親から受けた“毒”を子どもに与えないために
ASCII.jp / 2024年2月29日 7時0分
『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』(旦木瑞穂 著、光文社新書)の著者は、家庭内で起こるさまざまな事象に目を向けて執筆を続けてきた人物。タイトルからわかるように、本書のテーマは“毒親”である。
毒親という言葉の元になった『毒になる親』(玉置悟訳、講談社+α文庫、2001年)の著者スーザン・フォワードによると、毒親とは、「子どもに対するネガティブな行動パターンが執拗に継続し、それが子どもの人生を支配するようになってしまう親」を指します。これは、「自分の都合で子どもの子どもたる時間や居場所を奪い、成人後もその関係を当然のごとく継続する、まさに子どもを自らの所有物として扱う親」と言い換えても良いかもしれません。(「はじめに」より)
たしかに、こうした親こそが毒親ということになるのだろう。もしかしたら、「あの人がまさに毒親だな」と誰かを思い浮かべることができる人もいるかもしれない。だが、それ以前に重要な問題がある。自分は毒親には絶対にならないという保証は誰にもなく、いいかえれば誰もが毒親になってしまう可能性があるということだ。
それに、毒親から受けた毒は非常に強い。そのため受けた本人がきちんと自覚し、強い意志を持って自分の過去、あるいは毒親自身と向き合わない限り“解毒”することは難しい。それどころか次の世代、すなわち自分の子どもに連鎖してしまう可能性もあるのだ。
毒親過程やモラハラ家庭で育った人が、自分でも毒親家庭、モラハラ家庭を築いてしまうことは少なくない。その理由は、その人自身が毒のある人やモラハラ気質の人を引き寄せてしまうほかに、その人自身が側にいる人を毒のある人やモラハラをする人に変えてしまうケースもあるようだ。(「はじめに」より)
親と子が共依存関係に陥ってしまう
この考え方を裏づけるかのように、本書にはさまざまな毒親が登場する。その多くは親から受けたトラウマを抱えており、それが自己肯定感の低さや人間的な未熟さ、その他、さまざまなコンプレックスとなって表れている。つまりはこの時点ですでに毒が引き継がれているわけだが、こうして誕生した新たな毒親は、その毒を自分の子へと“与えて”いく。
必ず連鎖すると断定することはできないとはいえ、そうなる可能性が非常に多いのである。そのため本書で明らかにされている事実の多くは、率直に表現すれば「キツい」。なぜ子どもに対してそこまでひどいことをするのかと読んでいてつらくなってくるほどなのだが、そもそも毒親には自覚がないのだ。
毒親の多くは子どもに対し、心から謝ることができない。なぜならそれは、子どもを自分の所有物だと思っているからだ。所有物だから、「子どもになんか謝る必要はない」という驕りと、「子どもだから謝らなくても許してくれるはずだ」という甘えが共存している。(169ページより)
しかも、毒親に育てられた子どものなかからは多くの場合、大切なことが欠落してしまう。
毒親育ちの子どもの多くが、大人になるまで自分の親が毒親とは気付かず、親に認められたいあまりに、いつまでも毒親から離れられない。離れられないから、苦しめられ続ける。(112ページより)
つまりはこうして、親と子が共依存関係に陥ってしまうわけである。それは多くの毒親とその子との関係にあてはまることであるようだ。
「宗教2世」も毒親の影響が共依存に結びつく
本書に登場するケースはどれもが強烈で、よくも悪くも興味深いのだが、なかでも強い印象を残してくれたのは、宗教にのめり込む母親の元、ネグレクトに近いような状況で成長した30代女性のケースだった。昨今問題化されている「宗教2世問題」だが、ここで紹介されているのはその先がけともいえるものなのである。
具体的な団体名こそ書かれていないが、「当時は教団が、世界中が震撼するような大事件を起こした直後だった」という一文だけで、どの団体のことかは容易に想像できる。
母親は、「友だちと旅行に行く」などと嘘をついてまだ幼い妹は祖父母に預け、時任さんだけ連れて、富士山の近くにある教団施設に1週間ほどこもった。そこでは、頭にピリピリと電気刺激を与えるヘルメットのような物を被らされ、2段ベッドのある部屋で母親と2人、ひたすら座って過ごした。(214〜215ページより)
他にも環境や体験などについての生々しい記述が多いので、いやでもあのときの喧騒を思い出さずにはいられない。しかし、それでも自分なりの問題意識を持っていたこの女性は少しずつ母親との間に距離を置き始め、27歳で結婚。2人の子を生み、少しずつ教団から離れていく。
ところが、背負い込んでしまう傾向のある妹は別で、母親と距離を置くことができなかったという。
母親と妹には共依存傾向があるように感じる。現状、母親はまだ64歳で健康状態も良く、誰かが同居しなくてはならないという状況ではない。にもかかわらず、同居ありきで結婚を考えている妹は、母親に囚われすぎていないだろうか。幼い頃から何でも1人でできた時任さんとは異なり、小学校でいじめられたことがきっかけとなったのかそれ以前からなのかは不明だが、母親は宗教に没頭しながらも妹を放っておけず、妹も母親を頼るうちに、離れられなくなったのかもしれない。(233ページより)
ここでも毒親の影響が共依存に結びついてしまっている。宗教のことを差し引いたとしても、毒親が引き起こす結果にはやはりひとつの共通項がありそうだ。
親は子どもを1人の人間として扱うこと
では、毒親にならないために、親はどうすればよいのだろうか?
子どもを1人の人間として扱い、気持ちや事情を尊重する。万が一踏みにじってしまったときには、心から謝罪する。大人同士の付き合いの中では普段から当たり前にしていることを、子どもに対しても同様に行うだけのことだ。(325ページより)
簡単なことではないかもしれないが、それでも常に頭の片隅に置いておき、時間をかけてでも習慣化するべきなのだろう。
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毒母は連鎖する~子どもを「所有物扱い」する母親たち~ (光文社新書)旦木 瑞穂光文社
筆者紹介:印南敦史
作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。 1962年、東京都生まれ。 「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。 著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。
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