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パンダ4頭分の行動を1分ごとに記録 シャオシャオの異変に気づいたのも 飼育係の小さな疑問からだった

CREA WEB / 2024年3月17日 11時0分


シャオシャオ(右)とレイレイと屋外に配置された竹(2023年3月22日、筆者撮影)

 上野動物園が2023年10月29日に開催した学生向けセミナー「飼育係だけ!? 動物園でパンダと働くシゴト案内」は、パンダに関わるさまざまな仕事を伝え、視野を広げてもらおうと企画されました。セミナーの様子を中心に、上野動物園のパンダにまつわる仕事を4回にわたり紹介します。


屋外&午後のほうが竹を見る目が厳しくなる

 上野動物園では現在、4頭のジャイアントパンダを飼育しています。飼育係(正式名称は「公益財団法人東京動物園協会 恩賜上野動物園 飼育展示課 西園飼育展示係」)の主な仕事は給餌、観察、公開、清掃。給餌では、とりわけ主食の竹をパンダにたくさん食べてもらおうと工夫しています。

 パンダは多くの竹を食べないと必要なエネルギーを得られず、お腹の調子を崩すこともあるのに、竹を選り好みします。上野動物園では2023年10月末時点で、18歳のリーリー(力力)に約65kg、18歳のシンシン(真真)に約62kg、2歳で双子のシャオシャオ(暁暁)とレイレイ(蕾蕾)に約88kgの竹を毎日あげていますが、食べるのはこの一部です。


飼育係は日本名の「リーリー」「シンシン」ではなく、中国名の「ビーリー」「シエンニュ」と呼んでいる。(筆者撮影。写真のスライドの内容は上野動物園が作成。以下同)

上野動物園で飼育しているパンダ1頭に対し1日にあげるエサ。パンダの食べ具合を見て、給餌量はこまめに変えている。

「パンダが何を基準に竹を選んでいるのか、味なのかにおいなのか、まだ分かっていないため、私たちはどんな竹を好んで食べているのか常にチェックすることが大切です」と飼育係は話します。

 上野動物園にいるパンダの竹の好みは、季節、時間帯、場所、竹の節の数などで変わるそう。例えば、室内よりも屋外、午前よりも午後(夜間を除く)のほうが竹を見る目が厳しくなりがちです。

 そこで飼育係は、パンダが「よく食べそう」「まあまあ食べそう」「あまり食べなさそう」と竹をランク付けして、屋外では室内よりも高いランクの竹を多めに与えるなどしています。竹の組み合わせも考えます。低いランクの竹だけを与えても、パンダはあまり食べませんが、高いランクの竹と組み合わせれば「良い竹を食べた後の勢いで調子がついて、単体ではあまり食べてくれなさそうな竹も食べてくれることがあります」(飼育係)


上野動物園にいるパンダの竹の好み。季節や個体などによっても好みは異なる。

竹の組み合わせも考えてパンダに与える。

シャオシャオに異変?

 パンダの観察も飼育係の大切な仕事。普段の様子や行動をしっかり知っておき、観察しながら疑問を持つことを大切にしているそうです。

 例えばこんなことがありました。いつもなら飼育係が作業を始めるとすぐ起きてくるシャオシャオが、ある日の朝はまったく起きてこなくて、飼育係は不思議に思っていました。少し様子を見てから声をかけても、シャオシャオはぼんやりしています。さすがにおかしいと思った飼育係は獣医師に伝えました。すると数時間後、シャオシャオは普段より粘膜の多い糞を出したら、ケロッとした様子で元気になりました。「幸い大事に至りませんでしたが、朝の小さな疑問が体調の変化に気づくきっかけになりました」と飼育係は振り返ります。

 飼育係はパンダの24時間の行動を「休息」「活動」「採食」に分けて1分ごとに記録しています。このほかマーキングや水浴びなども記録します。これを毎日4頭分行うのは大変ですが、普段の健康管理だけでなく、交配のタイミングの見極めにも役立っているそうです。


「休息」「活動」「採食」の3項目に分けて1分ごとに記録している。

糞は全て集めて重さを記録

 衛生管理にも気をつけます。パンダ舎が汚いとパンダが病気になる恐れがあるため、毎日しっかり清掃し、週1回は消毒します。

 清掃時に飼育係が注目するものがあります。糞です。糞の形や量やにおいには、健康状態を知るための情報が詰まっています。「ほかの動物では、あまりやらないと思いますが、私たちは清掃の際にパンダの糞をすべて集めて、その重さを記録しています」(飼育係)。パンダの消化器官は短いので、繊維質の多い竹は2割ほどしか消化できず、約8割はそのまま出てきます。つまり糞の重さが分かれば、大まかな採食量を把握できるのです。


観覧通路の近くで竹を食べるシャンシャン(2023年2月19日、上野動物園)

 一方で、パンダの見せ方にも気を配ります。観覧者がパンダを見やすいように、竹は観覧通路の近くやパンダが正面を向く場所などに置きます。また、パンダは座ったり寝転んだりして食べることが多いので、擬木(ぎぼく)・擬岩(ぎがん)の近くなどパンダが食べやすい場所に竹を置くようにもしています。

 パンダの好物のリンゴやパンダ団子を擬木に置いて、木登りの行動を引き出すこともあります。これは、パンダは木に登るのが上手だと観覧者に知ってもらうとともに、パンダにも良い刺激になっています。


擬岩にもたれかかって竹を食べる双子のシャオシャオ・レイレイと観覧者。(2023年6月23日)


中川 美帆 (なかがわ みほ)

パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(11カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。
@nakagawamihoo


パンダワールド We love PANDA

定価 1,650円(税込)
大和書房

文・撮影=中川美帆

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