平成24年の年賀状「リチャード・W・ラビノウィッツ先生のこと」・「様々な葬儀のこと」
Japan In-depth / 2023年9月13日 13時45分
しかし、私にはわかる。それまでの年賀状には見かけない記載であって、奇妙であることが。私の年賀状の書きぶりではない。記憶にはないのだが、きっとあの方とあの方に大変お世話になったという具体的な方々の顔を思い浮かべて、年賀状を通じて謝意を表したいと考えた末、敢えてそう書いたのだろうか。
もしそうなら、「お礼の申し上げようもありません」というほどのお世話になったということがあったに違いない。それなのに、もう思いだすことができない。ほんの12年前のことである。2011年になにがこの身に起きたのか。感謝しなければならないと強く感じるようなどんなことが起きたのか。
あるいは、面と向かってお礼を申し上げることがはばかられるような事情、たとえば私立学校の理事長に知り合いの入学の世話を頼んだら、合格となった、しかし、それは相手もそんなことで礼を言われてもなんのことか分からない振りをするしかない、と言ったたぐいのことだったのだろうか。
思い当たることはない。そんな真似をしたことはない。
では、なにを?
なにはともあれ、いつも、なにかしらが起きていて、誰かしらにお世話になっていて、誰かしらに不本意ながらご迷惑をかけて、生きのびて来ていることは間違いない。
それどころか、私のことを「あいつ死ねばいいのに」と思っている人も何人かいるのかもしれない。こちらには心当たりはないのだが、弁護士という仕事をしているから代理人に過ぎないにもかかわらず恨まれることは何回もあった。
そういえば、昔、若い検事だったころ、若い裁判官と話したことがある。彼が或る年配の検事を批判し、「あいつ死ねばいいのに」と非難の言葉を口にしたのだ。私が驚いて「え、裁判官がそんなこと言っていいの」と問い返すと、「いいんだよ。殺すとは言ってないだろう、死ねばいいと言っただけだ。それは許される範囲だろうさ」と答えた。私はその機知に納得し、大いに感心もした。あの男も、もう裁判官はしていない。
2011年の年賀状が存在しない理由は、2010年に父親が亡くなったからだ。95歳だった。喪に服して賀状を遠慮するのは、広く行われた慣習だった。喪に服するというからにはなにかの信仰のあってのことかというと、そういうわけでもない。ただ、世間でそれが行われているからというだけ事情だろう。
私の母親は2005年に亡くなった。87歳だった。だから2006年の年賀状も存在しない。
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