平成24年の年賀状「リチャード・W・ラビノウィッツ先生のこと」・「様々な葬儀のこと」
Japan In-depth / 2023年9月13日 13時45分
ラビノウィッツ先生は人生を楽しんでいたのだろうか?時間が空くと気軽に若い日本人弁護士に声をかけ、運転手さん付きの白いトヨペット・クラウンでアメリカン・クラブへランチに乗せて連れていってくれた。そして、「僕はね、若いときには学者になりたかったんだよ。そのために勉強していてね、それはそれは楽しかったな」と何回か言われた。週末ごとに山中湖の別荘で樵のまねごとをしているのだと噂を聞いたこともあった。
ラビノウィッツ先生に弁護士業の手ほどきを受けた私だが、学者になりたいと思ったことはない。もちろん樵のまねごとはしたこともない。すると、私は人生を愉しんだことはないということになるのだろうか。確かに私にとって仕事は、家族を養うための金を稼ぐことと自らの能力の証明のためにあった。その他の時間は?仕事をしない時間は、すなわち罪を犯している時間だという潜在意識がいつも付きまとっていた。まるでマックスウェーバーのプロテスタンティズムの倫理である。
10代のころ、人生は東大に入ったその後から始まる。どんな人生が?そいつは東大合格以前に考えても意味のないことだ。そんな風に考えて受験勉強をしていた。すると、昭和44年、1969年には東大入試が中止になってしまった。
私は今も人生を見つけたという気がしていない。そもそも人生というものが、そのように、見つけることのできるものとしてこの世に存在し得るのかどうか。それすらも分からない。
私にとって確かなことは、目の前の仕事を片付けるのは罪の意識を免れる唯一の方法であるということである。鷗外流に言えば「日の要」ということになるのだろう。或いはこれも一種の人生観ということになるのだろうか。はた迷惑な人生観なのかもしれない。
幸いなことに、罪の意識は一定時間働けばその後つかの間だけは消える。私は、その間に、時間を盗むようにして文章を書くのである。
『様々な葬儀のこと』
【まとめ】
・いつも、なにかしらが起きていて、誰かしらにお世話になっていて、誰かしらに不本意ながらご迷惑をかけて、生きのびて来ている。
・いろいろな葬儀に出席したが、いろいろな物語があった。
・コロナになってからは葬式というものが流行らなくなってしまった。これは過去の時代の物語。
おや、この年の年賀状には「昨年もいろいろな方にお世話になりました。」と2行目に書いている。一見なんのことはない数行である。一般的には年賀状にあって少しもおかしくない文言でもある。
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