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あんなに苦労して借入したのに…アパートローンを「借りっぱなし」にした地主の末路【元メガ・大手地銀の銀行員が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月7日 10時15分

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(※画像はイメージです/PIXTA)

王道な相続対策として、ローンを組んで賃貸用アパートを購入・建築する手法があります。ローンを組んだどきは大変でも、時がたてば、あのときの苦労などどこ吹く風……借りた本人が、自身の借入状況を忘れ去り、「借りっぱなし」状態となっているケースは多々あります。では、もしそのような状況下で相続が発生した場合、被相続人にどのような影響が出るのでしょうか。そもそも相続対策であったはずが、本末転倒です。本記事では、借りっぱなし状態のアパートローンの危険性について、ティー・コンサル株式会社代表取締役でメガバンク・大手地銀出身の不動産鑑定士である小俣年穂氏が解説します。

ローンを借りるのに苦労したのに…

不動産を購入するとき、不動産を建築するとき。

すでに融資取引のある銀行がない場合、いろいろな金融機関に相談を行い、金融機関から依頼のあったさまざまな資料を提出し、融資承認を受け、やっとのことで資金調達……そんな苦労をしたことがないだろうか。

その際には、金利がいくらか、ローン期間は何年か、担保は当該不動産のみで問題ないか、など不動産の収支計画と一生懸命にらめっこをして、最終的に意思決定を行い、借り入れたはずである。

その後、1年ほど過ぎて家族や友人に「この物件のローン金利はいくらなの?」「残りのローンはいくらなの?」「あと何年で完済するの?」「固定金利、変動金利のどちらで借りてるの?」などと不意に聞かれた際に、「うーん、たしかあのローンは……」という反応になるのがほとんどであると思われる(なかには即答できる方もいると思うが)。

そのような「借りっぱなし」の状況において、相続が発生した場合はどうなるだろうか。

当然、本人もいまいちよく把握していないローンのことであるから、相続人においてはなにがどのようになっているのかを紐解いていくのは非常に困難であろう。

ましてや、相続税の納税は10ヵ月以内と非常にタイトであるし、その間に法要や役所、銀行への諸手続き、準確定申告、相続人の確定から遺産分割協議の成立など相続人が対応しなければいけないことが目白押しである。

日々の仕事をしながら、相続の対応を進めていくとなると心身ともに大きな疲労がたまるし、相続人同士の話し合いにおいては、それぞれの配偶者も参戦した争奪戦になる可能性も大いにある。

せっかく、次世代のためによかれと思って取り組んできた対策についても、相続人の負担となってしまっては元も子もない。

そもそも「アパートローン」とは?

アパートローンは、ほとんどの金融機関(メガバンク、地方銀行、信託銀行、信用金庫、生命保険会社など)の融資商品のラインナップに入っているものである。名称は、「アパートローン」や「不動産投資ローン」などさまざまあるが、ここでは多くの金融機関で使われている「アパートローン」とする。

アパートローンの資金使途は不動産の購入資金または不動産の建築資金、あるいは既存のアパートローンの借換資金である。

地方銀行や、信用金庫においては、アパートローンは主力商品としての位置付けであり、地方の金融機関が不動産価格の高い首都圏に敢えて支店を出して取組しているところもある。

アパートローンは金融機関が不動産を担保に融資を行うという基本的な商品構造であるが、それを構成する要素を抽出すると図表1のとおりとなる。各金融機関によって、当該構成要素に工夫を凝らしながら、他行他社との差別化を図っている。

そのうち、借入人としての立場から最も重視する項目が「金利」「融資額」「返済期間」の3点であり、相続人などが気にする点も同様であろう。

しかし、軽視されがちであるほかの項目についても非常に重要であり、相続対策の策定にあたっては適切に把握しておくことが大事である。したがって、図表1の「確認事項」に記載した事項については、それぞれ明確に把握のうえ整理しておく必要がある。

また、一般的になじみのない言葉かもしれないが団体信用生命保険(略して「団信」ともいう)とは、借入人個人が死亡した場合などに保険によりローンが完済される仕組みである。

団信に加入する場合には銀行から提示された金利に一定割合(おおむね0.3%程度)上乗せする形で支払いがなされる。アパートローンによる相続対策の観点では意図的に団信に入らないケースが一般的であるが、金融機関から団信の加入を融資条件とされる場合もあり得る。

なお、余談ではあるが住宅ローンにおいては団信への加入はほとんどのケースで必須である。

住宅ローンの場合は、ローンの返済原資(どのお金でローン返済をするかを「返済原資」という)を借入人個人の給料に依存しており、借入人が死亡や大病を患い仕事ができず給料が大きく目減りした場合にローン返済が困難になるためである。

※アパートローンの場合、保険金支給の要件として死亡がほんどであるが金融機関によっては三大疾病への罹患などででも支給されるものもある

一方、アパートローンの場合には、不動産の賃料収入を返済原資としていることから団信の加入は任意となる。もちろん、金融機関の融資審査においては不動産収入にストレスをかけて(たとえば賃料×70%など)賃料収入の下落が発生した場合でも返済が可能か否か検証を行う。

不動産収支に影響の大きい解約金について各金融機関で取扱が大きく異なっており、数千円から数万円の手数料のケースや、返済額に対して例えば2%を乗じた額とするケース、一定期間は料率による計算で手数料がかかるが、一定期間経過後は少額の定額手数料へ変更となるケースなどさまざまである。

これは、各金融機関が他行他社への借換されることや短期間で売却されることなどを抑制させるために戦略的に決定しているものと思われる。

アパートローンの借入期間中は金融機関との関係を大切に

アパートローンは30年前後の長期の借入であることから、借入から完済までの間あいだにおいては金融機関との折衝が必要となるイベントが発生する。

主なイベントを整理すると図表2のとおりである。

最も頻度の高い事項としては確定申告書(または決算書)の提出であり、年に1度は金融機関の担当者と面談する。

これは、ローン債権の格付けを見直すことが主な目的であるが、借入人の現状を把握することや、タイミングがあえば新任担当者の引継ぎ挨拶を行うことも目的としている。

金融機関の担当者は一般的には3年前後で異動することが多く、アパートローンの借入期間中(30年として)には単純に割っただけでも10人程度が担当することになる。

また、ソリューション営業に力を入れている金融機関であれば、この面談時において承継についての提案や、生命保険や新NISAによる資産形成についての提案、融資余力のある顧客であれば追加不動産の購入や建築の提案などを実施する。

また、本件のメインテーマである相続発生時においては相続人がローンを承継しなければならない(団信加入の場合は別)。これを「債務引受」という。

債務については原則法定相続割合に応じて各相続人が承継するが、遺産分割協議により代表した承継者を決定し金融機関の承認を受けたうえで手続きをおこないローンの承継が完了する。

細かい点では、ローンの返済を維持していくために賃貸収入の受取口座を変更したり、電気や水道、諸経費の引落口座を変更したり、登記を変更したりと諸々の手続きも必要である。

しかし必ずしもすべてが円満に進む訳でもない。場合によっては相続人が相続放棄を選択するケース、相続人間で争いが発生し遺産分割協議が成立しないケースもあるかもしれない。そのようなケースでは不動産を売却しローンを完済するということにもなりかねない。

このようなケースが発生する要因の1つとしては、相続人が被相続人の資産および負債を正確に把握していないことにあると思われる。

相続発生後は上述の通り非常にタイトなスケジュールであり、また相続放棄の場合は相続発生後3ヵ月以内に家庭裁判所に申述が必要であることから相続人によっては「得体のしれないものを引き継ぎたくない」との思いもあるのではないだろうか。

まとめ:アパートローンが借りっぱなしになっていると…

・相続人がローンのことについてよくわかっていない ・借入した本人も、月日が経つと内容を正確に答えられなくなっている ・不動産経営においてはローンに対する戦略(繰上げ返済をするか、固定金利をどのように選択するか、元利均等返済がいいのかなど)が重要であるが、意思決定ができず現状維持になってしまう ・相続発生時に相続人が資産負債の全体像を把握できていないことから、争いになったり相続放棄につながりかねない ・相続人は仕事をしながら10ヵ月のタイトな相続手続き中において資産や負債について一から調べたり纏めたり相続人間で分割協議をしたりと、心身ともに負担がかかる

アパートローンの借りっぱなしには、これだけのデメリットがあるのだ。決してほったらかしにしてはいけないとわかるだろう。ちなみに、上記の課題を解決するための手法については、別の機会で説明したいと思う。

小俣 年穂

ティー・コンサル株式会社

代表取締役

<保有資格>

不動産鑑定士

一級ファイナンシャル・プランニング技能士

宅地建物取引士

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