワシントンと結ぶ列車と、西部のシアトル・ポートランドなどとつなぐ列車を乗り継ぐことになる(本連載第26回「米夜行列車は“遅刻常習犯”、乗り継ぎ5時間半でも冷や汗」
 カナディアンも大陸の端から端を結んでいるわけではない。ただ、北米大陸の東部と西部を1本の列車で横断しているため、アムトラックと比べて大陸横断列車の性格を強く残していると言えよう。


VIA鉄道のトロント・ユニオン駅にある列車発車案内の電光掲示板。上から4番目に列車番号1のバンクーバー行きカナディアンがある=2023年12月17日、カナダ東部トロント(筆者撮影)

 ▽貨物鉄道の線路を走行、4つのタイムゾーンを通過
 カナディアンはトロント―バンクーバー間で週2往復し、夏の繁忙期は途中の西部アルバータ州エドモントン―バンクーバー間で週1往復が追加される。主に貨物鉄道大手、カナディアン・ナショナル鉄道(CN)が保有する線路を借りて走る。
 私が2023年12月の冬休みに乗り込んだ列車のダイヤは東部時間午前9時55分に東部オンタリオ州トロントを出発し、2日目の中部時間午後4時12分に着くライスレークまで州内の駅が続く。
 列車はそれぞれ1時間の時差がある東部、中部、山岳、西部の4つのタイムゾーンを通るが、広大なオンタリオ州では東部時間と中部時間が併存している。
 カナダ中部にあるマニトバ州の最大都市ウィニペグに2日目の中部時間午後7時半に到着。乗務員の交代があるため、出発は2時間後の午後9時半だ。3日目の朝に着くサスカチワン州は山岳時間で、州内では主要都市の一つのサスカチューンに午前10時50分に着く。1時間後に出発してカナダ西部のアルバータ州の州都エドモントンに午後8時50分に到着。
 エドモントンを4日目の午前0時1分に出て、保養地として有名なアルバータ州ジャスパーに午前6時半に着く。3時間後に出発するとカナディアンロッキーの景勝地を進み、5日目の午前8時に終点の西部ブリティッシュコロンビア州バンクーバーに滑り込む。 


途中停車したジャスパー駅に掲示していた、VIA鉄道「カナディアン」の乗車した列車の編成図=2023年12月20日、カナダ西部アルバータ州(筆者撮影)

 ▽16両編で運行、旧バッド製造「古希」の客車
 乗車時の列車は全体で16両編成。アメリカの自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)の機関車部門だったEMD(現在はアメリカの建設機械大手キャタピラーの部門)の1975年に登場したディーゼル機関車「F40PH」2両が、利用者の預け入れ荷物などを載せる荷物車と客車をけん引した。
 だが、利用者が多い夏期の繁忙期には客車を増結しており、車内で会ったエドモントンに住む心理カウンセラーの女性は「かつて夏に乗った時は40両近くで運行していた」と話していた。
 客車は主にアメリカにあった金属加工メーカーの旧バッドが製造し、1954年の登場から今年で70年すなわち「古希」となる。
 バッドは日本初のオールステンレス車両となった1962年登場の東京急行電鉄(現東急電鉄)の初代7000系向けに技術を供与したことで知られる。初代7000系は東急電鉄から既に引退したが、譲渡された青森県を走る私鉄の弘南鉄道、石川県内の北陸鉄道石川線などで活躍している。


VIA鉄道のトロント・ユニオン駅にある寝台車利用者用の待合室=23年12月17日、カナダ東部トロント(筆者撮影)

 ▽最高級寝台の料金はエコノミーの10倍弱
 カナディアンには、最も安く利用できる座席のエコノミークラス、開放型の上下になった2段寝台、原則として1人用と2人用がある個室寝台の「寝台車プラスクラス」、2人用個室の豪華仕様になった最高級の「プレスティージ寝台車クラス」がある。
 料金は繁忙期の5~10月の夏期の方が、11月~翌年4月の冬期より高額だ。正規料金は冬期ではトロント―バンクーバー間の1人当たりの料金は、エコノミークラスが514カナダドル(約5万7千円)から、2段寝台が1111カナダドル(約12万3千円)から、2人用の寝台車プラスクラスが1人1972カナダドル(約21万9千円)からだ。
 これがプレスティージ寝台車クラスになると1人4981カナダドル(約55万3千円)からに跳ね上がる。エコノミークラスの10倍弱、寝台車プラスクラスと比べても約2・5倍だ。乗車券を早く買えば、割引運賃が適用される場合もある。
 寝台利用者は連結されている食堂車を無料で利用でき、通常ならば最後尾に連結されている展望車「スカイラインカー」にも立ち入ることができる。これに対し、エコノミークラスはカフェテリアで食事を購入することになる。


トロント・ユニオン駅にあるVIA鉄道「カナディアン」のプレスティージ寝台車クラス利用者専用の待合室=23年12月17日、カナダ東部トロント(筆者撮影)

 ▽寝台利用者向けの待合室、“奥の院”の正体は…
 私はVIA鉄道の公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」の会員になっており、これまでにさまざまな列車に乗ってきた。しかし、看板列車のカナディアンは手つかずで、カナダの隣国アメリカの首都ワシントンに駐在しているうちに全区間に乗車するのが悲願だった。
 そこで、高校生の息子の分を含めて寝台車プラスクラスの2人用個室の乗車券を事前に購入。QRコードが付いた乗車券を片手に握りしめ、看板列車が発着するのに似つかわしい風格あふれる駅舎のトロント・ユニオン駅に出発の2時間前に着いた。
 VIA鉄道の切符販売窓口があるコンコースの近くに、寝台利用者向けの待合室があった。入り口でチェックインのため女性係員に乗車券を手渡し、身分証明書のためにパスポート(旅券)も渡そうとしたものの「それは結構です」と確認されなかった。「預け入れ荷物はありますか?」と尋ねられ、持参したスーツケース一つを預けた。
 待合室にはソファーや、仕事用に電源コンセントを備えた机などを配置している。コーヒーメーカーと、炭酸飲料やジュースが入った冷蔵庫もあり、利用者は好きな物をもらえる。
 コーヒーメーカーのホットチョコレートが美味なのに気をよくしながら室内を散策していると、先にまるで“奥の院”のようにシックな部屋があることに気づいた。入り口には「カナディアン プレスティージ予約者用」と記した看板が置かれ、寝台車プラスクラスの予約者である私には立ち入り禁止の空間だ。
 ふと、「プレスティージ寝台車クラスには、どのような“雲上人”が乗り込むのだろうか」との疑問が頭をもたげた―。


トロント・ユニオン駅のVIA鉄道カナダ「カナディアン」の寝台車乗り場での筆者=23年12月17日、カナダ東部トロント(筆者撮影)

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!

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