私のパフォーマンス理論 vol.41 -勝利条件と戦略-
Japan In-depth / 2019年12月20日 7時0分
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
【まとめ】
最も大きな枠組みでは勝利条件があり、その下位に目標があり、戦略、戦術と降りてくる
勝利条件は、選手個人の価値観やビジョンになる
勝利条件から落としていく考え方は、残酷な側面も孕む
戦略は見えない。スポーツの勝利は現場で起きていることがわかりやすいが、現場では見えないところに戦略があり、戦略での失敗は現場の戦術レベルでは覆せない。陸上競技はあまり戦略を意識することが少ないスポーツだが、それでも重要性は変わらない。戦略とは決められた目標の戦い方の大きな方向性であり、戦う場所と言ってもいいかもしれない。最も大きな枠組みでは勝利条件があり、その下位に目標があり、戦略、戦術と降りてくる。具体的には、
勝利条件→何を成し遂げるか
目標→具体的なターゲット
戦略→ターゲットを打ち抜くための方向性
戦術→具体的な方法
は先ほども言ったように戦略での失敗は戦術では覆せなく、目標の失敗はそもそも違うところに選手を連れていってしまう。勝利条件の違いでわかりやすい例で言うと、松井選手が甲子園で全打席敬遠したことだ。敬遠することが正しいかどうか議論があったが、正しいかどうかは勝利条件で決まっている。つまり、大きく分けるとチームの勝利条件は純粋な勝利の追求か、それとも甲子園の文脈に則った上での勝利の追求かだ。一般ファンは娯楽で見ているのでごちゃ混ぜでもいいが、競技者は、戦略が間違えていたのか、それとも目標か、または勝利条件かを分けて議論しなければならない。特に勝利条件が定まっていないと、結果が出た後後出しジャンケン的に自己批判することになるので、避けたい。
戦略が戦術では覆せないことを示す為にもう一つ例を示すと、男子日本代表の4×100mリレーだ。2008年にメダルをとってから今ではもはや常連のようになってきた。分岐点は2000年にアンダーハンドパスという当時主流ではないバトンパスを採用したところだったと思う。これにより、日本は技術を向上させ優位に立ち常連国になった。もしオーバーハンドバスを採用していたら、結果は違ったように思う。つまりバトンパスを洗練させるという下位での活動が活きるかどうかは、もっと上位の戦略で決まっている。間違えた戦略の上で戦術レベルが頑張るとむしろ間違えたと思ったときに変更しにくくなる。
勝利条件は、言い換えれば選手個人の価値観やビジョンになる。自分はどんな競技人生を送りたいか。何を成し遂げたいのか。これを言語化したものが勝利条件だ。私は高校時代に100mから400Hに移ったときに、ノートで両者を比較をした。いろいろと書き連ねたが最終的には、勝ち目は薄いが好きな100mか、好きではないが勝ち目がある400Hか、どちらをえらぶかという問いに行き着いた。それはつまり、好きなことを追求するという内面の感性にコミットした勝利条件か、世界でより高いところに行くという客観的に評価可能な勝利条件かの違いだったと思う。私は後者を選んだ。まとめると以下のようなものだったと思う。戦術は1999-2001年で採用していたものだ。
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