「石原さんとの私的思い出9」続:身捨つるほどの祖国はありや25
Japan In-depth / 2022年12月14日 23時0分
「人を探すって物語ってのは面白いんだよね。
戦前の本だけど、『デミトリオスの棺』っていう、エリック・アンブラっていう作家が書いた本がある。いろいろな人に訊きまわって、或る男のことを探す話なんだ。」
昔のスパイ小説として名高い本だ。私は本の名をメモしてくるくらいだから、教えてもらって直ぐに買ったに違いない。しかし、直ぐに読んだのかどうかおぼえていない。いずれにしても、いま手元にあることは確かなのだろうが、たくさんの蔵書のどこに埋もれているものやら見当もつかない。
その次は、記憶の限りでは2005年4月12日に飛ぶ。
逗子からの電話だった。朝の10時3分にかかってきた。
私がすぐに取れなくて、かけ直させていただいたのはこの電話だったような気がする。
石原さんは「この電話、リビングでとったから、いまから書斎に移動します。あなたとはゆっくりと話したいので。」と言って、いったん電話を切られた。その日は火曜日だったから、あるいは風邪気味で自宅で休んでいると言われたときのことだったのだろうか。
のっけから、「人間の絡み合いなんだ。男と女。」
いつもの調子だった。
「竹中とかサントリーみたいなちゃんとした会社でね。
ところが、持ち株が知的ヤクザに流れてしまって、会社に踏み込んでくるんだ。
他の会社とバーターにしと、とか要求されてね。
土地の交換の差額を隠れて裏金で払うっていう念書が、その知的ヤクザに渡っちゃうんだな。」
と3年来のテーマの話である。
公務が忙しくて、なかなか執筆の時間がとれなくて苛々しているのだろうなあ、と同情をしながらお話をうかがった。
「三宅島の災害を背景にしている。
乗りこんできたのは切れ者のヤクザでね。問題の大企業の奥さんと幼ななじみなんだ。
その切れ者自身は、親分の娘と結婚している。
会社を脅す手段として、わざと生ものを送ってきたりしてね。
子会社を作って、そこを勝手にさせろとか、その子会社に工場を造らせるとか、言いたい放題さ。
こっちは、なんとか念書を取り戻そうと必死なんだな。」
私は、
「念書さえ取り戻せば助かる、と思っているという設定なんですね」
と答えた。
三宅島と聞いて、私は『男の海』に出てくる三宅島のことを思い出していた。「三宅島という恋人に遭遇出来て幸せという他ない」(同書121頁)と30代の石原さんが書いている。その恋人とのできごとなのか、と思いながら、電話の向こうの石原さんと問答していた。
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