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「平成28年の年賀状」団塊の世代の物語(1)

Japan In-depth / 2024年1月12日 11時18分

「よう来ちゃったねえ。大木君、おひさしぶりじゃねえ。あんたあ、ちっとも変っとらんじゃないの」





受付を済ませ、30人、そのうち25人は女性たちのなかで、入り口近くのテーブルにぼーっと一人立っていた私をみつけ、そう声をかけてくれたのが二つ奥のテーブルにいた彼女だった。





私はノンアルコールビールのグラスを右手につかみなおすと彼女のいるテーブルに近寄り、軽く頭を下げて挨拶をした。彼女の手には飲みかけのシャンパングラスがあった。





「あなたは少しも変わらないね。驚いたな。」





もうここ2年はアルコールと縁がない身になっている。べつだん医者に止められたわけではない。ただ、酔っている状態がだんだんと生理的に嫌になったのだ。酔うと眠くなる。眠ると時間が過ぎる。残された時間を意識し始めた身にはアルコール嫌いはありがたい変化だ。





私の言葉は本音だった。彼女のテーブルに移るまでのあいだに、すこし脂肪のついた体形はさりげなくみてとっている。





「うちは、もうおばあちゃんじゃけん。それよりか、あんたよ。いったいなにをしとったらそうしてちーとも変わらんとおられるん?」





そう答えながら、手もとのシャンパンを飲みほしてみせた。





「子どもに子どもができれば、誰でもおばあちゃんと呼ばれるからね。でも、それは言葉のうえだけでのこと。中身はすこしもそうではない人もいる」





「そお。じゃ、まあそうしとこうか。ありがとう。」





微笑は少しも変わらない。





「でも、僕も自分じゃずいぶん身体がどこもかも弛んできたなとおもっているんだけどね。毎朝鏡をのぞくとそのたびに思いしらされる。最近は、あ、ここに、つまり鏡のなかに父親がいるなって感じることがおおいんだよ。僕は父親が35歳のときの子どもでね。だから74歳の父親にとって39歳の子どもだったのに、いまじゃこの僕が74歳だ」





「ううん、なに言うとるん、あんたはちっとも変わっとらんよ。」





「ま、大したこともしないでここまで来ちゃったからね」





私の口からは、なかなか広島弁がでてこない。





私たちのクラス、6年松組の花の女王がそこに立っていた。





おかしなクラスの呼称だった。松の次が竹、その次が梅、そして桜、藤、桃、椿と続く、1年上の学年などもう一クラスあって、杉組と呼ばれていた。





人は、身体にも顔にも歳を重ねたしるしが歴然としてはいても、瞳の輝きだけは決して歳をとらない。大きなバラの花がいくつもおどっているピンクとグリーンの太い横じまのワンピースに包まれている。足もとにはワインレッドのオープントウパンプスが輝き、アウトソール、靴の裏の真っ赤な色がときどきチラチラと目を引く。





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