「給料泥棒の自覚ないの?」上司のパワハラで退職を決意。人事部から「退職金上乗せ」の提案がありましたが、応じてよいでしょうか? 注意点はありますか?
ファイナンシャルフィールド / 2023年10月29日 2時10分
上司のパワハラで体調を崩し、勤め続けることができなくなったとき、会社から退職金を上乗せすると提案される場合があります。自身の自由な意思による退職ではないため、会社からそのような提案があったらありがたいと思うかもしれません。しかし、失業手当の面から考えると気をつけなければいけない点があります。 本記事ではその注意点を解説します。
退職時の「失業手当」は退職の事由で大きな違いがある
失業保険(雇用保険)は、労働者が退職した場合などに、労働者の生活および雇用の安定を図るとともに、その就職を促進することを目的とした制度です。
会社を退職したときには、雇用保険の「基本手当」(失業手当)がもらえるので、ハローワークで手続きをします。ただし失業手当は、退職の事由により給付期間や給付制限などに大きな違いがあります。
退職の事由は大きく2つにわかれる
失業手当を受け取るための資格は退職事由により大きく2つにわかれます。
自分の意思で退職する「自己都合退職」と、倒産・解雇などやむを得ない事情で離職を余儀なくされた場合です。一般に「会社都合退職」といいますが、雇用保険では「特定受給資格者」「特定理由離職者」という言葉が使われます。
「特定受給資格者」は、会社の倒産や解雇で職を失った者のことです。
パワハラ退職もこの「解雇」の1つとして扱われます。すなわち、「上司、同僚等からの故意の排斥または著しい冷遇もしくは嫌がらせを受けたことによって離職した者」です。
「解雇」には、それ以外にも賃金不払いや劣悪な労働環境、退職勧奨など広い範囲の事由が含まれます。
「特定理由離職者」は、有期契約の労働者で労働契約が更新されなかった場合、および「正当な理由による自己都合退職者」です。個人や家族の事情など広範な事由が含まれます。
退職の事由で失業手当給付の内容が大きく異なる
自己都合退職と会社都合退職とでは、失業手当給付の内容が大きく異なります。
失業手当は「基本手当日額(離職以前6ヶ月の賃金の平均日額×50~80%)」を何日分もらえるかということで、給付額が決まります。
被保険者期間(勤務期間)が10年未満の場合、自己都合なら一律90日分です。
しかし、解雇などの「特定受給資格者」などは、被保険者期間5年から10年未満で離職時年齢が 30才未満なら120日分、30才から35才未満なら180日分など、大きな違いが出てきます。
図表1のように年齢や勤続年数次第で、違いはさらに大きくなります。
図表1
厚生労働省ハローワーク 離職された皆様へ
しかも、図表2のように自己都合の場合、給付までに2ヶ月から3ヶ月の「給付制限期間」があります。この間は失業手当を受け取れません。
パワハラ退職なのに、会社から「少し退職金を上乗せするから、自己退職扱いで」と言われても、うかつに応じるのは問題です。なぜなら失業手当の額が少なくなる、受け取りが遅くなるなどの不利益が生じかねないからです。
図表2
厚生労働省ハローワーク 離職された皆様へ
失業手当を受ける手続きには基本的な注意点がある
自己都合退職・会社都合退職を問わず、失業手当を受けるには、会社から「雇用保険被保険者離職票」(以下、離職票)をもらって、ハローワークで手続きをする必要があります。
会社は、従業員が退職したときに雇用保険被保険者の「資格喪失届」「離職証明書」をハローワークに提出します。その後、会社はハローワークから離職票を受け取り、退職者に交付するという流れです。
離職票には会社の離職証明書に基づいて離職理由が記載されています。
例えばパワハラ離職なのに離職理由が「自己都合」とされていたら、ハローワークにパワハラによる離職であったことを申し出ましょう。離職理由の判定は、ハローワークが会社および退職者の主張に基づき、事実を確認して決定します。会社だけの主張で決まるわけではありません。
なお、会社が離職票を交付してくれないと失業手当の手続きができません。そのような場合は、退職者がハローワークに請求して離職票を出してもらうこともできます。
会社が自己都合退職を勧めるのは会社の勝手な事情による
パワハラに限らず、実際は会社の事情による退職なのに、会社が退職者に自己都合退職とするように勧めることがあります。解雇や会社都合といった理由の離職者がいると、厚生労働省の助成金がもらえなくなるといった事情があるためです。
「退職金を少し上乗せする」などという甘言には裏があるのです。
自分の意思に反する退職にはしっかりと立ち向かおう
パワハラ退職や賃金不払い、劣悪な労働環境、退職勧奨などでやむなく退職するという場合には、労働者を守るために、雇用保険の失業手当などで適切な配慮が行われます。
会社の説明に疑問を感じたら、ハローワークなどの公的機関に相談しましょう。
そうすることで、自身だけではなく会社の就業環境の改善にもつながっていくでしょう。
出典
厚生労働省 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準
厚生労働省ハローワーク 離職された皆様へ
ハローワークインターネットサービス 雇用保険の具体的な手続き
埼玉県 会社が離職票を交付してくれない
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー
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