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まさか高校時代に演奏した あの舞台にまた立つなんて

CREA WEB / 2024年3月1日 7時0分


 ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部渡さんのカルチャーエッセイ連載第8回。今回は母校からオファーをもらい、高校時代に立ったステージで再びライヴをすることになったお話です。

 中学・高校の頃、音楽祭という行事があった。体育祭が大嫌いで、「学園祭だって結局体育会系のものじゃん」と捻くれていた私だったが、音楽祭は行事嫌いだった私からしてもそれほど嫌なものではなかった。毎年池袋の東京芸術劇場を借りて、我々の頃だと中学1年生は「ボレロ」をリコーダーで吹いて、高校1年生は合唱コンクールに勤しむ、それに加えて部活での発表があったり、といった具合だ。早い時間に現地解散で終わる行事だったので、池袋の街にそのまま放り出される感じも好きだった。

 その音楽祭で高校3年生の時に個人演奏の部門でギターの弾き語りをしたことがある。まだその頃は自作曲に自信もなくて、フィッシュマンズの「いかれたbaby」(プログラムに掲載する際に「いかれた」はよくない、という話になり、『MELODY』のカップリングにあやかって「Wedding Baby」に改題した)を歌った。そしてアンコールをいただいてパラダイス・ガラージの「I Love You」を歌ったのだった。恋人なんていたことないのに! ラヴソングを! 2曲も歌ったのだ!「いかれたbaby」を歌っているときに下級生からおちょくるような合いの手が入り、のちに一部から「ベイベー先輩」と陰で呼ばれていたことを除けば楽しい思い出になっている。

 そして18年の時を経て、母校からオファーをいただいてまた再び東京芸術劇場のステージに立つことになった。あまり感じたことのない緊張を抱えて会場に入る。楽屋でマネージャーA氏から「サンプルが届きました」と手渡されたのははっぴいえんどの再発CDだった。中学・高校の頃に夢中になって聴いたはっぴいえんどのブックレットに短い文章を寄稿したのだ。その前日、高校生の頃に夢中になって聴いたパラダイス・ガラージの豊田道倫さんとのライヴがあったことも加点され、いま、あらゆる点が線になる瞬間のその只中にいるんだな、と嬉しくなった。点を打ってきたという自覚はあまりなかったが、繋げてみると確かな嬉しさがある。これが年齢を重ねるということなのだろうか。

会場は完全にアウェイだった…

 アウェイの場でのライヴというのはこれまで何度もあったが、そういう場での立ち振る舞い方は心得ていたはずだ。心を強く持てばいい。パンクバンドに囲まれながらも弾き語りで乗り込んだ夜もあった。いい夜だった。しかしどうだ、バックヤードでは懐かしい再会を喜び、ホームグラウンドのように温かく送り出され、いざステージに向かってみると、その客席は全くのアウェイ、というのは果たして今まであっただろうか。ステージにあがり、学生からの「誰だこいつ……」という視線をめちゃくちゃ感じつつも、何曲か歌っていく。ホールの響きが懐かしく思える。体は覚えているものだ。終盤、「ODDTAXI」を歌うために、アニメ「オッドタクシー」の名前を出した時に明らかに客席が動揺しているのも感じて「オッドタクシー」の作品の強さを改めて感じた。

 この日のセットリストは大いに悩んだ。「CALL」「ストーリー」「ODDTAXI」「静かな夜がいい」といった具合に落ち着いたのだが、自分のキャリアの中からなるべく強い曲を選曲した形になった。そんな中、急遽17歳の頃に作った「愛情」という曲を忍ばせた。19年も前に書いた曲を歌うなんて正気じゃない気もする。しかし当時の私は、あらゆる音楽を通した紆余曲折を経て、刹那的に歌う若者が持つべきロック的なものに辟易していた。「その瞬間を歌い、その瞬間にあるだけではダメなんだ。10年経っても、20年経っても残るかもしれない曲を作らなければならない!」と奮起したのが、今の活動の根幹となっている。無理に忍ばせた曲ではあったけど、実際に歌ってみると、19年経ってそういう曲になれているのかもしれない、とようやく実感することができた。その曲は「冬には友達もちょっと増えて 静かに暮らす夢を見る」という詩で始まる、1分半にも満たないショート・ポップ。過去、ライヴではよくやっていた曲で、2011年の『ストーリー』にも収録したお気に入りだ。「愛情」という曲には、ある雨の日、国際興業バスで成増まで出て、有楽町線に乗り換え、学校があった要町まで向かうあの情景が息づいている。

澤部 渡(さわべ・わたる)

2006年にスカート名義での音楽活動を始め、10年に自主制作による1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースして活動を本格化。16年にカクバリズムからアルバム『CALL』をリリースし話題に。17年にはメジャー1stアルバム『20/20』をポニーキャニオンから発表した。スカート名義での活動のほか、川本真琴、スピッツ、yes, mama ok?、ムーンライダーズのライブやレコーディングにも参加。また、藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)らへの楽曲提供や劇伴制作にも携わっている。2022年11月30日に新しいアルバム『SONGS』をリリースした。
https://skirtskirtskirt.com/

文=澤部 渡
イラスト=トマトスープ

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