平成13年の年賀状「車と私」・「人の心と会社経営」
Japan In-depth / 2023年5月10日 11時0分
この事務所はもちろんリーダーズ・ダイジェスト側であった。決して訴訟実務に長けていたというわけではない。おそらくアメリカの本社が迷うことなく選任したのが私が所属することになった弁護士事務所だったのであろう。事務所にアソシエートとして入ったばかりだった私は、検事をやっていたのだから供述書が書けるだろうということでチームの一員に選ばれたのだった気がする。私がリーダーズ・ダイジェスト社の従業員の方の陳述書を作成するためにいろいろ質問をしたのを、その方が「味方の弁護士のはずなのにまるで取り調べのようだ」という苦情を、私の上司であるパートナーに言い立てるという一幕もあった。
出身高校の東京での同窓会で三大紙の一つの敏腕記者の方と話していたら、社会部でこの件を取材しているとのことで、リーダーズ・ダイジェストがおかしいよと言われたことが印象に残っている。それまで検事だった身には、おまえは変なことをやっていると言われたこと自体が心外だったのだ。
この方は高校の3年先輩で、この件の後もいろいろな事件が起きるごとにお世話になった。
「オマワリとブンヤはツブシが利かない」という言葉があるが、その最良の意味で新聞記者とはこうあるべし、という見本のような方だった。
その記者の方は、時代は下ってバブルの時代、『煮えたぎる乱銭列島』という題での連載記事を書いておられ、そのうちの一回として当時私が携わっていた仮処分事件を取り上げてくれたことがあった。
「俺が書くときは、こんなじゃないからな」と言って両手の人差し指と親指で四角をつくり、「これくらいにはなるんだよ!」と左右の二つの指でつくった四角を大きく引き伸ばして見せてくれた。そのとおりだった。それが、その連載記事だったのだ。裁判所の心証に大きな影響を与えたと思っている。大成功だった。私が裁判官とメディアの関係に目覚めた最初の事件だった。
最近、非上場の少数株主対策という講演をした。そのなかで、私は、「非上場の場合は、会社の株の過半数を持っていなくてはいけない。」と力説した。「特に、番頭的存在のナンバーツーが危ない」と説明した。私自身の職業的経験に基づいての解説なのだ。似たような件をいくつもやってきているのである。番頭だからとトップは気を許して使っている。怒鳴りつけなくてもなんでも言うことを聞く。しかし、気の利いた番頭は株を手に入れれば会社を乗っ取ることができると知っているのだ。番頭という言葉が流行らないということなら、管理畑の専務と言ってもいい。そういえば私の最初の小説『株主総会』の主人公は総務部の次長だった。創業者が技術者あるいはセールスのプロといった会社の場合は、経理や総務と言った仕事をバックオフィスの仕事とし、軽い扱いにしてしまう。その結果、そうした仕事は番頭に任せがちになるものなのだ。
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